学校の問題と教育委員会の抱える構造的課題
社会問題として深刻化する学校のいじめ
近年、学校では深刻ないじめ問題が頻発しています。文部科学省が2017年度に行った調査によると、同年度のいじめの認知件数は全体で41万4千378件。昭和60年度に比べて3倍近い件数となっており、特に小学校での増加が顕著です。その中でも深刻ないじめ(※)の件数は474件、1割程度を占めます。
(参照元:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について|文部科学省 P.25)
※いじめ防止推進法第28条第1項に規定する「重大事態」
①生命被害:死亡、自殺未遂など ②身体被害:重大な傷害(おおむね30日以上の加療を要すると見込まれるもの) ③財産被害:重大な金銭的損害(直接の要求によるもの、よらないものを含む) ④精神被害:いじめを苦にしたことによる精神疾患の発症や悪化 |
(参照元:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について|文部科学省 P.52)
子供の自殺について取り上げると、その原因は学校で起こった問題が高い割合を占め、その傾向は特に小中学校において顕著です。
小学校 | 中学校 | 高校 | 全体 | |
家庭での問題 | 16.7 % | 28.6 % | 15.0 % | 19.6 % |
学校での問題 | 33.3 % | 46.4 % | 25.2 % | 32.4 % |
その他の問題 | 0.0 % | 8.4 % | 30.7 % | 22.4 % |
不明 | 66.7 % | 59.5 % | 53.8 % | 56.0 % |
家庭での問題:家庭不和、父母等の叱責
学校での問題:学業等不振、進路問題、教職員との関係、友人関係、いじめの問題
その他の問題:病弱等による悲観、えん世、異性問題、精神障害、その他 …として計算
(参照元:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について|文部科学省 P.129 (8-3)自殺した児童生徒が置かれていた状況(国公私立) より筆者作成)
子供にとって学校で起きる問題は大きな位置を占めること、死にもつながりかねない重大な結果を引き起こすことが見て取れるデータでしょう。2017年以降、全国の自治体でいじめ相談アプリの導入が相次いでいますが、柏市では初年度に電話とメール相談の約9倍に達したとのこと。文科省の調査にカウントされていないいじめも、多数あることがうかがわれます。
参考
教育委員会の課題として指摘されたこと
しかし教育委員会は、これら学校で起こる重大な問題に、上手く対処してきたとは言えませんでした。2013年に中央教育審議会が出した答申『今後の地方教育行政の在り方について』では、地方行政に課題があると指摘しています。
しかしながら、深い思慮の下に設計されたこの制度(=教育委員会制度※筆者補足)には、一つの重要な課題をはらみつつも(中略)維持されてきたという側面があることも事実である。その課題とは責任の所在の不明確さである。この課題は、今日、児童、生徒の生命・身体や教育を受ける権利を脅かすような重大な事案が生じる中で顕在化し、地方教育行政に対する国民の信頼を維持するためには、制度の抜本的な改革が不可欠な状況となっている。
(引用元:中央教育審議会(平成25年12月13日)『今後の地方教育行政の在り方について(答申)』)
中教審が指摘する教育委員会の課題とは、次のようなものです。
- 現行制度では教育長と教育委員会が一体なって責任を負うことになっており、教育現場で問題が起こった時に、責任の所在がどこにあるか不明確である。
- 教育委員会は合議制で意思決定を行うため、深刻な問題が生じた際スピーディな対応ができず、危機管理能力に欠けるといった批判がある。
- 教育委員会での審議が、形式的な決裁を要する議案に終始するなど形骸化しており、本来の役割である教育の在り方や基本方針についての議論ができていない。
- 自治体の首長は教育における重要な責任の一端を担っているが、教育現場に重大な問題が発生した時、自治体が一体となって迅速に対応する体制を整える必要がある。