【使い方のヒント②】エアコンと扇風機、どう使い分ける?
では、エアコンと扇風機はどのように使い分けたら効果的なのでしょうか。
暑すぎる日に扇風機だけ使うのは危険?
扇風機は空気の移動を起こしているだけなのだから、暑すぎる日に扇風機を使っても、熱い空気をかき回すだけで意味がないのでは? そんな疑問に答える研究があります。
カナダ・オタワ大学のRavanelli氏らは、高温下での扇風機の使用は逆に体温を上昇させるため危険であるとの説について、比較実験を行い検証しました。その結果、扇風機の使用は、使用しない場合に比べて体温や心拍数の上昇を抑え、発汗を促進することが明らかとなりました。健康な若い男性では、気温36℃の時は湿度80%まで、42℃の時は湿度50%まで、体温や心拍数の上昇を防ぎます。
Ravanelli氏らは、高温多湿の時期でも扇風機が効果的な冷房である可能性を指摘し、猛暑の間は扇風機の使用を控えるようにという公的なガイドラインも、再評価が必要ではないかと述べています。
暑い日の扇風機について感じる不満は、健康上の懸念というよりも、快適さについての感じ方の問題ということなのでしょう。
参考
エアコンの使い過ぎは冷房病になる?
エアコンの使用が健康へ及ぼす影響はどうなのでしょうか。エアコンが冷房病を引き起こすという指摘もよく聞かれます。
冷房病とは特定の病名ではなく、体が冷えすぎたり室内外の温度差が大きかったりすることによって起こる、冷えや疲労、頭痛などの体調不良全般を指します。自律神経失調症の一種と考えられています。
睡眠時の冷房の影響について、天井設置の冷房と一般的な壁取り付けのエアコンを比較して調べた研究『冷房の気流が睡眠と皮膚温に及ぼす影響-被験者実験による冷房方法の比較-』では、次のようなことが明らかになりました。
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参考
森戸直美ら(2010年)『冷房の気流が睡眠と皮膚温に及ぼす影響』空気調和・衛生工学会論文集 No.161
冷気が体に直接当たることは、皮膚温を下げる原因になると考えられます。厚生労働省令『事務所衛生基準規則』では、部屋を冷房する際には外気温より著しく下げてはならないと明記しています(第4条)。エアコンを使う際には、体に直接風を当てないこと、設定温度を低くしすぎないことに注意しましょう。
参考
森戸直美ら(2010年)『冷房の気流が睡眠と皮膚温に及ぼす影響』空気調和・衛生工学会論文集 No.161
上手に使い分けるには
これらのことから、健康に配慮するなら扇風機の使用で問題ないこと、体感としての快適さを求めたい場合はエアコンを適温で使うこと、という使い分けの目安が見えてくるでしょう。
エアコンの間欠運転には節電効果が期待できないこと、扇風機の併用で冷房費を抑えられるとは言えず、エアコンの設定温度を高くすることに効果があることなども、いくつかの研究から分かっています。節電と冷房費抑制のカギは、扇風機の選び方よりはエアコンの使い方にあると言えそうです。
参考
電力中央研究所システム技術研究所(2011年)『エアコンの間欠運転と連続運転の節電効果比較』
林小勇ら(2016年)『震災後の節電下における家庭の冷房使用の意識と実態』日本建築学会環境系論文集 Vol.81, No.727, PP.785-794
まとめ
健康面における扇風機の利点、省エネと電気料金節約はエアコンの使い方次第であること、などが見えてきました。高めの適温に慣れ、自然の風と扇風機の風の心地よさを再発見する。近年存在感を増してきた「風の質」重視の高性能扇風機は、実はエアコン偏重を脱して扇風機に比重を移すための転換点なのかもしれません。
参考
平野聖ら(2007年)『明治・大正初期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.54, No.3
平野聖ら(2008年)『大正・昭和前期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.55, No.2
平野聖ら(2009年)『昭和中期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.56, No.2
平野聖(2009年)『昭和後期における扇風機の発達』川崎医療福祉学会誌 Vol.19, No.1
流体解析による新型扇風機用ファンの設計|公益財団法人計算科学振興財団
家電エキスパートがおすすめする扇風機5選とタイプ別37選|マイナビおすすめナビ
森戸直美ら(2010年)『冷房の気流が睡眠と皮膚温に及ぼす影響』空気調和・衛生工学会論文集 No.161
電力中央研究所システム技術研究所(2011年)『エアコンの間欠運転と連続運転の節電効果比較』
林小勇ら(2016年)『震災後の節電下における家庭の冷房使用の意識と実態』日本建築学会環境系論文集 Vol.81, No.727, PP.785-794