TALISの調査結果から読み解く日本の教育現場の実態と課題 - cocoiro(ココイロ) - Page 2

調査結果から得られた日本の教育環境の現状

世界各地で優秀な日本人が世界の国々のために活躍していることから分かるように、日本の教育は非常にきめ細やかで高水準なのは想像に易いでしょう。各国・各地域によって環境は異なるとは言え、日本の教育環境の優れている点は多々あります。
しかし、その他の産業と同じく、教員の働く環境としては過酷な労働環境など問題点がいくつかありました。

日本の教育環境の特筆すべき点1:教育環境

まず、特筆すべき日本の教育の優れている点は、参加国の学校と比較して日本の学校の雰囲気はおおむね良好で、問題を抱えている生徒・学級などの比率が低いことです。例えば、生徒による暴力行為や脅迫、遅刻・欠席、カンニングの頻度、教員間の信頼関係、生徒と教員との信頼関係、地域との連携などに関して非常に良い環境であることが分かりました。

良質な教育環境や優秀な生徒が多い点に関しては、いくつかの要因があります。1つ目に、日本では困難を抱える生徒が他国に比べて少ない点です。外国人の人口が増えてきている昨今ですが、それでも移民大国とは異なり、中学校に通う生徒の大半は授業で使う言語が母国語であり、また、特別支援を必要とする生徒も少なく、社会経済的に困難な家庭環境の生徒も比較的少ないというバックグラウンドがあります。

例として、特別な支援を必要とする生徒が11%以上いる学校の教員の割合は、日本で9.2%。参加国の平均25.5%と比べて半分以下となります。また、少なくとも1週間に1度は「器物破壊・窃盗」がある、という設問に対しては日本3.1%、参加国平均4.4%。「生徒間の脅迫又は暴言(もしくは他の形態の非身体的いじめ)」は日本3.6%、参加国平均16.0%。「生徒間の暴力による身体的危害」は日本1.6%、参加国平均2.3%という結果であり、比較的日本の教育環境は問題が少ないと言えます。

しかし、今後の日本は今とは異なる人口構成になっていくだろうという予想ができます。そのときどのように教育環境を変えていく必要があるのか、地域全体で考える必要があります。

日本の教育環境の特筆すべき点2:教員にとっての勤務環境

日本の学校では、教員同士が学び合える校内研修、授業研究等の伝統的な実践の背景があり、教員が組織内指導者(メンター)による支援を受けている割合が高く、校長やそのほかの教員から フィードバックを受けている割合も高いことが分かりました。また、「メンター」がいる教員の方が仕事へ対する満足度や意欲も高いことが結果から得られました。

授業研究では、ほかの教員の授業を見学して感想を述べるという内容のものを、日本で93.9%、参加国が平均で55.3%実施。日本の教員は他国に比べて非常に熱心にスキルアップのための時間を組織的に創出していることが見えます。

日本の教育環境の課題

教員の長時間労働

2013年のTALISの結果から、日本の教員が国際的に見ても、参加国の中でも最も長時間労働であったことが話題になりました。日本では通常時の1週間に平均53.9時間労働、対して、参加国の平均は38.3時間です。

実際の教育に関わる部分(授業、授業の準備、行事など)のほかに事務業務や部活動などの課外活動への時間も、日本は週8時間、参加国平均週2時間と、国際的に見ても非常に長いことが分かりました。

労働時間が短い国と比較すると、それらの国では教員以外にアシスタントやスタッフなどがおり、事務作業などを分業しており、教員が本来するべき仕事に集中できる環境にあることなども労働時間の違いに影響することが分かります。

女性教員が他国と比べ圧倒的に少ない

参加国の中には、教員のうち女性の割合が全体の3分の2を越える国が22ヶ国もありますが、日本は参加国の中で唯一女性の割合が半分を下回っています。参加国平均は68%に対し、日本は39%という結果です。他産業や政府の男女比同様、日本人女性の占める割合は他国と比べて非常に低いのが現状です。

そこには、日本の教員採用の条件に「大学卒以上」というのはもちろん、「常勤」という条件が多いことがあります。元々初等教育は「女性の仕事」という認識だった中、1969年にILO(国際労働機関)、UNESCO(国際連合教育科学文化機関)による「教員の地位に関する勧告」が契機となり、「教職は専門職とみなされるべきだ」という考えが広まりました。その際、自立した職業としての身分、権利、待遇条件等が整備され始め、男性教員が増えると同時に女性教員が減ってしまった、という歴史があります。

そのような歴史を踏まえると、少しずつではありますが、現在ようやく4割弱の教員が女性となり、半数に近づいてきているという見方も出来ます。今後、その他産業と同様に教員たちの「働き方改革」を進めていくことでこの結果も変わっていくことでしょう。

教員・校長の仕事への自己効力感が低い

TALISの結果において、子を持つ親として1番気になる点は、教員、特に校長の仕事への自己効力感が低いことでは無いでしょうか? 教員へのアンケートで、「現在の学校での自分の仕事の成果に満足している」と「非常に良く当てはまる」、「当てはまる」と回答した人の割合は、日本では50.5%、参加国平均は92.6%でした。校長への同様の質問でも日本は59.8%、参加国平均は94.5%と、教員と同様の結果です。

教員の長時間労働に関しては上記のとおりですが、そのほかに加える点として、日本の平均学級人数が他国と比較して非常に多いことも上げられます。日本の平均人数が20.3人なのに対して、参加国平均は12.4人です。見なければいけない生徒の数が多ければ、仕事量が増えるのは必然です。

また、日本では学校や教員に求められることが非常に多く、責任も重いです。労働時間の長さからも伺えますが、自分の担当科目だけ教えれば良いのではなく、行事や部活動など、生徒の人格形成にも関わる部分が他国に比べて大きいです。また、学校や学級で問題が起きたときに、教員や学校に責任を求められることも他国に比べて多い印象です。

人格形成や生徒間の人間関係の部分にまで関わっていくとなると、学力のように数値化可能な分かりやすい指標とは異なり、ゴール設定がしづらいものです。また、変化していくものでもあることから、教員にとって達成感や満足度が低くなる要素にもなっていくと見られています。

日本人の性格的に謙遜している可能性もあり、また仕事の成果の判断基準が個人によって異なるので一概に評価するのは難しいのですが、日本人教員の自己効力感の低さは気になるところです。

前述のとおり、日本の教員には生徒の学習に関する業務以外でも求められることが非常に多く、自分の学級の学力が高く、問題も少なくても、生徒の「人格形成」の部分などとなると周りからの評価も難しく、教員自身の自己効力感も低くなってしまう傾向になっているのではないかと言われています。

また、多くの校長の自己効力感が低い結果となった要因として、「不十分な学校予算や資源」(日本84.2%、参加国平均79.5%)、「政府の規制や政策」(日本64.8%、参加国平均69.1%)、「教員の職能開発の機会と支援の不足」(日本54.0%、参加国平均42.6%) という結果が出ており、現在の教育ニーズを満たすことができる人材や資源が不足している現状が分かります。

その背景として、教員の業務量・勤務時間の長さによる多忙感、生徒の抱える課題の多様化による専門的なスキルの必要性が高まっていることが考えられます。

校長のリーダーシップおよびステレオタイプ

日本は他産業と同様に、女性校長の割合が参加国中最も低く(日本6.0%、参加国平均49.4%)、校長の平均年齢は参加国平均よりも高く(日本57.0歳、参加国平均51.5歳)、50歳代の校長の割合が参加国中最も高い結果(日本80.4%、参加国平均47.5%)となりました。この数値は他産業の管理職の男女比にも近いものがあるのではないでしょうか。

一方、日本の校長の職能開発への参加状況については、「専門的な勉強会、組織内指導(メンタリング)、 調査研究」への参加率が参加国平均と比べてやや高いのですが、仕事に対する満足度は「現在の学校での自分の仕事の成果に満足している」(日本59.8%、参加国平均94.5%)「全体としてみれば、この仕事に満足している」(日本91.4%、参加 国平均95.7%)など、参加国平均より低い傾向にあります。

教員の多様性のなさ

日本の教員の教員以外の職業経験年数は、平均して1.5年と、参加国の中でも最短となっており、教員以外の世界を知らない人がほとんどとも言えます。平均値は6.5年、最大はセルビアの14.3年となっており、日本と比較するとかなり長く、さまざまな職業経験(社会経験)から多様な教育法を持っていたり柔軟な対応ができるとも言えます。

日本の場合、教育界が産業界と同様に、新卒採用中心であるという側面と教員が聖職としての性格を持っており、他分野になじまないという側面の両面があると考えられています。

参考
OECD国際教員指導環境調査(TALIS) のポイント|文部科学省
「OECD国際教員指導環境調査」から見える日本の教育の実態と課題|教育調査研究所