100年時代の学び方「リカレント教育」とは?理念と日本の可能性 - cocoiro(ココイロ) - Page 3

リカレント教育の本質に迫る①:理念と発展の歴史

ここまで日本のリカレント教育と制度について解説してきましたが、リカレント教育を理解するには、世界的な概念、リカレント教育の本質を知る必要があります。まずはその理念がどのように出来上がってきたのか、発展の歴史を追っていきましょう。

世界人権宣言とユネスコの生涯教育論

リカレント教育の理念が成立したのは、第二次世界大戦終結後の1965年、ユネスコの「生涯学習論」の提唱までさかのぼります。「生涯学習論」は、生涯に渡る自己成長とともに個人と社会の統合を図るという新しい教育理念、「life-long integrated education」(一生涯に渡る統合された教育)を打ち出した画期的なものでした。

「生涯学習論」は、1948年に国連人権委員会の制定した「世界人権宣言」の教育条項(第26条)に基づいています。第二次大戦の反省の上に立つ「世界人権宣言」は、権利としての教育をうたうとともに、個人的な利益追求にとどまらず、人権と自由の尊重、相互の理解と寛容、友好と平和を目指すものと位置づけました。ユネスコはその実現に、成人教育および生涯教育の果たす役割を重要視します。

その後、パリ(1985年)やハンブルグ(1997年)で開催された国際成人教育推進委員会などを通じ、ジェンダーや民族、年齢、障害などによる差別や不利の存在、教育プログラムの質や学習機会の格差問題、識字の権利、学習による人々のエンパワーメントなどといった重要な観点が、世界に共有していきました。城西国際大学教授の井上敏博氏は、ハンブルク会議の意義を次のようにまとめています。

「学習」を「成人の権利」とみなす考え方は、1985年パリの「学習権宣言」以来、国際的な承認を得てきたが、ここではさらに、「学習」を「共同責任」とみなす捉え方が登場した点が注目される。すなわち成人の学習は、個人の発達の手段であると同時に、社会的文化的多面的な発達の手段なのだという認識が共通認識として確認されたのである

(引用元:井上敏博『「生涯学習論」の理念と政策の歴史的発展-ユネスコとOECDの果たしてきた役割を中心に』城西国際大学紀要Vol.25, No.1 経営情報学部

スウェーデンに始まりOECDが推進した「リカレント教育」

OECDは発足以来、EUの取り組みと連動しつつ、ユネスコの理念を踏まえながら別の視点からアプローチする新たな教育政策の推進に取り組んでいました。リカレント教育は、その過程で取り入れられ政策に落とし込まれたものです。

リカレント教育の概念を最初に提唱したのは、スウェーデンの経済学者レーンと言われています。1968年同じくスウェーデンの文部大臣パルメによって発表され、EUの注目を集め、OECDの重点政策として掲げられるようになりました。1973年、OECDは『リカレント教育-生涯学習のための戦略』を発表し、次のように意義づけました。

リカレント教育は、義務教育もしくは基礎教育以降あらゆる教育を対象とする包括的な教育戦略である。その本質的な特徴は、個人の生涯にわたって教育を回帰的に、つまり教育を仕事をはじめ余暇や引退などといった諸活動と交互にクロスさせながら、分散することである

(引用元:井上敏博『「生涯学習論」の理念と政策の歴史的発展-ユネスコとOECDの果たしてきた役割を中心に』城西国際大学紀要Vol.25, No.1 経営情報学部

1960年代に提唱されたユネスコの生涯教育の理念は、OECDによって、教育と労働がさまざまな形で組み合わされる柔軟なライフパターンの創造を図る、具体的な政策戦略「リカレント教育」として展開されることとなったのです。

21世紀に必要な学力と国際的な成人教育の取り組み

リカレント教育は、教育政策であると同時に社会経済政策としての性格も持っていました。1990年代以降のOECDは、経済主義的観点からの「生涯教育」「成人教育」に政策の重点を移していきます。

学習の捉え方は、学習者が教育サービスを受けることから、自らの学習経験を自らで構成していく方向へと考え方が変わっていきました。それに伴い学習の場は、学校というフォーマルな場から、家庭や職場、コミュニティといったノンフォーマルな場に拡大していきます。

OECDの提唱する学力観も、変わっていきます。21世紀の社会において必要な学力とは、知識を活用し、応用を可能にする力。知識を詰め込むのではなく、知識や技能が社会生活において役立つような人間を育てることにあるとする考え方です。

その考え方に基づき、各国の教育レベルの統一化、課題と政策の明確化が進められました。国際的な学力の指標となるキー・コンピテンシーや、子供たちの教育課程の在り方を問う「生徒の学習度到達調査 PISA」、職場や日常生活で必要となる総合的な力を測る「国際成人力調査 PIAAC」などが導入されることとなったのです。

参考

井上敏博『「生涯学習論」の理念と政策の歴史的発展-ユネスコとOECDの果たしてきた役割を中心に』城西国際大学紀要Vol.25, No.1 経営情報学部