【快適な扇風機選び②】羽根の形状
とはいえ、風の質はモーターだけで決まるものではありません。大きく影響するのは「羽根の形状」です。扇風機の発展の歴史を追いながら、羽根による風の違いを見ていきましょう。
黎明期の4枚羽根から幅広3枚羽根へ
扇風機の歴史は、1894年に現在の東芝が製造した、アメリカ・ウエスチングハウス製扇風機のイミテーションにさかのぼります。なお、国産第二号だとの指摘もあります。長いこと扇風機の基本形として定着していたのは、その頃に確立された4枚羽根でした。昭和初期に、風量アップと騒音軽減を実現した幅広3枚羽根の「エトラ扇」が発明され、戦後広く一般化していきます。
参考
平野聖ら(2007年)『明治・大正初期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.54, No.3
平野聖ら(2008年)『大正・昭和前期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.55, No.2
平野聖ら(2009年)『昭和中期における扇風機の発達』デザイン学研究 Vol.56, No.2
「風の質の向上」を目指した高機能ファンの開発
扇風機の基本的な機能は早くに確立されてしまったため、メーカー間で差別化を図ることが難しい状態となっていました。そこで徐々に注目されるようになっていったのが、「風の質」です
昭和40年代から「自然な風の再現」を目指す動きが生まれ始め、1988年にパナソニックが開発した「1/fゆらぎの風」は、当時もてはやされた「ファジー理論」との相乗効果も相まって、画期的な製品として大人気を博しました。ここでは、羽根自体の奥行きを薄くした薄型5枚羽根を採用しています。
2000年代には株式会社ドウシシャがナカシマプロペラ株式会社と「カモメ羽根」を開発。カモメの羽をヒントに豊かで良質な風を生み出す7枚羽根を確立し、2013年に発売開始された「kamome fan」は大ヒット商品となりました。
参考
平野聖(2009年)『昭和後期における扇風機の発達』川崎医療福祉学会誌 Vol.19, No.1
流体解析による新型扇風機用ファンの設計|公益財団法人計算科学振興財団
「羽根のない扇風機」が登場する
一方、まったく異なる新しい技術が、ダイソンの開発した羽根のない扇風機、エア・マルチプライヤー(Air Multiplier)です。これは、本体の環状リングから放出される気流に引っ張られて周囲の空気が大量に流れるというメカニズムで、風を発生させるのに羽根を不要とする画期的な発明でした。
また、内部で風を作り出してから送風するスリムな筒状のタワーファンも、多数販売されるようになってきています。
参考
家電エキスパートがおすすめする扇風機5選とタイプ別37選|マイナビおすすめナビ
子供のいる家庭で使いたいおすすめ扇風機はコレ!
快適さや安全性の観点から
風量を自分好みに細かく調節したい、特に微風にこだわりたいというのであれば、DCモーター搭載で羽根の枚数や形状に特色のある扇風機を選びましょう。乳児や小さな子供のいる家庭で、静かな優しい風を送りたい場合は、そちらをおすすめします。
また運動が活発になってきた幼児や扇風機に興味を示す年頃の子供で、羽根の回転によるけがや事故が心配な場合は、羽根のないマルチプライヤーやタワーファンを選んではいかがでしょうか。
節電と電気料金の観点から
DCモーターはACモーターに比べ、消費電力が少なくて済むと言われます。しかしその理由は、回転速度が電気制御で、微風にすればするほど使用電力を抑えることができるからだと考えられます。
また電気料金は、個々の家電製品の消費電力によるというよりは、電力会社の契約アンペアや使用時間の長さによるので、扇風機だけ消費電力を抑えてもあまり意味がありません。コスト削減を図りたいなら、むしろ購入価格の低いACモーター扇風機の方が適しているでしょう。
【使い方のヒント①】扇風機はなぜ涼しくなる?
節電を図り電気料金を抑えるなら、使い方を工夫する方が効果的です。まずはエアコンと比べての扇風機の特徴から押さえていきましょう。
体の周りの熱い空気の層を移動させ、汗の蒸発を助ける
扇風機の風に当たると涼しく感じるのは、次のような理由からです。
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扇風機の風は、部屋の空気の温度自体を下げる訳ではありません。皮膚の感じる体感温度を下げるのです。
エアコンの冷やし方との違い
エアコンでは「冷媒」という物質を使って、冷たい空気と熱い空気のやりとりをします。冷媒は気体から液体へ、液体から気体へという状態変化を繰り返しつつ、熱の吸収と放出を行います。
周囲の空気から熱を奪って冷やし、冷えた空気を室内に送るのが室内機。冷媒が奪って蓄えた熱を放出し、再度温度を下げるのが室外機の役割です。つまりエアコンは、熱の移動によって室内空気の温度自体を下げる働きをします。
参考