【失敗だった?】ゆとり教育の内容と子供にもたらした影響とは

【失敗だった?】ゆとり教育の内容と子供にもたらした影響とは

「ゆとり教育」と聞くと良くない印象を持つ人もいるでしょう。しかし「ゆとり」教育を受けた世代は幅広く、実は自分の子供も「ゆとり世代」を受けているのかもしれません。どうして「ゆとり教育」は批判されるのでしょうか? 当記事では教育の内容と、「ゆとり教育」が子供にもたらした影響についてご紹介します。

ゆとり教育とはどんな教育?背景と内容を整理しよう

「ゆとり教育」という言葉は知っていても、教育の内容までは知らないという人も多いでしょう。まずは「ゆとり教育」の内容と、どんな背景を持って生まれた教育かをご紹介します。

ゆとり教育が行われるようになった背景

「ゆとり教育」の始まりについては、実は諸説あります。特に多くの人々に支持されているのが、1998年の学習指導要領の改定が反映された教育を指す説です。

学習指導要領の改定の内容に影響を与えた機関の1つに、教育課程審議会があります。審議会では幼稚園から高校、そして特別支援学校等を含む学校の教育の改定のポイントについて、以下の4点を挙げています。

① 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚の育成を重視すること。
② 多くの知識を一方的に教え込む教育を転換し,子どもたちの自ら学び自ら考える力の育成を重視すること。
③ ゆとりのある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育の充実を図ること。
④ 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。

(引用元:学習指導要領等の改訂の経過|文部科学省

学校は勉学を学ぶだけではなく、子供個人の力を伸ばす場所であるべきだと提言しています。この内容を受けて、文部科学省は1998年に学校教育法施行規則を改定し、学習指導要領を全面改定しました。この改定時に盛り込まれていた教育内容こそが、「ゆとり教育」と呼ばれる教育なのです。

いつからいつまで?ゆとり教育を受けた世代

「ゆとり教育」を受けた世代は幅広い年代に及びます。改定された学習指導要領の教育内容が実施され始めたのは2002年のことです。

しかし、「ゆとり教育」は長くは続きませんでした。開始から6年後の2008年には、再度学習指導要領が改定されます。その後3年の移行期間を経て、2011年には新しい学習指導要領にのっとった教育が始まりました。「脱ゆとり」を目指した教育へと転換されたのです。

「ゆとり教育」を受けた世代は、2002〜2011年の間に小学生から高校生だった子供たちが含まれます。移行期間を含めるとその年代は非常に幅が広いです。下は2003年度生まれから、上は1987年度生まれまでが「ゆとり世代」であるとされます。2018年現在で、15〜31歳の人々が「ゆとり教育」に関わった世代ということになります。

具体的にどう変わった?ゆとり教育の内容

「ゆとり教育」は具体的にどのような点がそれまでの教育と異なるのでしょうか? 今回はゆとり教育の主な内容について3つご紹介します。

(1)科目ごとの授業数が変化!理数科目は減少へ

「ゆとり教育」は個人の力を高め、「生きる力」を育むことを目的に実施された教育です。勉強だけではなく、家庭や生活のなかでも子供の力を伸ばすことを目指していました。

勉強以外のことに充てる時間を増やすために、授業数が減らされました。前掲の文部科学省の学習指導要領の改定の経過についての資料には、以下のような記述があります。

従前より各学年とも年間70単位時間(第1学年にあっては68単位時間),週当たりに換算して2単位時間削減すること

(引用元:学習指導要領等の改訂の経過|文部科学省

ゆとり教育が始まる前の年よりも、各学年で約70時間の授業が減らされたのです。週当たりでは2時間の削減ですが、義務教育全体を通すと大幅な授業時間が削減されたことになります。

なかでも理数科目や社会は、国語に比べてもともとの授業数が多くありませんでした。限られた時間の中で教えていた内容を、さらに絞った授業が展開されるようになったのです。

一方で小学3年生以上には「総合的な学習の時間」という科目が追加されました。勉学の時間を減らして「ゆとり」を生み出し、個性を伸ばす時間をとることを目的としていました。

(2)土曜日が休みに!完全週休2日制の導入

2002年から始まった「ゆとり教育」の内容の1つには、完全週休2日制の導入も含まれます。1990年代から学校の土曜休みは徐々に制度化され、2002年からは平日週5日間を登校日とする「完全学校週5日制」の体制が築かれました。

土曜の学校を休みとすることについて、文部科学省に設置された中央教育審議会では以下のように述べています。

今日の子供たちの生活の在り方を省みると、子供たちは全体として[ゆとり]のない忙しい生活を送っており、様々な体験活動の機会も不足し、主体的に活動したり、自分を見つめ、思索するといった時間も少なくなっているというのが現状である。

(引用元:第5章 完全学校週5日制の実施について|中央教育審議会

子供たちの日常生活には「ゆとり」がなく、個々の力を伸ばすことが困難になっていると考えられました。したがって土曜を休みとし子供に時間を確保してあげることは、大人の務めであるとされたのです。

また土曜が休みとなったことは、授業時間数の減少にも影響しています。文部科学省は勉学の時間を削ることで、放課後や土日の時間を子供が自分の時間とすることを願ったのです。

(3)評価方法も変化!相対評価から絶対評価へ

個人の力を認めるという点においては、成績の評価方法も変化しました。2002年ごろより「絶対評価」で成績が評価されるようになったのです。絶対評価とは目標への達成度に準拠した評価方法です。例えばテストで90点以上をとった生徒は全員評価が「5」となるなど、評価の基準がある程度明確になっています。

絶対評価を導入した理由について、文部科学省は5つの理由を挙げています。そのうちの1つには以下のような解説が述べられています。

児童生徒一人一人の進歩の状況や教科の目標の実現状況を的確に把握し、学習指導の改善に生かすことが重要であるが、そのためには、目標に準拠した評価が適当であること。

(引用元:学習指導要領について|文部科学省

「ゆとり教育」は個人の力を伸ばすことをねらいとしています。個々の状況を正確に把握することが、子供の能力を引き出すためには必要だと考えられたことから絶対評価制度が導入されたのです。

ゆとり教育は失敗だった?なぜ批判されるのか

ゆとり教育は失敗だった?なぜ批判されるのか
「ゆとり教育」の内容をあらためて見ると、子供1人1人を尊重した教育内容のように思う人もいるでしょう。しかし実際は反対の声も多く上がりました。「ゆとり教育」はどうして批判されてしまうのでしょうか? 3つの観点から批判の理由を考えていきましょう。

(1)勉強量を減らしたことによる漠然とした不安

ご紹介した通り、「ゆとり教育」では各学年で大幅な授業時間が削減されています。これだけ多くの勉強時間が減ってしまうことに対して不安な声が上がるのは、自然な流れであると言えるでしょう。

授業時間が減らされたことによって、指導の内容が簡略化された科目もあります。京都情報大学院大学の江見圭司准教授は「ゆとり教育」で簡略化された算数の授業内容について、以下のように述べています。

よく知られるのは,小学校で円周率が3.14ではなく3と教えるというものである。これはマスコミがたたきすぎたために,教科書の方では3.14で教えても検定合格になった。

(引用元:ゆとり教育で不足した学力はどこで補完するのか ~社会人になるために~|アキューム

「ゆとり教育」への転換は、多くのメディアが注目し日々報道していました。子供の個性を伸ばすという目的はもちろん、授業が削られることについても多く報じられていました。結果として、「詳細はよく分からないけれど、授業が減って内容も薄いらしい」などのようなイメージを与えてしまったのかもしれません。

(2)「PISAショック」による日本の学力低下

「ゆとり教育」が批判される原因の1つに「PISAショック」が挙げられます。PISAとは経済協力開発機構(OECD)に加盟する国の15歳の子供を対象とした、国際的な学力調査のことを指します。

2000年に始まったPISAでは、日本の子供たちは良いスタートダッシュを切りました。初回のテストでは全32ヶ国中読解は8位、科学は2位、数学はなんと1位を取ったのです。

しかし3年後に行われた第2回のPISAにおいて、その成績は大きく下降してしまいました。読解は14位へ、数学は6位へと順位を落としてしまったのです。

この結果が「ゆとり教育」にもたらした影響について、教育テスト研究センターは以下のように述べています。

2004年12月に公表されたPISA2003の結果を受け,当時の中山文科相が「学力低下」を公式に認めたことによって,学力低下論争に事実上の終止符が打たれ,ゆとり教育から学力向上へと正式に舵が切られることになった。

(引用元:PISA で教育の何が変わったか~日本の場合~ |教育テスト研究センター

2003年は「ゆとり教育」が実施されて2年目の年でした。そのためPISAショックの原因がすべて「ゆとり教育」のせいかと問われると、根拠はないかもしれません。しかし当時の文部科学大臣が学力低下を認めたことから、PISAショックは「ゆとり教育」が引き起こしたものだとされたのです。

(3)ゆとり教育で目指した変化が測りにくい

「ゆとり教育」が子供に身につけさせようとした「生きる力」には、以下のようなものが挙げられていました。

[生きる力]について,同答申は「いかに社会が変化しようと,自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や能力」,「自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思いやる心や感動する心など,豊かな人間性」,そして,「たくましく生きるための健康や体力」を重要な要素として挙げた。

(引用元:学習指導要領等の改訂の経過|文部科学省

これらの能力は学力テストの結果では判断できず、数値化して評価することが難しい能力です。判断する人によって捉え方も変わってしまいます。したがって子供に「生きる力」が身についたかの判断が難しく、「ゆとり教育」の効果を測る判断基準が不明確だったと言えるでしょう。

ゆとり教育を受けた子供はどんな大人になっている?

「ゆとり教育」の影響を受けて育ってきた子供たちは、どのような大人に成長しているのでしょうか? 今回は2018年度に三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社に入社した新入社員1,409名を対象としたアンケートをもとに、ゆとり世代がどんな社会人に成長しているかを見ていきましょう。

なお、2018年度に4年生大学を卒業した新入社員の多くは1996年度生まれです。したがって、ゆとり教育を受けた世代を対象としたアンケート結果としてご紹介します。

自分の時間を大切にしたいと思っている

調査項目の1つ「会社に望むこと」の選択肢の中に、「残業がない・休日が増える」という項目があります。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社ではこの項目を望む人数を、過去15年分を対象に比較したグラフを公表しています。その結果、以下のように数値が推移しています。

自分の時間を大切にしたいと思っている
(参照元:2018(平成30)年度 新入社員意識調査アンケート結果|三菱UFCリサーチ&コンサルティング

「ゆとり世代」の人々は、幼いころから完全週休2日制を経験しています。上の世代と比較すると、自分の時間を過ごす機会を多く持っていたと言えるでしょう。その結果、社会人となった今でもプライベートを優先できる環境を望んでいるのかもしれません。

協調性には自信を持っている

同調査では、「社会人としての自分に自信があるもの・欠けているもの」についても調査しています。その回答結果は以下のようになりました。

協調性には自信を持っている
(参照元:2018(平成30)年度 新入社員意識調査アンケート結果|三菱UFCリサーチ&コンサルティング

調査の結果、「協調性」に自信があるとの回答が最も多いことが分かりました。「ゆとり世代」の人々は自分が「ゆとり」を持って成長してきたことで、周りに対しても寛容でいられるのかもしれません。

自主的な働きかけには苦手意識を持っている

一方で、前掲のグラフから自分に欠けているものとして「積極性」や「創造力」が多く選ばれていることが分かります。

何かを創造するためには、積極的に自分の考えを表現していかなければなりません。周りに合わせる「協調性」には自信がある代わりに、周囲を巻き込むほどの積極的な自己表現には苦手意識を持っていると言えるでしょう。

教育に正解はない!目の前の子供を見つめよう

教育に正解はない!目の前の子供を見つめよう
「教育の正解」とは何でしょうか。学問に長けていれば豊かな子供であるとも言い切れませんし、勉学に励まないことが子供の成長にとっていいとも言えません。つまり、教育には正解がないと言えるでしょう。

我が子が「ゆとり世代」に含まれる場合、「ゆとり教育」の批判を聞き不安を覚える親もいるかもしれません。しかし、大切なのは目の前の子供を見つめることです。

どんな教育を受けていても、子供は成長していきます。子供が思うように生きようとする姿こそ、「生きる力」が養われている証と言えるのではないでしょうか。

参考
2018(平成 30)年度 新入社員意識調査アンケート結果|三菱UFCリサーチ&コンサルティング
第5章 完全学校週5日制の実施について|中央教育審議会
教育課程の今日的課題の一考察|川村学園女子大学研究紀要第21巻第2号91頁̶ー107頁 2010 年
PISA で教育の何が変わったか~日本の場合~ |教育テスト研究センター
学習指導要領等の改訂の経過|文部科学省
ゆとり教育で不足した学力はどこで補完するのか ~社会人になるために~|アキューム
学習指導要領について|文部科学省
ゆとり教育の汚点 相対評価の廃止と絶対評価の導入|みんなの教育問題
通知表に書かれている内申点の秘密|SCHOOL POST
日本「ゆとり教育で学力低下」…PISA調査結果|中央日報
ゆとり教育について|中村学園大学短期大学部「幼花」論文集
2002年の学習指導要領改定(ゆとり教育)による授業時間の変化|e-politics

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mio_yamamoto