社会に出るための武器と強みを獲得するには
少なくとも高校を卒業しよう
こういった状況を見渡した時、「中卒で就職しても大丈夫!」と背中を押すことはできません。学歴が全てではありませんし、その人の能力や可能性を決定するものでもありませんが、中卒で就職するということは、丸腰で社会に出て行くことにも似ているのです。どんな旅に出発するとしても、最低限の装備は準備してから出かけるでしょう。少なくとも高卒の資格は取るべきです。少しくらい時間がかかってもいいのです。準備が整わないうちに駆け出す必要はありません。
今通っている高校が合わない時に取れる方法
とはいえ現在の高校に卒業まで通うことを考えると、つらくて心が折れそうになる人もいるでしょう。そんなときは一度立ち止まって、進路変更と再スタートを試みましょう。
進路変更のために取れる手段
- 別の高校を再受験する
- 別の高校に転入・編入する
- 高卒と同等以上の学力があることを証明する
現在通っているのとは別の高校を再受験し、1学年から再度スタートする方法です。高校の入学資格は、中学校卒業または同等以上の学力があると認められた人なら誰でも持てます。高校中退からの再受験も可能ですし、普通科の高校を一度卒業した人が工業科に入り直すといったようなこともできます。
保護者の転勤に伴う住所地の移動などで別の高校に移るのが転入、異なる種類の学校や外国から、1学年の途中や2学年以上に入学するのが編入です。編入は入学し直しの一種ですが、その学年在学者と同等以上の学力があると認められれば、1学年の最初からやり直さなくても、途中からスタートすることができるのです。転・編入が可能となるのは、転・編入先の学校が設けている特別定員枠の範囲内です。また入学に際しては、前の学校からの必要書類の発行や、転・編入学試験などが必要となります。
高校は卒業せず、高等学校卒業程度認定試験(旧大学入学資格検定)を受けることで、同等以上の学力があることを示す方法です。合格者は大学・短大・専門学校の受験資格を得ることができますし、就職や資格試験受験の際などに利用することもできます。また高校によっては、高卒認定試験の該当科目に合格することで、取得できなかった単位に振り替えてくれる場合があります。欠席が多く単位不足で卒業が危ぶまれるのであれば、一度学校に相談してみましょう。
参考
文初高第466号(平成9年12月25日)『高等学校における転入学者等の受入れの一層の改善について(通知)』
選択肢となる学校の種類
- 全日制課程・定時制課程・通信制課程
- 普通科・職業科
- インターナショナルスクール
全日制は昼間に授業を行う課程で、大多数の高校はこれに当たります。定時制は夜間やその他特別な時間・時期に授業を行う課程、通信制は通信により教育を行う課程です。全日制の修業年限が3年なのに対し、定時制と通信制は3年以上と定められています。
再受験や転・編入学を考える場合、全日制の高校へ入り直すことももちろん可能です。定時制や通信制は従来働きながら学ぶ人の多かった課程ですが、近年は全日制からの転・編入学の選択肢として存在感が高まってきました。通信制では、インターネットなど多様なメディアが導入されるようになってきています。
普通科は幅広い普通科目を学習する学科で、職業科は農業や工業、商業など職業に関する専門科目を学習する学科です。複数の学科を併設する高校も増えてきています。職業科の高校については後ほど詳しく述べますが、工業科を筆頭に、高卒就職において強みを発揮しています。
インターナショナルスクールは日本では、主に英語による授業が行われ、外国人の生徒を対象とする教育施設であると捉えられています。現在の高校の雰囲気になじめない人にとっては、校風が合えば編入学の選択肢となり得るでしょう。ただしインターナショナルスクールは、学校教育法上は都道府県知事の認可による「各種学校」に該当し、無認可のスクールも存在します。高校卒業後の進路によっては、大学入学資格が得られないなど不利益を受けることもありますから、事前によく調べて検討しましょう。
参考
高校卒業からの就職を目指すなら
従来から高校における職業教育を担い、多くの高卒就職人材を生み出してきたのが職業系の高校です。就職に強い傾向は現在も保持しており、高卒からの就職を目指すなら、再入学や転・編入学先として検討に値するのではないでしょうか。代表的な学科の特色と現状を見てみましょう。
工業学科:高卒就職に最も強い
独立行政法人労働政策研究・研修機構『「日本的高卒就職システム」の現在-1997年・2007年・2017年の事例調査から-』は、日本における高卒労働市場の変化と高校における職業教育と就職先決定のメカニズムを探った研究です。報告書は、職業系の高校の中でも工業科は「もっとも就職率の高い学科のひとつ」であると述べます。2000年代前半に就職率が一度低下しますが2010年代後半には70%近くまで復活、近年の景気上昇による高卒就職の復調傾向も、工業高校がけん引するものだとみています。
工業高校の進路指導・キャリア教育は、職業体験活動や実地学習が積極的にカリキュラムに組み込まれているのが特徴で、企業との継続的な関係が強いこともうかがえます。現在の工業高校では、生徒の多様化が顕著。特に女子生徒への注目が高まりつつあり、企業の採用意欲も好感触とのことです。また、発達障害の傾向を持つ生徒や外国籍の生徒などの就職において、ハローワークと連携した個別支援の取り組みも生まれてきているようです。
商業学科:景気や労働需要によって大きく変化してきた
職業系高校のもうひとつの中心として挙げられるのが商業高校ですが、こちらは工業高校とはまた違った状況を見せています。1950年代から60年代にかけて、商業高校はビジネス現場の即戦力を輩出してきましたが、70年代以降の高度成長期、日本型雇用と企業内教育が定着するにつれ力を失い、女子の商業教育に特化した「女子高化」が進みます。さらに80年代90年代には、国際化に対応するカリキュラムや学科の再編、進学者の増加や就職先の多様化など、変化を遂げてきました。
90年代初頭は卒業生の7割が就職し、女子ではその7割が事務職でしたが、現在では生徒数・就職者数・事務職割合ともに減少し、製造系の技能職や営業・販売職が増加。専門学校などへ進学する生徒も多数です。かつて厳格な校内選考で生徒を送り出していた進路指導も、様々な機会を設けて生徒の企業への理解を深め進路選択させるスタイルへと変化。報告書は今後の景気変動や若年人口の減少、社会変化や技術革新などを展望し、「商業高校卒業者への労働力需要の質も量も、また新たな変動にさらされるのではないかと思われる」と結んでいます。
福祉系学科:近年大きく伸びを見せる分野の「福祉」
近年産業人口の大きな伸びを見せているのがサービス業です。報告書は、高卒求人の最も多くを占めていた製造業のウェイトが低下し、代わって建設業や医療・福祉分野の求人ウェイトが高まってきている現状を概観。福祉関係サービス職の求人増加は間違いないところだろう、と述べています。
社会状況の変化を受け、高校における新しい職業教育として生まれてきたのが、福祉系の学科です。1987年「社会福祉士及び介護福祉士法」によって福祉系高校が介護福祉士養成ルートのひとつとなり、1999年には高等学校学習指導要領において教科「福祉」が新設されました。現在、高校における介護福祉士養成教育は、福祉系高等学校と特例高等学校で行われています。これらの高校で定められたカリキュラムを履修すると、介護福祉士試験の受験資格を得ることができます。
福祉系の高校は歴史が新しく制度変更もたびたびで、まだ定まった評価があるとは言えません。今後も制度は変更を重ねると考えられます。とはいえ将来福祉分野の仕事に就くことを考えるなら、キャリア構築ルートのひとつとして検討してよい学科かもしれません。
参考
独立行政法人労働政策研究・研修機構(2018年)労働政策研究報告書No.201『「日本的高卒就職システム」の現在-1997年・2007年・2017年の事例調査から-』
瀧本知加(2009年)『高校福祉教育における介護福祉職養成カリキュラムの現状と課題』産業教育学研究 Vol.39, No.1
廣田智子(2017年)『高等学校における教科「福祉」教育の現状と課題』山口県立大学学術情報 Vol.10(高等教育センター紀要 Vol.1)