教育委員会とは?その制度・組織・学校で起こる問題への対応と責任 - cocoiro(ココイロ) - Page 4

平成27年の地方教育行政法改正で何が変わったか

この答申を踏まえて、2015年に地方教育行政法が一部改正されました。「教育委員会の組織と機能」のところで解説した教育委員会制度は、改正後のものです。改められた点は、次のような点です。

  1. 教育行政の責任者の明確化

それまでは教育長とは別に、教育委員会を束ねる「教育委員長」が置かれていましたが、教育長(新教育長)に一本化されました。教育行政における責任者は、教育長となります。教育委員会は決議機関であるとともに、教育長の担う事務のチェック機関としての意味合いが強くなり、会議の議事録も原則として公開とするなど、透明化が図られました。

  1. 総合教育会議の設置

教育の基本的な方針に、首長が深く関わることとなりました。首長は総合教育会議を招集し、首長、教育長、教育委員による協議を行います。協議内容を受けて首長は、教育の目標や施策の根本的な方針などをまとめた「大綱」を策定します。「大綱」に基づき、首長と教育委員会は政策の方針を共有して、それぞれの所管する事務を執り行うことになります。

  1. 国の地方公共団体への関与の見直し

文部科学大臣は、いじめによる自殺など地方の教育現場で重大な事態が発生すると見込まれる場合、教育委員会に指示することができました。しかしその規定は、被害の状況を把握するのに、後手に回りかねないあいまいな部分がありました。そこで、児童や生徒の保護のために、緊急の必要なある場合は指示ができることを、条文でも明確化しました。

参考

地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(概要)|文部科学省

地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(新旧対照表)|文部科学省

地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(パンフレット)|文部科学省

保護者や地域住民の意向を教育行政に反映させるために

教育行政事務を事務局任せにすることの弊害

教育委員会の構造的な問題を解決し、責任を明確化して自治体の教育方針を統一し、深刻な事態へのスピーディな対応を図ったとしても、子供の保護者であり地域の住民である私たちの意向をどう反映するか、という課題が残ります。

地方分権と教育行政について審議した、2005年の中央教育審議会『地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)』では、教育委員会の問題を次のように指摘していました。

・教育委員会は事務局の提出する案を追認するだけで、実質的な意思決定を行っていない
・教育委員会は教員など教育関係者の意向に沿って教育行政を行う傾向が強く、地域住民の意向を十分に反映していない
・教育委員会は地域住民との接点がなく遠い存在で、役割や活動がよく知られていない
・教育委員会は 国や都道府県の示す方向性に沿うことに集中し、地域の実状に応じた施策を行う志向が強くない
・学校や教職員が、設置者である市町村への帰属意識が弱く、国や都道府県の方針を重視する傾向が強い

つまり、地方の教育は事務局任せになりがちで、さらに地域住民の意向や市町村など地域の実状を反映するよりも、「中央」の方針に追従しがちだと指摘しているのです。

参考

中央教育審議会教育制度分科会地方教育行政部会(平成17年1月13日)『地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)』

教育委員会は保護者や地域住民の代理人

学校で起こった問題の解決が後手に周りがちで、時として事実が隠蔽されたり被害に遭った子供やその保護者の声が届かなかったりするのは、地域の教育行政と住民の距離が遠いことにも原因があるのではないでしょうか。私たち大人は、いじめや子供の自殺など学校現場が抱える問題の解決に、もっとできることがあるはずです。

それは地域の教育に関心を持つこと、意見を届けることです。不祥事が起きたときのみ注目されがちな教育委員会ですが、私たちは普段から、気軽に教育委員会に働きかけてもいいのではないでしょうか。教育委員会を構成する委員は議会の議員と同様、わたしたちの意向を反映させる「代理人」であり、それこそがレイマンコントロールの理念を実現する仕組みだからです。

まとめ

子供たちの幸せを望み、いじめや暴力のない学校を願うのは、誰しも同じでしょう。その意味で、保護者や地域住民・学校・教育委員会は同じ方向を向いているのであり、同志であると言えます。責任と役割、やるべきことはそれぞれ違いますが、一方的な「giver」と「taker」の関係に分かれているわけではありません。

学校で起こった問題を、「かわいそうな誰かの被害」や「責めを負うべき誰かの過失」に終わらせず、わたしたちみんなに関わることとして共有し、小さな成果でもよいから積み上げていく。遠回りなようですが、わたしたちの望む教育と子供の未来は、その先に達成されるのではないでしょうか。教育の担い手は、私たち一人一人であるのです。

参考

教育委員会制度について|文部科学省

地方自治法|e-Gov

地方教育行政の組織及び運営に関する法律|e-Gov

地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律|文部科学省

平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について|文部科学省

いじめ防止対策推進法「重大事態」の解説(案)|文部科学省

中央教育審議会(平成25年12月13日)『今後の地方教育行政の在り方について(答申)』

中央教育審議会教育制度分科会地方教育行政部会(平成17年1月13日)『地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)』

SNSいじめ、アプリ「STOPit」で止めろ|日本経済新聞

この記事をかいた人

菊池とおこ

北海道大学文学部行動科学科卒。行政系広告代理店、医薬系広告代理店、地方自治体の結婚支援事業担当などを経て独立、ライターに。女性のライフイベントと生き方、働き方、ジェンダー教育などが主な関心分野。大学院進学を視野に入れて地元大学のゼミ(ジェンダー・スタディ)に参加中。趣味は音楽、中学より本格的に合唱を始め、現在も合唱団に所属。ネコのおかあさん。子供と接する時は、自由人の叔父ポジション。