歌詞の意味を知ってもっと楽しもう!
『うれしいひなまつり』は昔の言葉が多く出てきます。意味がよく分からないまま歌っていたという人も多いのではないでしょうか。歌詞の意味を知ってもっと歌を楽しみましょう。歌詞には隠されたエピソードや実は間違っている部分があります。そちらも合わせてご紹介します。
歌詞の意味をわかりやすく解説
『うれしいひなまつり』はひな人形を飾り、これからひな祭りを行う女の子が主役です。彼女から見た情景が歌詞になっています。現在の言葉に置き換えた歌詞をご紹介します。
1番
今日はひな祭り。灯篭(ぼんぼり)に火をつけて明かりをともし、桃の花を飾りましょう。すると、ひな人形の音楽隊(五人囃子)の笛や太鼓の演奏が本当に聴こえてくるようでワクワクした気分になります。
2番
ひな壇の最上段には、お殿様とお姫様がよそ行きのすました顔で並んで座っています。お世話係である3人の女性(三人官女)の1人は色白の美しい顔立ちで、先にお嫁に行ってしまったお姉さんを思い出します。
3番
金色の屏風には灯篭にともした火が映っています。それが少し揺れているので、春の柔らかな風が吹いていることが分かります。ひな人形の右大臣は赤い顔をしています。日本酒(白酒)を少し飲んだのでしょうか。
4番
今日の主役は私ですから、ひな人形のようにきれいな着物を着て、おしゃれをしましょう。3月のこのすばらしい日にひな祭りができることがとても幸せです。
亡き姉へのレクイエムだった?
2番の「お嫁にいらした姉さまに」という歌詞。これはサトウハチローの実姉のことを歌っていると言われています。姉は嫁ぎ先が決まった矢先、結核を患い18歳という若さで亡くなりました。サトウは歌の中だけでも姉を嫁がせてあげようと鎮魂の意味を込めてこの詩を書いたと言われています。そう考えると、少し悲し気な曲調であることも相まって、亡き姉へのレクイエムのように聴こえてきます。
また、「よく似た官女の白い顔~」という歌詞には2つの解釈が存在しています。1つ目は、昔は色白であることが美人の条件だったので、官女が美人の姉に似ているというものです。2つ目は亡くなった姉が結核のせいで青白い顔をしていたので、官女の白い顔を見ると病気の姉を思い出すというものです。この2つ目の解釈のため、『うれしいひなまつり』に少し怖いイメージが持たれることもあるようです。
歌詞には間違いがある?
実は歌詞には2点間違った部分があります。どこのことか分かりますか?
間違い1:「お内裏様とおひな様」
「お内裏様とおひな様」という歌詞ですが、これが指すのはもちろん、ひな壇の最上段に飾られる男女の人形のことです。「お内裏様」を男の人形、「おひな様」を女の人形だと思っている人が多いのですが、実はこれが間違いなのです。
「お内裏様」とはひな壇の最上段に飾られる男女1組のひな人形を指し、天皇・皇后を敬った言葉です。それぞれの人形の正式な名称は男雛(おびな)・女雛(めびな)と言います。「おひな様」とはひな人形すべてのことを指します。
実際にサトウハチローが誤った認識をしていたかどうかは分かりませんが、これに続く歌詞が「ふたり並んで~」なので、「お内裏様=男の人形」、「おひな様=女の人形」と勘違いされてしまったようです。
間違い2:「赤いお顔の右大臣」
ひな人形をよく見てください。赤い顔をしているのは左右どちらの大臣でしょう? 確かに向かって右側にいる大臣ですが、実はこちらは左大臣なのです。覚え方としては、人形側から見て右側にいるのが右大臣、左側にいるのが左大臣です。人形を見る私たち側からするとそれが反転してしまうので、確かにややこしいです。のちにサトウハチローの家族が、これは父の単純な間違いだったと語っています。
作詞家自身には嫌われた歌
レコード発売後、サトウハチローさんは歌詞の間違いに気がつきました。児童教育者からも訂正を求める声が上がりましたが、時すでに遅し。歌の普及スピードに訂正が追いつかず、間違ったまま世間に広まってしまいました。そして、それが現在にまで続いているということです。
サトウハチローはこの間違いを気にし、毎年ひな祭りの時期にこの歌が流れるといつも不機嫌になっていたと家族が語っています。現在でも歌い継がれる名曲にも関わらず、作詞家自身には生涯嫌われたままの歌でした。
『うれしいひなまつり』が親しみやすい理由
『うれしいひなまつり』が生まれて80年以上経ちますが、今でもひな祭りと言えばこれと言われるほど定番の歌です。では、なぜこれほどまでに人気になったのでしょうか。それは、この歌が日本人になじみ深い「ヨナ抜き音階」で作られた歌だからです。
日本独特の「ヨナ抜き音階」
こちらは『トルコ行進曲』をヨナ抜き音階で演奏したものです。なんだか和風の響きに聴こえます。
「ドレミファソラシ」は明治時代に西洋から日本に輸入された音階で、当時の日本では「ヒフミヨイムナ」と呼んでいました。それまでの日本ではここから「ヨ(ファ)」と「ナ(シ)」を抜いた五音音階が主流で、当時の日本人にとって「ドレミファソラシ」の七音音階はとても難しいものでした。そこで政府は学校で教える唱歌を五音音階で作るように取り決め、五音音階であるヨナ抜き音階を発案しました。
「ヨナ抜き音階」の代表曲
ヨナ抜き音階には日本人の心に根付く和のノスタルジックな響きがあり、現在の日本人にとっても親しみやすいメロディーとなっています。実はJ-POPでもヨナ抜き音階で作られた歌が数多くあります。有名なものには、松任谷由実の『春よ、来い』がそうです。美しい日本語を使った歌詞とヨナ抜き音階の懐かしいメロディが相性ぴったりで、情緒を感じる歌となっています。意外なところでは、きゃりーぱみゅぱみゅの『つけまつける』や、一見するとテクノミュージックであるPerfumeの『レーザービーム』も大部分がヨナ抜き音階で作られています。
日本人にとってヨナ抜き音階は、昔から親しんできた音楽の原点のようなもので、1度聴いただけで覚えやすく、ついつい口ずさんでしまうようなメロディーラインなのです。『うれしいひなまつり』も日本の伝統文化であるひな祭りとヨナ抜き音階の懐かしい響きがぴったり合っているため、現在においても日本人の和の心をくすぐり、衰えることなく人気なのでしょう。