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高校に入学したものの思うような学校生活が送れない。子供がそういった状況にある時、保護者は「学歴が中卒になったら、将来仕事に就くことはできるだろうか」と心配せずにいられないでしょう。一方で「学歴よりも本人の実力が大事」「あの有名人も中卒」など、肯定的な声も耳にします。わたしたちは「中卒からの仕事」をどう考えたらいいのでしょうか。いくつかの研究成果から論じていきます。
中卒のキャリアをデータから見る
中卒の多くは高校中退によるもの
文部科学省「学校基本調査」から中学校卒業後の進路状況を見ると、平成29年度の就職者は全卒業者の0.2%です。文部科学省「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」によると、同じく平成29年度には高校生の1.3%が中退しており、高1での中退率は1.6%でした。つまり中卒との多くは高校を中退しているということが分かります。
下のグラフは、高校中退の理由の年次変化を示したものです。昭和57年度ではそれぞれの理由の割合に大きな差はありませんが、年を追うごとに、学業不振を理由とする中退が減る一方で学校生活や学業への不適応、進路の変更が大きく増加。特に平成6年度以降、学校生活や授業に興味が持てない、人間関係や学校の雰囲気になじめないといった学校生活・学業への不適応が急上昇しています。
■高校中退の理由の推移(昭和57年~平成29年、縦軸は%)
※平成16年度までは公私立高等学校を調査。平成17年度からは国立高等学校、平成25年度からは高等学校通信制課程も調査。高等学校には中等教育学校(中高一貫校)後期課程も含む
(文部科学省「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」7.高等学校中途退学等, <参考1>事由別中途退学者数の構成比の推移 より筆者作成)
参考
文部科学省「平成30年度学校基本調査 結果の概要(初等中等教育機関、専修学校・各種学校)」卒業後の状況調査, 1 中学校卒業者
文部科学省「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」7.高等学校中途退学等
中卒者の雇用形態と最初の就職先
中卒の学歴で就職した場合、どのようにキャリア形成しているのでしょうか。厚生労働省の「平成25年若年者雇用実態調査の概況」から見てみます。調査対象は15~34歳の若年労働者です。
■学歴と現在の雇用形態(単位:%)
正社員 | 正社員以外 | 有期雇用
(正社員以外のうち) |
無期雇用
(正社員以外のうち) |
|||
フルタイム | 短時間 | フルタイム | 短時間 | |||
中学卒 | 37.5 | 62.0 | 15.7 | 5.5 | 17.2 | 23.6 |
高校卒 | 57.1 | 42.8 | 18.4 | 6.9 | 9.7 | 7.7 |
大学卒 | 79.6 | 20.4 | 12.4 | 3.0 | 2.4 | 2.7 |
※関係データを筆者抜粋、作成したため、上記の表の数値合計は100%にならない
学校卒業から1年以内の状況を見ると、中卒者の正社員勤務は12.6%とさらに低く、最初の就職先で正社員になれていないことが分かります。最初の就職先からの勤続割合は13.7%と、大卒者62.7%の半分以下。退の理由は上位から「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「賃金の条件がよくなかった」「不安定な雇用状態が嫌だった」と続き、雇用条件の厳しさがうかがわれます。
参考
厚生労働省「平成25年若年者雇用実態調査の概況」〔個人調査〕表12. 性、年齢階級・在学の有無・最終学歴、雇用・就業形態別若年労働者割合
中卒者の収入状況
収入の状況はどうでしょうか。下のグラフは、雇用形態別の平成25年9月に支払われた賃金の分布です。中卒者の多くが該当する正社員以外の賃金は、10~15万円の層が最も大きいボリュームゾーン。次に大きいのが5~10万円です。正社員に比べ、低賃金域に大きく偏っていることが分かるでしょう。
■雇用形態別の賃金総額
※会社から支払われた賃金の総額(税込)による階級。残業手当など通常月に支給される諸手当を含み、賞与・一時金・特別手当を除く。
※「支給なし」は、9月分の給与算定期間より後に採用されるなど、9月の給与支給がなかったもの。
(厚生労働省『平成25年若年者雇用実態調査の概況』表16. 雇用形態、性・正社員以外の就業形態、賃金総額階級別若年労働者割合 より筆者作成)
中卒で就職することのリスクを知る
若者とキャリア形成についてはこれまでさまざまな研究が積み重ねられており「高卒であることは若者のキャリア形成においてウィークポイントとなり得る」という問題が指摘されています。中卒ならさらに厳しい状況にあることが予想されます。研究成果のひとつから、中卒就職のリスクを読み取っていきましょう。
非正規雇用になりやすい
独立行政法人労働政策研究・研修機構の『大都市の若者の就業行動と意識の展開-「第3回 若者のワークスタイル調査」から-』は、過去の調査や研究を踏まえながら、東京都の20代若者のキャリア形成や職業意識について調査分析したものです。調査年は2011年、調査対象者の学歴は中卒・高校中退から大学・大学院卒としました。
東京都は、他地域からの流入が多いことや大学進学率が高いこと、高卒者の安定した就職先となる業種が少ないことなどから、高卒者が安定したキャリアを築くことが難しい地域類型に分類されています。この調査での中卒・高校中退者の正社員比率は、上記「平成25年若年者雇用実態調査の概況」の示す数字よりさらに低く、7.8%です。性別で見ると男性10.7%、女性2.9%と、女性は極めて低い水準にとどまります。学校を出て初めての職に就く時正社員となる比率は高学歴者ほど高く、学歴が正社員として職に就く機会を規定するという関係は、過去の調査からも継続して見られる傾向です。
正社員転職が難しい
最初の就職が非正規雇用になりがちだとして、その後の正社員への転職可能性はあるのでしょうか。これについても、難しい結果が出ています。中卒・高校中退者は最初の職から一貫して非正規雇用のケースが多く、男性では正社員への転職もありますが、女性は特に難しい状況にあります。
■中卒・高校中退者の職業キャリア類型(単位:%)
一貫して非正規 | 非正規から 正社員へ転職 |
現在は自営や 家業に従事 |
現在は無業 | |
男女計 | 42.2 | 25.2 | 11.1 | 12.2 |
男性 | 21.4 | 33.9 | 16.1 | 16.1 |
女性 | 76.5 | 11.8 | 2.9 | 5.9 |
※データを筆者抜粋、作成したため、上記の表の数値合計は100%にならない
20代後半の人たちで、3年後に実現したい働き方として非正規雇用の継続を挙げる人は男性で8%、女性で26%と決して多くありません。非正規雇用で働くという選択が、必ずしも本人の希望ではないことがうかがえます。
参考
独立行政法人労働政策研究・研修機構(2012年)労働政策研究報告書No.148『大都市の若者の就業行動と意識の展開-「第3回 若者のワークスタイル調査」から-』図表1-16 学歴別原職業キャリアの分布
仕事の強みとなるスキルや資格を身につけづらい
職業キャリアの形成と本人の自覚する仕事の強みの間には、関係があります。一貫して非正規雇用にある人たちでは「強みなし」「無回答」の回答が多く、また強みが接客系の対人能力に偏りがちで、スキルや資格などを挙げる人が少ない傾向があります。
強みを獲得する場としては職場経験や学校での学びなどがありますが、中卒者はその両方の環境を失いがちです。非正規雇用の場合、企業があまり能力開発トレーニングを行わないという問題が従来から指摘されており、職場経験がキャリアアップになかなか結びつきません。また学校を通して強みを獲得した人が多いのは、職業系の高校や理系・工業系・資格系の高等教育機関を卒業した人たちです。中卒者がキャリアのスタートにおいて不利な状況に置かれ、それを覆す教育機会にも恵まれにくい状況がうかがえるでしょう。
参考
独立行政法人労働政策研究・研修機構(2012年)労働政策研究報告書No.148『大都市の若者の就業行動と意識の展開-「第3回 若者のワークスタイル調査」から-』