図書館教育における現場の実践
読書環境の整備から総合的な学習のサポートへ
学校図書館専門職の仕事は、従来的な「読書活動」「読書教育」の役割を担うものから、情報や資料を調べて利用する、情報の使い方を学ぶといった「情報リテラシー教育」へと広がりつつあります。
小学校では2000年から段階的に「総合的な学習」が始まり、自分で調べて考える探究的な学習が進められています。中学校や高校でも、主体性を持って自ら学ぶ態度や、考え判断した結果をまとめたり発表したりする力が重視されるようになってきています。
こういった学びのプロセスは、まさに学校図書館が専門とする分野。読書指導にとどまらない総合的な学習のサポートが、図書館専門職の職務となってきているのです。
参考
堀川照代(2012年)『学校図書館を活用した教育/学習の意義』明治大学図書館情報学研究会紀要 No.3
教員と学校司書、司書教諭の役割分担と協力関係
学校現場で、教員と司書教諭、学校司書はどのように役割を分担し協力関係を築いているのでしょうか。その現状と協働のプロセスを調査した研究が『学校図書館員と教員による指導上の役割分担形成プロセス-学校図書館を利用した授業における協働の分析-』(庭井史絵, 2016年)です。
この研究から見えてきたものは、担当領域の線引き意識や立ち位置に対する迷い、授業へ関与することの自信、教員との関係性などの間で揺れ動きながら、司書教諭や学校司書が、自分なりの授業への関わり方を見つけ構築していく姿でした。
論文は、次のように結論付けています。
図書館員と教員の役割分担とは,それぞれの専門性に基づいた,明確な指導領域の分化を指すのではなく,両者が,当該授業の目的とお互いの役割を計りあいながら,もっとも効果的で納得のいく関係を構築していくプロセスであると言える。
(引用元:庭井史絵(2016年)『学校図書館員と教員による指導上の役割分担形成プロセス-学校図書館を利用した授業における協働の分析-』日本図書館情報学会誌 Vol.63, No.2 ,p106)
教員の要望から考える学校司書と司書教諭のあり方
司書教諭と学校司書の職務のありかたを教員の側から探った研究が、『小中学校司書教諭・学校司書の学習支援に関する職務への教員の要望:質問紙調査の分析から』(吉澤小百合ら, 2017年)です。
この研究からは、資料や情報を効果的に提供してくれる司書としての役割を求める教員が多いこと、特に読書指導と教科指導を不可分のものとして捉え、学校図書館の授業活用へ高い感心と期待を寄せていることなどが分かりました。
一方で、授業や図書館利用の企画立案、教員と図書館職員のチームティーチングなど、より密接な協働が必要となる分野については教員は消極的であること、司書教諭や学校司書の支援に期待しつつも現実的には厳しい環境があること、などの課題も見出されています。
期待と現実のギャップが生まれている原因は、司書教諭や学校司書を取り巻く厳しい職務環境にあります。担任を兼任する司書教諭や非常勤勤務の学校司書が多い現状では、時間的制約の中負担が重くなることを懸念し、支援を依頼するのをためらう教員も多いのです。
教員と図書館職員、双方の意識を変えていくとともに、配置や職務環境に関する行政的な条件整備が必須です。論文は、次のように結論付けています。
今後学習指導要領の改訂に伴い国内の教育の在り方が徐々に変化していくことは必至であり,(中略)司書教諭・学校司書が教員らの要望に柔軟に対応していくことができるよう,学校図書館における学習支援に関する職務内容を再構築していくことが望まれる。
(引用元:吉澤小百合ら(2017年)『小中学校司書教諭・学校司書の学習支援に関する職務への教員の要望:質問紙調査の分析から』日本図書館情報学会誌 Vol.63, No.3 ,p156)
学校図書館の未来への展望
情報収集と活用の場としての図書館
今日の学校図書館は、子供が自分で情報を集め分析しアウトプットする、その方法を学び能力を育てる場として、重要な意味を持っています。アメリカやカナダでは、1980、90年代以降、子供たちが探索的に自分の課題解決を進め、情報を集めながら焦点を明確化し、他者とともに検討しながら深めていく学習プロセスを確立。その教育を担う中心的役割に学校図書館を置きました。
参考
堀川照代(2012年)『学校図書館を活用した教育/学習の意義』明治大学図書館情報学研究会紀要 No.3
子供たちを「情報を使いこなせる大人」に育てる専門職
司書教諭、学校司書は、これからの時代の学びを支え、子供たちを「情報を使いこなせる大人」に育てる、重要な役割を担った専門職です。
少し前の論文になりますが、『司書教諭のいる学校図書館と情報教育の可能性-1つの事例報告』(青山比呂乃, 2000年)は、インターナショナルスクールにおける情報教育の事例報告を通じて、未来へ向けた情報教育の展望を述べています。
論文は、最後にこのように語ります。
小さい子供の誰もが触れる本の世界。面白そうな動画が動き回るコンピュータの世界。そこから,高度な情報検索,加工などに至るまでの道筋を,そろそろもう少し整備しても良い時期に来ているのではないだろうか。
(引用元:青山比呂乃(2000年)『司書教諭のいる学校図書館と情報教育の可能性-1つの事例報告』情報の科学と技術 Vol.50, No.8, pp.425-431)
そして、その道を整備するのはは教科教員や情報科教員、司書教諭の仕事であり、連携してより効果的な教育プログラムを考え活発な活動を日本中で展開していけば、子供たちがよりスムーズに道を歩んでいけるようになるのではないだろうか、と結んでいます。
まとめ
司書教諭と学校司書は、大きな可能性を秘めた仕事です。制度が整っているとは言えませんし、業務内容も固まっていません。仕事に就いたら思考錯誤と模索の連続でしょうし、タフでチャレンジングな仕事であるとも言えるでしょう。けれど、今後ますます重要性を増していく「言語と情報」のリテラシー教育を担い、子供たちの未来に広がる情報の世界へ道筋をつける役割を果たすことは、非常に意義のあることなのではないでしょうか。
参考
子どもの読書サポーターズ会議(平成21年3月)『これからの学校図書館の活用の在り方等について(報告)』
文部科学省児童生徒課 平成28年度「学校図書館の現状に関する調査」結果について(概要)
成清鉄男(2003年)『小・中学校における学校図書館経営の現状と課題』教育経営学研究紀要 No.6, pp.83-86
堀川照代(2012年)『学校図書館を活用した教育/学習の意義』明治大学図書館情報学研究会紀要 No.3
庭井史絵(2016年)『学校図書館員と教員による指導上の役割分担形成プロセス-学校図書館を利用した授業における協働の分析-』日本図書館情報学会誌 Vol.63, No.2
吉澤小百合ら(2017年)『小中学校司書教諭・学校司書の学習支援に関する職務への教員の要望:質問紙調査の分析から』日本図書館情報学会誌 Vol.63, No.3
青山比呂乃(2000年)『司書教諭のいる学校図書館と情報教育の可能性-1つの事例報告』情報の科学と技術 Vol.50, No.8, pp.425-431