犯罪事件などをきっかけに、メディアで頻繁に取り上げられている「引きこもり問題」。センセーショナルな報道を見ていると、「うちの子供は大丈夫!」と頷けることもあれば、「うちの子供は大丈夫?」と心配になることもあるでしょう。
子供たちは、一体何が原因で引きこもるのでしょうか。引きこもりに対して正しい知識を持っていないと、偏見を抱きがちですし、不安も募ります。今回は引きこもりについて、政府が行った調査や精神科医などの識者の意見を参考にして考えていきます。
もくじ
引きこもりとは何か?
「引きこもり」と聞くと、「自分の部屋から出てこない」イメージを持つ人も多いと思います。しかし厚生労働省の発表する定義によると、必ずしもそうとはいえないことが分かります。ここでは、引きこもりの定義について詳しく説明します。
引きこもりは病気ではない
厚生労働省は引きこもりについてこのように記しています。
「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。
「ひきこもり」は、単一の疾患や障害の概念ではなく、様々な要因が背景になって生じます。ひきこもりのいる世帯数は、約32万世帯とされています。
(引用元:ひきこもり施策について|厚生労働省)
『ひきこもり脱出支援マニュアル』(PHP研究所)で精神科医の田村毅先生は、「引きこもりは心の問題ではあるが、心の病気ではない」と断言しています。
思春期・青年期において心が十分に発達しきっていない状態と、私は考えます。だから病気にかかっているわけではなく、薬で治療するものではありません。ただし、なかには統合失調症や広汎性発達障害などが隠されていることもあります。その場合は、薬など病院での治療が大切です。病気か否かの判断は難しく、専門家の意見が必要です。
(引用元:『ひきこもり脱出支援マニュアル』田村毅・2014年・PHP研究所,P23)
まとめると、以下のすべてに該当するひとが「引きこもり」といえるでしょう。
- 家族以外の人とは交流をしない
- 仕事や学校に行かない
- 精神疾患や障害がない
- ①~③の状態が6ヶ月以上続いている
これによると、引きこもりは病気や疾患、障害ではなく、「思春期や青年期において心が十分に成長しきっていない状態」ととらえることもできます。
部屋に閉じこもるだけが引きこもりではない
内閣府が2010年に実施した「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」によると、引きこもりはその程度によって「狭義の引きこもり」と「準引きこもり」に分類できます。
以下に該当する子供が「狭義の引きこもり」です。
- 普段は家にいるが、近所のコンビニなどには出かける
- 自室からは出るが、家からは出ない
- 自室からほとんど出ない
「準引きこもり」は以下に該当する子供を指します。
- 普段は家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する
これによると、コンビニや映画鑑賞、趣味に関する用事など、1人で外出できる子供でも「家族以外の他人との交流がない」場合には、「準引きこもり」と判断されます。判断ポイントは、「他人との交流があるかどうか」です。
参考
「若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)」Ⅱ ひきこもり群、ひきこもり親和群の定義|内閣府
引きこもりが起こる原因とは?
引きこもりが起こる原因には、どのようなものがあるのでしょうか。内閣府が行った調査結果から読み解いていきます。
挫折がきっかけになることも
内閣府の調査では、引きこもるきっかけとして病気や就労関係、不登校などが多く見られました。人間関係のトラブルや成績の低下など、一種の挫折経験が引きこもりのきっかけとなると考えられるでしょう。
(参照元:若者の意識に関する調査(ひきこもりに関する実態調査)III 調査の結果(PDF,P33)|内閣府)
引きこもりになるのに理由はない?
先にご紹介した内閣府が行った「引きこもりのきっかけ」についての調査で、最多回答は「その他」でした。回答の内訳が公表されていないため、詳細は判断できません。
東京都内や埼玉県で20年以上、ひきこもりやニートなどの就労支援や学習支援などさまざまな支援活動を行う関東自立就労支援センターは、引きこもりのきかっけについてHPで以下のように書いています。
教師が体罰する場面を見て怖くなった、いざ就職という時期に動けなくなってしまった、仲間から暴力を受けた、いじめにあった、会社を辞めたとたん外に出にくくなった・・・・などがあります。
また、「ある朝、なぜか突然気力が失せて起きられなくなった」「なんとなく少しずつ外に出なくなっていった」など、きっかけらしいものが見つけにくい事例も少なくありません。
(引用元:ひきこもりの「原因」と「きっかけ」について|関東自立就労支援センター)
引きこもりになるきっかけは、明確な理由があったり、なかったりすると考えられるでしょう。