ネグレクトはどうして起こる?
このようなネグレクトはどうして起こってしまうのでしょうか。原因はケースごとにさまざまにあり一概に説明することはできませんが、大まかに分けて解説します。
親がきっかけになるパターン
1つ目は親自身の行動がきっかけになるパターンです。「MSDマニュアル家庭版」では以下のようにまとめています。
親がネグレクトや虐待を行う可能性を高める要因は、片親である、貧困状態にある、薬物やアルコールの乱用の問題を抱えている、精神的な問題(パーソナリティ障害、自尊心が低いことなど)があることです。また、親が子どもの頃に身体的虐待や性的虐待を受けたことがある場合、自分の子どもを虐待する可能性がより高くなります。貧困家庭の子どもでは、貧困でない家庭に比べてネグレクトが12倍も多くみられます。
(引用元:小児に対するネグレクトと虐待の概要 – 23. 小児の健康上の問題|MSDマニュアル家庭版)
日本での事例として、以下のようなケースが報告されています。以下に出てくる「美千」は取材対象者の名前です。
母親は毎日朝から晩まで出かけて帰ってこなかったし、たまに顔を合わせても見知らぬ男を連れ込んできていた。美千は母親ともっと一緒にいたい、甘えたいという気持ちはあったが、それが叶うことはなかった。
(引用元:母のネグレクトと兄からの性的虐待…「愛着障害」になった女の一生(石井 光太)|現代ビジネス|講談社(1/4))
こちらのケースでは、親自身が異性と過ごすことを子供より優先してしまいました。その結果、取材対象の女性も、子供より自分のほうが夫に愛されたい、子供が邪魔だと感じる親になるという「負の連鎖」が起きたと分析されています。親自身が精神的に何かに依存しているため、子供を養育することができなくなっているパターンです。
母親は30歳でシンナー中毒後遺症及び内縁の夫によるDVがあり、平成17年1月27日から平成18年3月25日まで母子寮に入所。2歳7ヶ月の児がネグレクトであると11月児童相談所に通報。母は昼夜逆転の生活、シンナー、アルコールの使用、病識欠如で他者とのかかわり拒否的。児は独歩1歳2ヶ月、発語が遅れている。
(引用元:【管内情報】 【保健所健康危機管理事例】母親によるネグレクト事例(東京都)|H・CRISIS)
こちらは母親に薬物依存があったためにネグレクトに陥った事例です。親自身が自分の問題に気づいていないために、事態がさらに悪化してしまうことがあります。
子供がきっかけになるパターン
子供の言動などがきっかけで、親が自信ややる気を喪失してしまいネグレクトに陥るケースがあります。京都府のウェブサイトでは、以下のようなケースがあると例示しています。
- かんしゃくが激しい・こだわりが強いなど親が育てにくいと感じてしまう
- 病気や障害がある
参考
子どもの虐待はどうして起こるの? [子育て支援情報 未来っ子ひろば]|京都府ホームページ
以下は実際にネグレクトが確認された家庭での事例です。
家庭での様子を母に確認したところ、長男は、幼い頃から落ち着きがない、気に入らないと何を言ってもダメ、同じ失敗を繰り返す、注意しても同じことをする、注意力がなくよくケガをする、友だちとのトラブルが絶えないなど、母は「育てにくい子」と感じていた、とのことであった。
(引用元:Ⅶ 事例(参考)|埼玉県 41ページ)
この子供(長男)には、ADHDの診断が下されたそうです。子供に非があるわけではまったくありませんが、親にとって子育ての負担が大きすぎた結果ネグレクトになってしまうパターンです。
社会的な要因がきっかけになるパターン
社会的な要因がネグレクトを誘発することもあります。「MSDマニュアル家庭版」では貧困・片親などが取り上げられていますが、そのほかにも下記の可能性が考えられます。
- 夫婦関係が良くない
- 育児について相談できる人がいない
- 引っ越しが多いなどで友人・親戚がまわりに少ない
子育て中の親が社会的に孤立したと感じると、ネグレクトが発生しやすいと考えられています。