ピアノは何歳から始めるべき?
それでは具体的にピアノは何歳から始めるべきなのでしょうか?
考慮ポイント①:指は鍵盤を押せるほどしっかりしているか
前出の笹田氏が挙げているポイントは、「子供の体や脳の発達に合っているか?」ということです。大人が弾きこなすピアノのサイズは、幼児期の子供にとっては大きすぎます。ピアノの鍵盤は幼児にとっては大きくて重く、指にかなりの負荷がかかります。またピアノの演奏は指だけではなく、体全体を使うものです。
子供の骨格が安定してくるのは6歳前後からだともされています。前出の論文『Early Musical Training and White-Matter Plasticity in the Corpus Callosum: Evidence for a Sensitive Period』では、両手を協調的に使うことや、知覚を行動に即座に変換するような、音楽演奏に有利な脳梁の働きは早期の音楽教育で培われると述べています。ただ、その可塑性を決定する上限として提示している年齢は7歳以前で、骨格のそれと同じような時期です。
参考
いつから始めたらいいの?~ピアノを始める前に知っておきたい5つのこと その1~|Roland
Christopher J. Steele et.al.(2013)Early Musical Training and White-Matter Plasticity in the Corpus Callosum: Evidence for a Sensitive Period, The Journal of Neuroscience,33(3):1282–1290
考慮ポイント②:ピアノに向かう集中力と興味はあるか
また骨格や筋肉の発達だけではなく、ピアノに一定時間向かう集中力がつくことや、興味が持続することも注目するべきポイント。これも子供による個人差が大きいそうです。これらについて笹田氏は、次のように述べています。
ピアノのレッスンは、身体と脳のバランスが整ってくる小学生から始めても決して遅くはありません。実際、小学校低学年で始めて上手になるお子さんもたくさんいます。大切なことは、そのお子さんに合った時期に始めてあげることなのではないかと思います。
(引用元:いつから始めたらいいの?~ピアノを始める前に知っておきたい5つのこと その1~|Roland)
考慮ポイント③:どんなタイプの音感を育てたいのか
ピアノを早く始めるべき根拠として挙げられるのが「絶対音感は早いうちにしか身につかない」というものです。絶対音感の習得は6歳を過ぎると困難になるとされ、3~4歳で訓練を始めるのが一般的でした。
しかし音楽で必要される音感は絶対音感だけではありません。いったん絶対音感を取得すると相対音感で音高関係を捉えることが困難になり、かえって音楽活動に問題を抱える可能性があることも指摘されています
ピアノで身につけることができる絶対音感は、常に「音名C=ド」を基準とする音。例えば声楽では調によって「ド」が移動する「移動ド唱法」が普通に行われますし、クラリネットなどの管楽器は「移調楽器」といって、そもそも「ド」の音がピアノの「ド」とは異なるものが多いのです。またアカペラ合唱などでは他の人の声を聞きながら音程を合わせることが必要となりますが、「自分の身につけた絶対音感から外れるのががまんできない」と断念してしまう人もいます。
榊原彩子氏は、論文『なぜ絶対音感は幼少期にしか習得できないのか』(2004年、教育心理学研究 Vol.52 No.4, P485-496)で、絶対音感の習得と年齢の関係を「クロマ」「ハイト」の2種類の音高認知次元とその発達段階から論じています。絶対的な音高認知クロマと相対的な音高認知ハイトは、6~7歳ごろにターニングポイントがあり、早期のクロマ優位から、のちのハイト優位に変わっていきます。
音感認知でもやはり、年齢目安は6~7歳ごろ。小学校入学までは、早期教育で絶対音感を完全なものにするより、さまざまな音への感受性をバランス良く育てていくことが大切なのではないでしょうか。
参考
榊原 彩子(2004年)『実践研究 なぜ絶対音感は幼少期にしか習得できないのか?–訓練開始年齢が絶対音感習得過程に及ぼす影響』教育心理学研究 Vol.52 No.4, P485-496)
小河妙子ら(2011年)『絶対音感と相対音感が聴覚呈示されたメロディの認知過程に及ぼす影響』東海学院大学紀要 Vol.4 P161-166)
総合音楽講座 第2回 木管楽器について 5.移調楽器|洗足オンラインスクール