「話す」と「書く」の違いに注意!
「うちの子は話をするときちんとできるし、そこまで語彙力に問題ないのでは」と思って安心している人もいるかもしれません。ただし、「話す」能力と「書く」能力は全く別物という研究もあります。きちんと「読む」「書く」ができているか、一度確認してあげるといいかもしれません。
口頭発表ができても書くのは苦手という子供も多い
鳥取大学附属中学校の教員による報告を見てみましょう。
3年生の多くは自分の思っていることを流暢に述べられていると感じた。 これは前任者が話し合い活動を多く取り入れていたという情報を得ていたので,納得のいくところであった。 ところが年度当初, ほとんどの生徒が授業中にノートをとっていないことに気付く。 そこで文字を書かせるために, ノートに詩の感想を書かせたり, 授業の最後に振り返りカードを記入させたりした。 すると, 話し言葉の流暢さとは裏腹な, 平仮名の多い幼稚な印象を受ける紙面が多く見られた。 また, 漢字の使用については誤字も多く見られた。 この現状から, 本校の3年生には音声による語彙と文字としての語彙に差が生じているのではないかと考えた。
(引用元:語彙力につながる漢字の学習 | 鳥取大学研究成果リポジトリ )
現代の学校では発表し、話し合う活動が多く取り入れられています。これらは大切なことなのですが、その一方で思考の基礎になる読み書きの能力がおろそかになっている可能性が捨てきれません。
鳥取大学付属中学校の例で言うと、読み書き能力の不足が「授業中にノートを取らない」という結果となって出てきています。授業で聞いたことを全て覚えていられる生徒はほとんどいません。ノートを取らないということは授業の内容を理解しないまま復習する機会も失ってしまうということになります。
作文で語彙力を伸ばそう
このような事態を避けるためにも読書は有効なのですが、それ以外の取り組みとしては作文にていねいに取り組むというものが見られました。作文は人に読ませるものなので、自分が何を考えているのかを論理的に説明できる能力が求められます。
茨城大学が行った研究では中学生に作文を書かせた後、接続表現に関する授業を行いました。その後自分の作文を推敲させた結果、以下のような特徴が見られたそうです。
- 一文が短くなった
- 漢語が増えた
- 接続詞が増えた
一文の長さが長く、漢語が少ない表現は話し言葉の特徴です。話し言葉的だった作文が書き言葉的に変化したと言えるでしょう。書き言葉で作文を書こうとした結果、簡潔に言い表せる漢語の出現が増加した可能性があります。意識して使うことにより子供の語彙は増えていったと言えるでしょう。
一方、語彙は学年が上がるごとに増えていくわけではないのでは、ということを示唆する結果も出たそうです。年齢が上がっても語彙が増えない可能性もあることには、保護者としては注意したいところです。
参考
作文語彙と学習成績との関連性からわかる語彙力の諸相 | 茨城大学機関リポジトリ
漢字学習も語彙力アップに効果的
先ほど紹介した鳥取大学付属中学校では、語彙を増やすための取り組みとして漢字学習に力を入れたそうです。漢字学習は、漢字の成り立ちや部首・つくりの意味をもう一度考えるというていねいな授業展開によって行われました。その結果生徒の苦手意識が薄れ、以下のような好意的な反応が見られるようになりました。
- 漢字に興味が持てた。漢字が書けるようになった。
- 文章を読むことが好きになった。
- 語彙力がついてきた。
- 文章を読んで作者 (筆者) の気持ちや伝えたいことが分かるようになった。
- テストの答え方が分かるようになった。 点が上がってきた。
- 言葉に注目するようになった。
- 根本的なことから分かるようになった。
(引用元:語彙力につながる漢字の学習 | 鳥取大学研究成果リポジトリ 20ページ)
茨城大学の研究でも作文を推敲した結果、漢字が多く出現するようになったそうです。日本語で抽象的な思考を行うには漢語の語彙が欠かせません。一度子供の漢字能力についても確認してみるといいかもしれません。
まとめ
子供の語彙を増やすには読書が一番。うすうすそれには気付いていた、という保護者の方も多いでしょう。しかしなかなか子供が興味を持たない、時間が取れない、という中で語彙を増やすための取り組みを紹介しました。子供の語彙力は大人が育てるということを意識しつつ、できる範囲で取り組んでみてください。