地方における司法書士の可能性
大都市への集中と地方での士業不足
弁護士や司法書士が都市部に集中し、地方に少ないことは、長いこと問題にされてきました。同じ日本に住みながら、地域によってトラブル時に法に守られにくいという不利益があることは、法の下の平等が保障されているとは言えないのです。
法律の専門家が身近におらず法律サービスへのアクセスが容易でない地域を、専門用語で「司法過疎地」と呼びます。この問題を解消しようと、日本弁護士連合会や日本司法書士連合会は、1990年代の後半から取り組みを重ねてきました。司法改革により弁護士合格者を増やしてきたのも、その取り組みのひとつです。
司法書士への期待と専門領域拡大
日本司法書士連合会もまた、司法書士の地方での開業を支援するなど、取り組みを続けました。司法過疎地域で開業を希望する司法書士に対しては、開業貸付金や定着貸付金などの資金援助、貸付金返済の免除制度などがあります。
平成14年には司法書士法が改正され、司法書士の職域が拡大しました。身近な紛争解決の担い手として、簡易裁判所における民事訴訟、調停などの代理権が加わったのです。日司連司法アクセス対応委員会委員長の里村美喜夫氏は、次のように述べています。
2002年の司法書士法改正による司法書士の簡易裁判所の代理権の付与は、日司連の司法過疎対策を含め、全国各地に存在する司法書士に対する期待の表れであると思っています。
(引用元:『司法過疎と司法書士』司法書士白書2019年版,p3)
地方で働く司法書士の年収と実態
司法書士が職域と任地を地道に伸ばしている努力がうかがえますが、では個々の司法書士にとって、地方で働くことはキャリアの有望な選択肢になり得るのでしょうか。司法書士連合会は「平成30年度司法書士実態調査」において、司法過疎地で開業した司法書士にアンケート調査を行っています。その集計結果を見てみましょう。
<平成29年の年収(司法過疎地で開業する前の年収と比較して)>
(参照元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版)
地方では収入が少なく経営が難しい印象がありますが、アンケート結果を見ると、必ずしもそうではありません。全国の司法書士の年収分布と大きく変わるところはなく、また開業前より年収が増えた人の方が多い結果となっています。
<司法過疎地で開業した満足度>
(参照元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版)
自由回答には、開業前の期待や不安、実際に開業してから困ったことなどさまざまな声が寄せられていますが、満足度を尋ねると総じて高い結果が出ています。司法書士連合会は、この結果を次のようにまとめています。
全国の司法書士の満足度と比較して、過疎地で開業した者の満足度は16.2ポイントも高い。司法過疎地での数少ない司法アクセスの担い手として、地域住民からの信頼を得ることで、司法書士自身の満足度が高くなっているのではないかと推察される。
(引用元:『平成30(2018)年度司法書士実態調査集計結果』司法書士白書2019年版,p6)
参考
まとめ
法律系を専攻する学生にとって、司法書士は人気の高い士業です。とはいえどんな職業でもそうですが、資格を取りさえすれば、確実な地位と収入が約束されるというわけでもありません。司法過疎地で開業した司法書士へのアンケート結果は、志をやりがいが収入を含めた仕事の満足をもたらしてくれるということの、ひとつの証明ではないでしょうか。どんな司法書士を目指しどんな仕事をしたいのか、イメージを巡らせながらキャリアパスを考えてみてください。