編集期間の短さからくる完成度の低さ
新教科の教科書は通常、編集を開始してから採択されるまでに5年は必要と言われています。しかしながら、当初2020年度に予定されていた新学習指導要領の実施が2年前倒しされたことで、新教科である道徳の教科書の編集期間は短縮されました。
編集に十分な時間を確保できなかったことに加えて、初めての検定ということも影響してか、各出版社の教科書にはこれまでに使用されていた副読本などからの題材の流用が目立ちます。これまでの定番の題材とはいえ、価値観の押しつけになるとの批判もある『手品師』という物語が小学校の全8社の教科書に掲載されているなど、過去を踏襲し、無難な着地点を見つけるといった守りの編集姿勢も見えるとの指摘があります。
道徳の教科書について書かれた朝日新聞の記事によると、編集期間の短さもあり、満足のいく仕上がりにできなかったと漏らす編集者も複数いるそうです。
家庭で実践できることは?
今回の道徳の教科化に際して、文科省は「考え、議論する道徳」を目指すとしています。しかしながら、子供たちの考える力をはぐくみ、教室での議論を実のあるものとするためには、教師の力量が必要不可欠です。
子供の通う学校の道徳の授業に何かしらの不足を感じたとき、家庭で実践できることはあるでしょうか。道徳の授業で扱った題材について、子供と議論してみるのも1つの方法です。中には、授業中に発言する機会がなかったり、その場の空気を読んでしまい、自分の本心を話せないという子供もいることでしょう。保護者が子供に意見を聞き、学校の授業を補完する役目を果たすことができれば、子供が自ら考える力や、外の世界で多様な価値観を持つ人々と議論する力を養うことにつながるかもしれません。
おわりに
新たに教科化された道徳の教科書の内容や、指摘されている問題点についてご紹介しました。事の中で紹介した道徳の内容項目の中に賛同できない価値観があるという方もいるかもしれません。一方で、文科省が道徳の教科を通じて養おうとしている「考え、議論する力」については、これからの時代を生きる子供たちにとって必要だと考える方も多いのではないでしょうか。
これらの力は、道徳の授業以外でも身につける機会がたくさんあります。学校での出来事や社会的な注目を集めるニュース、将来のことなど、さまざまなトピックについて、ぜひ子供と会話してみてください。子供自身の考えを聞いてあげるのは、自らの意見を言葉にして他者に伝える訓練にもなるでしょう。
参考
資料4 道徳教育について|文部科学省
道徳教育の充実に係るこれまでの経緯|文部科学省
道徳の教科化 道徳は「揺れる」ことが大切? 小学校の教育|ベネッセ
「中学初の道徳教科書と問われる文科省」(時論公論)|NHK