ゆとり教育は失敗だった?なぜ批判されるのか
「ゆとり教育」の内容をあらためて見ると、子供1人1人を尊重した教育内容のように思う人もいるでしょう。しかし実際は反対の声も多く上がりました。「ゆとり教育」はどうして批判されてしまうのでしょうか? 3つの観点から批判の理由を考えていきましょう。
勉強量を減らしたことによる漠然とした不安
ご紹介した通り、「ゆとり教育」では各学年で大幅な授業時間が削減されています。これだけ多くの勉強時間が減ってしまうことに対して不安な声が上がるのは、自然な流れであると言えるでしょう。
授業時間が減らされたことによって、指導の内容が簡略化された科目もあります。京都情報大学院大学の江見圭司准教授は「ゆとり教育」で簡略化された算数の授業内容について、以下のように述べています。
よく知られるのは,小学校で円周率が3.14ではなく3と教えるというものである。これはマスコミがたたきすぎたために,教科書の方では3.14で教えても検定合格になった。
(引用元:ゆとり教育で不足した学力はどこで補完するのか ~社会人になるために~|アキューム)
「ゆとり教育」への転換は、多くのメディアが注目し日々報道していました。子供の個性を伸ばすという目的はもちろん、授業が削られることについても多く報じられていました。結果として、「詳細はよく分からないけれど、授業が減って内容も薄いらしい」などのようなイメージを与えてしまったのかもしれません。
「PISAショック」による日本の学力低下
「ゆとり教育」が批判される原因の1つに「PISAショック」が挙げられます。PISAとは経済協力開発機構(OECD)に加盟する国の15歳の子供を対象とした、国際的な学力調査のことを指します。
2000年に始まったPISAでは、日本の子供たちは良いスタートダッシュを切りました。初回のテストでは全32ヶ国中読解は8位、科学は2位、数学はなんと1位を取ったのです。
しかし3年後に行われた第2回のPISAにおいて、その成績は大きく下降してしまいました。読解は14位へ、数学は6位へと順位を落としてしまったのです。
この結果が「ゆとり教育」にもたらした影響について、教育テスト研究センターは以下のように述べています。
2004年12月に公表されたPISA2003の結果を受け,当時の中山文科相が「学力低下」を公式に認めたことによって,学力低下論争に事実上の終止符が打たれ,ゆとり教育から学力向上へと正式に舵が切られることになった。
(引用元:PISA で教育の何が変わったか~日本の場合~ |教育テスト研究センター)
2003年は「ゆとり教育」が実施されて2年目の年でした。そのためPISAショックの原因がすべて「ゆとり教育」のせいかと問われると、根拠はないかもしれません。しかし当時の文部科学大臣が学力低下を認めたことから、PISAショックは「ゆとり教育」が引き起こしたものだとされたのです。
PISAやOECDの仕組みについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
PISA(OECD生徒の学習到達度調査)で分かる日本の教育問題
OECD(経済協力開発機構)とは?活動内容・加盟諸国をご紹介
ゆとり教育で目指した変化が測りにくい
「ゆとり教育」が子供に身につけさせようとした「生きる力」には、以下のようなものが挙げられていました。
[生きる力]について,同答申は「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして,「たくましく生きるための健康や体力」を重要な要素として挙げた。
(引用元:学習指導要領等の改訂の経過|文部科学省)
これらの能力は学力テストの結果では判断できず、数値化して評価することが難しい能力です。判断する人によって捉え方も変わってしまいます。したがって子供に「生きる力」が身についたかの判断が難しく、「ゆとり教育」の効果を測る判断基準が不明確だったと言えるでしょう。