2019年4月から中学校の道徳が成績評価の対象となる「特別の教科」へと格上げされました。これにともない、前年の小学校に続いて中学校でも、道徳の授業では学習指導要領に基づいた検定教科書が使われています。今回は、小・中学校で使用されている道徳の教科書の内容や、指摘されている問題点についてまとめました。
もくじ
道徳の教科書はどんな内容?
まずは、小・中学生が学校で使っている道徳の教科書の内容について見ていきます。
小学校・中学校で道徳が教科化された経緯
道徳はこれまで、児童会活動や生徒会活動、総合的な学習の時間などと同じ「教科外活動」という位置づけでした。それが、小学校では2018年度から、中学校では2019年度から「教科」に格上げされることになったのです。
それでは、なぜ道徳を教科化する必要があったのでしょうか。その目的として第一に挙げられているのは、「いじめ問題への対応」です。道徳の教科化を提言したのは2013年に第二次安倍政権が設置した「教育再生実行会議」ですが、そこで取り上げられたのが、前年に大きく報道された大津市の中学校でのいじめ自殺事件でした。痛ましいこの事件を通じて、いじめ問題が世間の大きな注目を浴びたこともあり、「いじめ対策の法律の制定」などとともに、「道徳の教科化」が提言されました。道徳教育を充実させることにより、いじめ問題の解決を目指したのです。
一方で、道徳教育がいじめ問題の解決に有効ではないという専門家もいます。中央大学の池田賢市教授(教育学)は、今回新しく採用された教科書の記述に「いじめがなぜ起こるのか」という構造的に分析する視点がないと指摘し、いじめ対策に効果があるのか疑問を呈しています。
参考
日本の道徳教育、どこが問題なのか? 辻田真佐憲×池田賢市×荻上チキ|SYNODOS
また、近現代史研究者の辻田真佐憲氏は、今回の教科化に至る背景として、社会問題の解決のために道徳教育の強化を主張してきた保守派の力が相対的に増していることを挙げ、戦後の道徳教育と政治が密接に関係していると指摘しています。
参考
正気ですか?「パン屋は愛国心が足りない」という道徳教育の愚|現代ビジネス
このように、道徳の教科化に至る経緯や必要性については、文科省の表向きの説明と研究者の捉え方に大きな乖離があります。これらの問題を考えるときには、それを語る主体がどのような立場の人であるか、着目する必要があると言えるでしょう。
これまでと何が変わる?
道徳が教科化される前と後では何が変わるのでしょうか。
まず挙げられるのが、履修の義務化です。道徳がこれまでの教科外活動から教科になることで、小学1年生は年間34時間、小学2年生から中学3年生までは年間35時間の授業を行うことが義務となりました。
2つ目は、検定教科書の使用の義務化です。これまで道徳の授業では、学校や自治体などが独自に作った教材を使用してきましたが、教科となったことで、現在は検定教科書の使用が義務付けられています。
3つ目の変化は、評価の導入です。教科化にともない、道徳の授業は教員による成績評価が必要とされるようになりました。
4つ目は、「考え、議論する道徳」への変化です。文科省は、先を予測するのが困難な時代において、子供たちが自ら考え、議論する力を養うことが重要であるとしています。実際に、ある題材を元にして子供たちから意見を聞き、議論を促す形の道徳の授業を進めている学校もあります。このような形式の授業は、文科省が推進するアクティブ・ラーニング(生徒が周囲と協同しながら主体的に学ぶ参加型授業)の主旨に沿ったものと言えるでしょう。
参考
“道徳”が正式な教科に 密着・先生は? 子どもは?|NHK
大まかに言って、以上の4つが道徳の教科化にともなう変化となります。