学校でいたましい事件が発生するたびに、教育委員会の責任問題が取り沙汰されます。しかし教育委員会の制度や組織、職務権限などについて、きちんと知っている人は少ないのではないでしょうか。教育委員会とは何なのか、なぜ学校で起こる問題はなかなか解決できないのか。法律やこれまで指摘されてきた課題を解説します。
教育委員会とは何か
教育に関する事務を担当する地方公共団体の行政委員会
「教育委員会」というと、どういったイメージがあるでしょうか。学校の先生たちを管理監督する機関というイメージかもしれませんし、学校で問題が起きた時に会見で謝罪しているイメージかもしれません。
教育委員会は、都道府県や市町村など地方公共団体に置かれる行政委員会で、教育に関する行政事務を担当する組織です。行政委員会とは、都道府県知事や市町村長など地方公共団体の首長から独立して、自らの権限に属する事務を執り行う執行機関です。地方公共団体の担う教育とは、学校教育のみならず生涯教育や文化・スポーツの分野にまで及びます。
つまり教育委員会とは、独自の権限を持って幅広い分野にわたり、地域の教育を担当する組織だということです。
「地方自治法」と「地方教育行政法」に規定される
教育委員会を規定しているのは、「地方自治法」と「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地方教育行政法)です。
地方自治法は、行政委員会の権限や設置規定、教育委員会の担当事務などについて、基本的な原則を定めています(第138条の4、第180条の5、8)。地方教育行政法はそれを受けて、教育委員会の組織や職務権限、学校などの教育機関、国との関係や都道府県と市町村の関係などについて、詳しく規定しています。
参考
教育委員会制度の基本的な考え方
3つの基本理念
教育委員会制度は、次の3つの基本理念の下に作られています。
- 政治的中立性の確保
教育は、受ける人の精神的な在り方や価値観を形成する重要なものです。その内容が、誰かひとりの価値判断や特定の集団によって左右されてはなりません。ですから、教育行政を執行する教育委員会も、中立性を確保することが極めて大事です。
- 継続性・安定性の確保
教育は子供の健全な成長のために、学習期間を通じて一貫した方針の下、安定的に行われることが必要です。また結果が出るまで時間がかかり、簡単に把握できるものでもないため、学校運営の方針変更など、改革・改善は順を追って徐々に進めることが大事です。
- 地域住民の意向の反映
教育は、私たちみんなが受ける権利を持つ、身近で直接的に関わる分野です。専門家とされる人たちがその専権事項として決めるのではなく、広く住民の意向を取り入れ、それを反映する必要があります。
基本理念を支える3つの特性
これら3つの基本理念は、次のような制度的特性によって支えられています。
- 首長からの独立性
教育委員会は行政委員会のひとつであり、都道府県知事や市町村長など首長から独立した機関です。首長への権限集中を防ぎ、中立的かつ専門的な教育行政の運営を担保しています。首長に権限が集中することは、その政治的価値観に教育が左右されたり、首長が変わることに方針が大きく変わったりする危険があるのです。
- 合議制
教育委員会の決議は、さまざまな属性を持つ複数の委員の話し合いによる、合議制が採用されています。委員には、さまざまな意見や立場を集約し、中立的に意思決定することが求められます。
- 住民による意思決定(レイマンコントロール)
住民が専門的な行政官で構成される事務局を指揮監督する「レイマンコントロール」(layman=素人)の仕組みを採用しています。教育委員会は決議したことを事務局に実行させる立場です。教育委員は議会の議員と同様、住民の意向を行政に反映させる役割を担うのです。
参考