就学前教育と小学校教育の連携の重要性
2018年、乳幼児期の保育や幼児教育の内容に大きな影響がある「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」などが改訂・施行されました。今回の改訂では、就学前保育と小学校のつながりについて詳しく明記されており、注目を集めています。
新しく改訂された『幼稚園教育要領』(フレーベル館)には以下のような記述がありました。
幼児は、幼稚園から小学校に移行していく中で、突然違った存在になるわけではない。発達や学びは連続しており、幼稚園から小学校への移行を円滑にする必要がある。しかし、それは、小学校教育の先取りをすることではなく、就学前までの幼児期にふさわしい教育を行うことが最も肝心なことである。つまり、幼児が遊び、生活が充実し、発展することを援助していくことである。
(引用元:文部科学省(2018年3月)『幼稚園教育要領解説』,p90 フレーベル館)
幼稚園や保育園と小学校では子供の生活スタイルや教育方針が異なります。小学校入学後、そのギャップに苦しむ子供が出ないよう、就学前教育と小学校教育の連携が重要視されています。
各自治体が取り組む「就学前教育カリキュラム」とは
国立教育政策研究所の調査結果によると、2012~2015年度に「幼小接続のカリキュラム」が作成されたのは、96自治体(重複あり)でした。内容は自治体ごとに異なりますが、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿が明確にされており、実践事例や実践例など具体例が提示されているのが特徴です。
参考
幼小接続期カリキュラム 全国自治体調査の分析|掘越紀香(幼児教育研究センター)
「就学前カリキュラム」の基本的考え方
自治体ごとに内容が異なる「就学前カリキュラム」ですが、いずれも「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」などを根底に置いているため、基本的な考え方に大きな違いはありません。ここでは東京都教育委員会が作成し、都内の幼稚園や保育所、小学校などに配布した「就学前教育カリキュラム」をご紹介します。
1)確かな学力
東京都では、生きる力として「確かな学力」を重要視しています。知識や技術だけでなく、学ぶ意欲や課題を見つけることなど、「主体的な学び」が確かな学力につながるとしています。言葉の獲得や探求力、表現力が生きる力の基礎となるとされています。
東京都では、確かな学力を身につけた子供像を以下のように想定しています。
○興味や関心をもったことに主体的にかかわったり、そのことを遊びに取り入
れたりする。
○自分の考えを相手に分かるように伝えたり、友達や先生の話に関心をもって
すすんで聞いたりする。
○目的に向かって繰り返し考えたり、試したりしながら最後までやり遂げる。
○経験したことを取り入れたり、身近な物や用具などの性質や仕組みを生かし
たりして遊びや課題に取り組む。
○生活や遊びを通して感じたことや考えたことなどを、様々な表現方法で自由
に表現することを楽しむ。
(引用元:就学前教育カリキュラム『就学前教育カリキュラムの基本的な考え方』,P9 改訂版|東京都教育委員会)
2)豊かな人間性
生きていく上で欠かせないのが、他人を思いやる心や感動する心を持つ「豊かな人間性」ではないでしょうか。東京都では自らを律しつつ、他人と協調することを重要視しており、社会生活における望ましい習慣や態度を身につけることが豊かな人間性につながると考えています。東京都では、確かな豊かな人間性を身につけた子供像を、以下のように想定しています。
○様々な人への信頼感をもち、自分の思いや考えを伸び伸びと表現する。
○友達の思いや考えを受け止め、相手の気持ちを大切に考えながら行動する。
○友達と互いのよさを感じながら協力したり、一緒に解決策を考えたりしながら遊びを進める。
○相手も自分も気持ちよく過ごすために、してよいことと悪いことの区別など を考えたり、自分の気持ちを調整したりして行動する。
○動植物など命のあるものを大切にする。
(引用元:就学前教育カリキュラム『就学前教育カリキュラムの基本的な考え方)
3)健康・体力
たくましく生きていくには、健康や体力も必要です。健康維持や体力アップにつながる生活習慣はもちろん、進んで運動しようとする意識を育てます。
東京都では、健康・体力を身につけた子供像として以下のように設定しています。
○衣服の着脱、食事、排せつ、片付けなど生活に必要な活動の必要性に気付き、 自分のことは自分でする。
○体を動かす心地よさを味わい、自分からすすんで遊ぼうとする。
○いろいろな遊びの場面に応じて、体の様々な部位を十分に動かす。
○友達や保育者と一緒に食べることを楽しむ。
○集団での生活の流れなどを予測して、自分たちの活動に見通しをもって取り組む。
(引用元:就学前教育カリキュラム『就学前教育カリキュラムの基本的な考え方』,P9 改訂版|東京都教育委員会)