リカレント教育の本質に迫る②:人生100年時代のインパクト
国際的な成人教育の潮流にさらなる意味を加えたのが、2016年に出版された『ライフシフト-100年時代の人生戦略』です。その説く内容と重要性を読み取っていきましょう。
『ライフシフト』の出版が世界に衝撃を与えた
「100年以上生きる時代がくる」という現状認識から始まるこの本は、世界に大きなインパクトを与えました。出版国のイギリスで経済紙、ファイナンシャル・タイムズのビジネス書年間ベスト本に選ばれたほか、数か国語に翻訳され他国でもベストセラーに。日本では2018年、著者のリンダ・グラットン氏が「人生100年時代構想会議」に有識者として招かれ、一気に「人生100年時代」と「学び直し」に注目が集まることとなりました。
人生100年時代には生涯モデルの変革が不可欠
『ライフシフト』の提唱する「人生100年時代」の主旨を「100年の人生では長く働く必要がある」「いかに働ける期間を延ばしてリタイアを遅らせるか」ということだと捉える人もいますが、そうではありません。『ライフシフト』が述べているのは「『教育・仕事・引退』という3ステージ型の人生モデルを変えよう」ということです。
従来の人生モデルは「人生の初期に集中して教育を受け、職に就いて働き、引退して老後を迎える」というものでした。しかし『ライフシフト』は3つの世代のケースを例に出し、これからの世代は3ステージ型人生モデルでは立ち行かないことを示します。
『ライフシフト』が提唱しているのは、いくつかのステージを行き来しながら人生を渡っていくモデルです。そこでは、身軽に動き回り自分の可能性と選択肢を見つける「エクスプローラー」、独立した立場で活動と試行錯誤を重ねる「インディペンデント・プロデューサー」、異なる種類の活動を同時並行させる「ポートフォリオ・ワーカー」のステージが提示されています。
リカレント教育のキモは「教育→仕事→引退」を変えること
3ステージ型の人生モデルでは、教育を受けるステージで貯めた無形資産(スキル・知識・人間関係のネットワーク・健康や余暇・変化する可能性など)を、続く仕事のステージで使いながら有形資産(お金)を作っていきます。複数のステージを行き来する人生モデルでは、ステージ間の移動と移行期間を繰り返し、無形資産を増やすフェーズと有形資産を増やすフェーズをマネジメントしていくことが大事としています。
リカレント教育と人生100年時代がクロスするのは、この部分です。教育は、無形資産を増やすフェーズに関わるからです。教育と仕事を循環する「リカレント=循環」型の教育は、人生初期に集中してためた教育の成果を使い切るのではなく、無形資産の形成と有形資産の形成を交互に繰り返します。
無形資産を蓄えるということは、仕事に役立つ知識やスキルを身につけるということにとどまりません。学びながら自分の可能性を模索したり、新しい人たちと知り合ったり、心身の健康や家族、友人との関係を充実させることも、重要な無形資産の形成です。その観点から見ると日本のリカレント教育は、「教育→仕事→引退」の一方向コースを変える「リカレント=循環」型とは言いがたく、内容も仕事に直結する「スキルアップ」「職業訓練」に集中していると言わざるを得ません。
参考
リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット、池村千秋訳(2016年)『ライフシフト-100年時代の人生戦略』東洋経済新報社
LyndaGratton
THE 100-YEAR LIFE
人生100年時代構想会議|首相官邸