多様性ある教育を求められる現代において、「インクルーシブ教育システム」の必要性が説かれています。日本では、2010年ころからその考え方が教育現場にも広まっていますが、十分ではないとの指摘もあるのが現状。その定義や諸外国での対応、文部科学省での実施項目などについて解説します。
もくじ
インクルーシブ教育システムとは
障害者のサポートを目的にした教育システム
インクルーシブ教育システムは、人間の多様性を尊重して、障害を持つ子供が精神面や身体面の能力を発揮できる環境を作り、障害の有無にかかわらず通常学級で学ぶことができるよう目指した教育理念及びプロセスです。
インクルーシブ教育は、1994年のUNESCOで行われた国際会議でその概念が広まりました。「Education for All」(万人のための教育)というコンセプトの下、全ての子供が学ぶ機会を得られる教育を目指しています。
参考
インクルーシブ教育とは?その考え方や背景、具体的な取組み、課題点についてまとめました。|LITALICO発達ナビ
明治時代以前の日本では、障害のある子供は教育の対象外となり、学習の機会すら与えられませんでした。明治に入ってから養護学校として、障害者に向けた学校も設立されました。しかし、養護学校に通うために遠方に通わなければならず、市民から批判の声も多く寄せられました。1980代に入って、障害者の有無にかかわらず同じ環境で学ぶ取り組みが進みましたが、制度のみが先行して「授業についていけない」「いじめや中傷の対象になる」といった問題が生じていました。そんな中、日本では、2010年ころから文部科学省によって、インクルーシブ教育の考え方が入ってくるようになりました。
全ての子供が一緒に学べる
インクルーシブ教育の導入により、障害のある子供へのサポートを踏まえた環境整備が行われるようになりました。インクルーシブは、英語で「inclusive」という単語で、「包括的」「包み込む」といった意味を持ちます。つまり、障害に限らず、子供たちそれぞれの能力や特性を考慮して、全ての子供が一緒に学ぶことができる教育が「インクルーシブ教育」というのです。
日本ではインクルーシブ教育の実現のため、大きく分けて「合理的配慮」と「基本的な環境の整備」の2点を実施しています。
「合理的配慮」では、一人ひとりの特性や場面に応じて発生する障害や困難さを取り除くための調整や変更を行います。例えば、水筒や帽子、体操着の置く場所を固定して誰でも持ち物の整理ができるようにする、先生が重要な箇所を繰り返し、ゆっくりとした口調で話すといった工夫を進めています。
「基本的な環境の整備」では、学校生活の中で障害のある子供にとって不便に感じることを取り除いていくことです。例えば、自力で移動の困難な子供のために校内の段差を減らすスロープやエレベーターの設置、市区町村による子供たちを支援するボランティアスタッフの設置などの取り組みが進められています。
参考
3.障害のある子どもが十分に教育を受けられるための合理的配慮及びその基礎となる環境整備|文部科学省
海外のインクルーシブ教育
諸外国のインクルーシブ教育の実施状況について解説します。
イタリアが最も障害者に教育機会を与える
インクルーシブ教育の教育機会を最も与えている国の代表として挙げられるのが、イタリア。国立特別支援教育総合研究所ジャーナルの調査によると、イタリアでは、法律上の取り決めにより、ほぼ全ての子供が通常学級で就学しています。そのイタリアを除くと、イギリスでは、障害の持つ子供など、特別なニーズに対応している教育機関が全体の約1.41%、スウェーデンが1.26%。日本は、0.69%にとどまっています。
参考
諸外国における障害のある子どもの教育|国立特別支援教育総合研究所ジャーナル)
諸外国で新たな法律による教育改革が行われる
国立特別支援教育総合研究所ジャーナルの調査の中で、着目すべき点は、各国での教育改革の進み具合です。イギリスでは、2014年に早期と学齢期に行っていた2種類の通常学校での4支援を一つのサポートに統合しています。調査では、通常学校での支援対象の子供が減少傾向にあることが分かりました。また、アメリカでは2015年に「全ての子供が成功する法」(Every Student Succeeds Act)が再認可されました。フィンランドでは、2016年5月に「障害者権利条約」を批准しています。