学級崩壊はなぜ起こる?
上記で紹介した2つの事例でも、学級崩壊が起こるきっかけはいくつもありうることが分かっています。文部科学省が発表している資料より、学級崩壊が起こるきっかけについて紹介します。
以下の項は「平成12年度 我が国の文教施策[教育改革の動向 第2節 Question8 何校くらい設置されるのか?]| 文部科学省 」より、「いわゆる「学級崩壊」について ~『学級経営の充実に関する調査研究』(最終報告)の概要~ (平成12年3月)」を参照しています。
学級崩壊事例の類型
ケース1 就学前教育との連携・協力が不足している事例
ケース2 特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもがいる事例
ケース3 必要な養育を家庭で受けていない子どもがいる事例
ケース4 授業の内容と方法に不満を持つ子どもがいる事例
ケース5 いじめなどの問題行動への適切な対応が遅れた事例
ケース6 校長のリーダーシップや校内の連携・協力が確立していない事例
ケース7 教師の学級経営が柔軟性を欠いている事例
ケース8 学校と家庭などとの対話が不十分で信頼関係が築けず対応が遅れた事例
ケース9 校内での研究や実践の成果が学校全体で生かされなかった事例
ケース10 家庭のしつけや学校の対応に問題があった事例
(引用元:平成12年度 我が国の文教施策[教育改革の動向 第2節 Question8 何校くらい設置されるのか?]| 文部科学省)
実際に発生した学級崩壊を分析すると、上記のように類型化できるようになっています。さらにこれらのケースをよく見てみると、それぞれ「学校や教師」「子供」「親や家庭」がきっかけになっているのがわかります。
教師がきっかけになる例
上記10のケースのうち、6つが学校や教師がきっかけとなってしまうケースです。
- 就学前教育との連携・協力が不足している事例
- いじめなどの問題行動への適切な対応が遅れた事例
- 校長のリーダーシップや校内の連携・協力が確立していない事例
- 教師の学級経営が柔軟性を欠いている事例
- 学校と家庭などとの対話が不十分で信頼関係が築けず対応が遅れた事例
- 校内での研究や実践の成果が学校全体で生かされなかった事例
(引用元:平成12年度 我が国の文教施策[教育改革の動向 第2節 Question8 何校くらい設置されるのか?]| 文部科学省 )
上記の事例1では、赴任してきた校長のリーダーシップで荒れた学校が持ち直しました。逆に校長にリーダーシップがない場合は、事態が悪化する可能性が3. で指摘されています。
子供がきっかけになる例
本人には悪気や落ち度がなくても、子供の言動がきっかけとなって学級崩壊が始まってしまうことがあります。
- 特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもがいる事例
- 授業の内容と方法に不満を持つ子どもがいる事例
上記で紹介した事例2は、こちらの両方に当てはまる事例といえるでしょう。子供がきっかけとはいえ、こういった学級崩壊は学校側の対応で解決できることが多そうです。
親がきっかけになる例
親がきっかけになる事例もあります。
- 必要な養育を家庭で受けていない子どもがいる事例
- 家庭のしつけや学校の対応に問題があった事例
- の事例は、ネグレクトなど親が保護者としての責務を果たしていなかった場合と捉えていいでしょう。集団生活となる学校の中で、2.の家庭のしつけなどをどこまで各家庭に求めるかは難しいところですが、学校との連携がうまくいかないという意味では教師がきっかけになる例の5.とも関連するといえそうです。
学校という組織の問題でもあるかもしれない
教師・子供・親の3者に分けて、学級崩壊が発生するきっかけをご紹介しました。ここでご留意いただきたいのは、学級崩壊が始まるきっかけは決してシンプルではないということです。文部科学省の報告でも、以下のように述べられています。
また,これらは,ある一つの「原因」によって「結果」が生まれるかのような単純な対応関係ではなく, 複合的な要因が積み重なって起こります。問題解決のための特効薬はなく,複合している諸要因に一つ一つ丁寧に対処していかなければならないものと考えています。
(引用元:いわゆる「 学級崩壊」について~『学級経営の充実に関する調査研究』(中間まとめ)の概要~(平成11年9月) | 文部科学省 84ページ)
また、学級崩壊が発生した小学校に派遣されていたスクールカウンセラーからは、学校という組織の構造が学級崩壊を発生させるのではないかという考察が寄せられています。以下は、2つの学級が時期をずらしながら学級崩壊した学校での事例です。
学校は学級担任と学級そのものをスケープゴートとして維持していた。学級Aの問題から学級Bの問題への流動的なスケープゴーティングは、学校全体が闘争基底的想定グループとしてスケープゴートを探していたことを意味する。そしてスケープゴート維持のために、SC(引用者注:スクールカウンセラーのこと)の活用に消極的になり、SCに対しても無力感や能力の無さを投影した。
(引用元:公立小学校における学級崩壊の心理力動―Bionの集団理論からの考察― | 奈良大学リポジトリ)
専門的な用語が多く出ていますが、「スケープゴート(生贄のヤギ)」とは特定の集団の中で、ガス抜きのために悪者扱いされる存在のことを指します。特定の学級に「学級崩壊している駄目なクラスと担任」というレッテルを貼ることで、ほかの学級や教師のガス抜きが行われていたのではないかという考察です。そのため、1つの学級の学級崩壊が落ち着いても、別の学級が次のターゲットになってしまうことがありうると考えられています。
このスケープゴーティングのような事象は、必ずしも当事者に悪意があって行われるわけではないかもしれません。学校や授業といったものに教師や子供が潜在的に抱いている不満が何かのきっかけで表に出てしまい、集団心理となって働いてしまうことがあるということではないでしょうか。
参考
まとめ
子供を持つ親としては、我が子の身の回りでは起こってほしくないと考えてしまう学級崩壊。まずは子供と親との関係性や、家庭と学校の信頼関係が重要になってくることがわかりました。「これをなくせば避けられる」といったシンプルなものではないゆえに対応も難しくなってきますが、一助となれば幸いです。
参考
「チームとしての学校」において求められる教師の教育実践力形成 : 学年集団に支えられた学級崩壊クラス担任の教育実践事例から | 立命館学術成果リポジトリ
子どもと担任の関係について : 自身の「学級崩壊」経験をふりかえって | 京都教育大学附属図書館
立ち歩き、暴言暴力 小学校の学級崩壊はなぜ起こる | 9月年齢別特集【小学校高学年ママ・パパ】 | 日経DUAL
苦しかった学級崩壊(?)からの再建 ~ある初任者の取組から~ | BLOGOS
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