「絶対音感」という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょうか? 街で聴こえる音がドレミで認識できる、耳コピして楽譜なしで演奏することができるなど、ぼんやりとは分かっていても説明するのは難しい言葉です。そこで、今回の記事では、絶対音感の定義や相対音感との違い、絶対音感を持っている人のメリット・デメリット、絶対音感を鍛える方法などを徹底的に解説していきます。絶対音感の理解を深めたい方におすすめの内容です。
もくじ
絶対音感とは?
早速、絶対音感の概要を確認していきましょう。理解を深めるために、絶対音感と対をなす相対音感との違いについてもご紹介します。
絶対音感の定義
絶対音感はあいまいに使われている言葉で、世間での共通の定義は確立していません。これは、絶対音感を持っている人の少なさや、絶対音感を持っている人でも能力差があること、音楽的な音高に対する能力であるため音楽教育に依存するという側面があることなどが原因です。下記は、絶対音感を定義した1つの例です。
絶対音感(absolute pitch)は、外的な基準音なしに音楽的音高を同定したり産出したりできる能力である,ということが一般的に認められている定義である(たとえば Takeuchi & Hulse, 1993)。しかし、絶対音感はこれまでこの定義以上に多くの意味でとらえられてきた。
(引用元:絶対音感の定義・形成・符号化をめぐる問題 | J-STAGE,P.511)
絶対音感は、ほかに何もヒントがない(比較対象がない)状態で、音名(音の高さ)を認識することができる能力と言えます。絶対音感を持っていると、何調であるかや、和音が何かも聴き分けることができます。それゆえ、曲を聴いただけで、楽器を使って曲を再現できる人もいます。
絶対音感と相対音感
絶対音感の対をなす言葉が「相対音感」です。相対音感は、ひとつの音だけではなく、音の違いを聴き分けることで音を認識することができる力です。これは、一般的に多くの人が持っている能力です。
具体的には、音高の違う2つの音(「ド」と「ファ」)を鳴らしたときに、1つ目の音が「ド」であると教えてもらえれば、もう1つの音も「ド」を基準として「ファ」であると聴き分けることができます。
絶対音感と相対音感の違いは、こちらの記事で詳しく解説しています。
絶対音感を持つ人の割合
絶対音感を持つ人は、1万人に1人と言われることがありますが、科学的な調査に基づいた結果ではありません。ここでは、日本と海外の音楽大学を対象に行われた音感テストの結果をご紹介します。
大学名(国名) | 絶対音感テスト正答率中央値 | 90%以上の正答率の割合 |
新潟大学(日本) | 0.75 | 35.0% |
京都市立芸術大学(日本) | 0.95 | 60.0% |
首都師範大学(中国) | 0.367 | 6.0% |
中央音楽学院(中国) | 0.667 | 25.4% |
上海音楽学院(中国) | 0.533 | 27.7% |
ショパン音楽大学(ポーランド) | 0.150 | 11.0% |
ハレ大学(ドイツ) | 0.075 | 0% |
ミネソタ大学(アメリカ合衆国) | 0.083 | 0% |
(音楽学生における絶対音感と相対音感の国際比較 研究成果報告書 | 科研費より筆者作成)
中央値とは、数値を大きさ順に並べたときに、ちょうど真ん中の順番にくる値です。1~100の中央値は50です。上記の7大学中中央値が0.5を上回ったのは4大学です。一番中央値が高かった京都市立芸術大学でも、中央値は1以下になっています。ここから、絶対音感を持っている人は、楽器や音楽に日常的に触れる音大生でも少数であることが分かります。
また、京都市立芸術大学の学生の約6割が90%以上の正答率を出しているのに対して、ドイツのハレ大学やアメリカのミネソタ大学では、90%以上の正答率を持つ人は1人もいません。
一方で、相対音感のテストでは、絶対音感が高かった大学の学生の結果が低く、絶対音感が低かった大学の学生の結果が高くなるという逆転現象が起きています。ここから、絶対音感の正答率が高い人ほど、相対音感の正答率は低くなることが分かります。また、国や教育方針によっても差があることが分かります。
絶対音感がある子供の割合については、こちらの記事で詳しく解説しています。