「人生100年時代」「生涯現役」などといった言葉とともに、社会人の学び直しの必要性が強く叫ばれています。子供が成長し大学を卒業するまで、自分は今の仕事と収入を確保していられるのか、老後の生活をどう設計するか、不安に思う人も多いのではないでしょうか。社会人の学び、リカレント教育とは何か。日本の現状とリカレント教育の理念を照らして考えつつ、今後の行方と課題に迫ります。
もくじ
政府の推進する社会人の学び「リカレント教育」とは?
1970年代以降、世界的な教育の潮流は学校教育にとどまらず、成人の学びにまで視野を広げた「生涯教育」へと進んできました。リカレント教育は、その議論の中で生まれてきたものです。日本もまたリカレント教育の推進と浸透を図っていますが、日本政府が進めるリカレント教育の内容とは、どのようなものなのでしょうか。
特徴①:日本の「リカレント教育」は独自の広い概念
第一の特徴は、日本における「リカレント教育」は、世界で言われている意味とは若干異なる独自の広い概念だということです。リカレント(recurrent)とは「循環する、回帰性の」という意味。リカレント教育とは一般に、いったん社会に出た成人が学校に戻って学び直し、職業生活と学業生活を行き来しながら高度な知識や技術を身につけていくことを意味します。
しかし日本の「リカレント教育」は、必ずしも同様に、職業生活と学業生活の行き来を意味してはいません。働きながら学ぶことや趣味や教養に関わる学習活動なども含めた、成人の学習活動全般を指して使っています。文部科学省の使う行政用語に「リフレッシュ教育」という言葉もありますが、こちらは高等教育機関での職業人への再教育に限定した用語で、諸外国の概念に近いのは、むしろこちらの方です。
特徴②:実務上のスキルアップや産業界の人材ニーズを重視
公民館や図書館の教養講座や地域の自主学習活動など、広い範囲をカバーする日本のリカレント教育。一方で政府はリカレント教育を、これからの経済社会を支える高度人材育成の要として、明確に経済成長戦略に位置づけています。
内閣府が2018年にまとめた年次経済財政報告『「白書」:今、Society 5.0の経済へ』では、リカレント教育はスキル習得や人材育成の文脈で語られています。次代に適応する高スキル人材の育成を重視していること、個人の自己啓発や学び直しによるスキルアップ・キャリアアップに期待を寄せていること、高等教育機関に外部ニーズを反映したカリキュラムを求めていることなどが読み取れるでしょう。
参考
文部科学省(1995年)『平成7年度 我が国の文教施策』第2部 文教施策の動向と展開 第2章 生涯学習社会の構築を目指して
内閣府(2018年8月)平成30年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)『「白書」:今、Society 5.0の経済へ』第2章 人生100年時代の人材と働き方