七夕の歌「たなばたさま」の歌詞と意味は?歌い継がれる夏の夜の情景 - cocoiro(ココイロ)

七夕の歌と言えば、「ささの葉 さらさら」で始まるあのメロディを思い浮かべる方が多いでしょう。保育園や幼稚園、小学校などで歌う機会も多く、小さな子供からお年寄りまで幅広い年代に親しまれています。一方で、この歌の歌詞の意味についてはきちんと理解できているでしょうか。子供に「のきば」「きんぎんすなご」「ごしき」などの意味について聞かれたとき、すぐに答えられない方もいるかもしれません。

そこで今回は、七夕の歌『たなばたさま』の歌詞の意味や曲が作られた経緯、作詞者や作曲者、七夕を歌った和歌や漢詩についてご紹介します。

七夕の歌「たなばたさま」の歌詞と意味

まずは、七夕の歌『たなばたさま』の歌詞と、そこに出てくる単語の意味や由来について見ていきましょう。

「たなばたさま」歌詞全文

『たなばたさま』の歌詞は以下の通りです。

『たなばたさま』

1.ささのは さらさら

のきばにゆれる

おほしさま きらきら

きんぎんすなご

2.ごしきのたんざく

わたしが かいた

おほしさま きらきら

そらからみてる

作詞:権藤はなよ/林柳波

作曲:下総皖一

歌詞を読んでいるだけでメロディが自然と頭の中に流れてきませんか?

意外と知らない?歌詞の意味

『たなばたさま』の認知度の高さを示すデータがあります。

株式会社カルピスが2010年に実施した「七夕に関する意識と実態」調査によると、『たなばたさま』を知っていますか?』という問いに対して「よく知っている」と答えた人は全体の54.5%、「だいたい知っている」と答えた人は40.9%でした。合わせると95.4%となり、ほとんどの人がこの歌を知っていることが分かります。

一方、笹に吊るす短冊の色の数について正しく「5色」と答えられた人は、33.8%と全体の3分の1程度です。歌は知っているけれども、歌詞の意味まできちんと記憶し、理解していない人が多いことが分かります。

保育者養成機関で学ぶ学生を対象にしたアンケート調査(2006年)も紹介しましょう。さまざまな童謡の歌詞の中で「意味の良く分からない単語」、「幼児に説明するときに不安だと思う単語」を選択するよう求める調査です。

結果は、『たなばたさま』の歌詞に出てくる「のきば」についてきちんと意味を理解できていなかった学生は(42人中)39人。「すなご」が32人。「ごしき」が12人となっています。

参考
保育者養成における音楽指導に関する一考察(その3)学生の歌詞理解の実態と問題|静岡県立大学短期大学部研究紀要, 『表2 設問 I 曲別不明語選択一覧』

みなさんはこれらの単語の意味について説明できるでしょうか。以下、順に解説していきます。

のきば(軒端)とは?

『たなばたさま』の歌詞に出てくる「のきば」は、漢字で書くと「軒端」となります。軒とは建物の外壁から突き出た屋根の部分のことです。軒端は文字通り屋根の端のことをさし、建物を雨や雪、日差しから守る役割があります。

『たなばたさま』の「ささのは さらさら のきばにゆれる」というところは、風に揺られる笹竹を軒下の縁側から眺めている様子を歌っています。

伝統的な日本家屋に備わっている軒端ですが、最近ではあまり見られなくなりました。住宅様式が変化し「のきば」が身近でなくなってきていることが、言葉の理解度に影響を与えているのかもしれません。

きんぎんすなご(金銀砂子)とは?

「きんぎんすなご」は、漢字で書くと「金銀砂子」となります。砂子とは、金箔や銀箔を細かく砕いて粉状にしたものです。襖(ふすま)紙や色紙、蒔絵、短冊などの装飾に用います。歴史的な巻物にも使われてきました。砂子を用いたこれらの装飾技法は伝統技術として現在にも受け継がれています。

下記のサイトで金銀砂子の技法を使った屏風(びょうぶ)や襖などの作品が写真とともに紹介されていますので、気になる方はご覧ください。

金箔や銀箔を使用した作品集|株式会社菊池襖紙工場

『たなばたさま』の「おほしさま きらきら きんぎんすなご」という歌詞は、夜空の星々が金銀の砂子のように光り輝く様子を歌っています。また、砂子は砂の雅語(洗練された優雅な言葉)であり、天の川の川原の砂を表現したとも言われています。

ごしきのたんざく(五色の短冊)とは?

「ごしきのたんざく」は、漢字で「五色の短冊」と書きます。五色とは、青(緑)・赤・黄・白・黒(紫)のことで、古代中国に成立した陰陽五行説に基づいています。端午の節句の鯉のぼりなどで使われている五色と同じものです。

七夕の起源の1つである乞巧奠(きこうでん)という宮中行事で、五色の糸をお供えしていたのが転じて江戸時代に五色の短冊になったと言われています。江戸時代、七夕は寺子屋を中心に庶民の間で広まったことから、当時の人々は短冊に習字や手習いの上達を願ったといいます。

『たなばたさま』の歌詞「ごしきのたんざく わたしが かいた」は、五色の短冊に願い事を書くという七夕の風習について歌っています。

なぜ笹の葉なの?

七夕は別名「笹の節句」とも言われるように、笹が欠かせない要素となっています。みなさんも、子供と一緒に短冊や七夕飾りを笹に吊るした経験があるのではないでしょうか。

笹は古来より神を宿す力を持つ神聖な植物と考えられており、七夕行事にも使われるようになりました。笹に短冊や飾りを吊るす風習は江戸時代に庶民に広まったと考えられています。

七夕とお星さま

『たなばたさま』の歌詞には「おほしさま」という単語が2度登場します。星祭とも呼ばれる七夕では星が重要な意味を持ちますが、それはなぜでしょうか。

七夕の起源は織姫(織女星)と彦星(牽牛星)の物語で知られる七夕伝説にあります。先述した乞巧奠とともに、七夕伝説は遣唐使を通じて奈良時代の日本に伝えられました。

「天の王様の怒りに触れた織姫と彦星は天の川をはさんで離れ離れになるが、7月7日にだけ会うことを許される」という物語は、時代を超えて多くの人々の心をひきつけてきました。七夕物語にはさまざまなバリエーションがありますが、2人が天の川を渡るのを「かささぎ」が手助けするというあらすじが広く知られています。

この物語に登場する織姫は琴座の一等星ベガ、彦星は鷲座の一等星アルタイルです。2人を助ける「かささぎ」がはくちょう座のデネブで、これら3つの星で夏の星座を探す際の目印となる「夏の大三角形」を形成します。夜空を見上げた古代の人々は、現在よりもはっきりとその輝きを目にすることができたことでしょう。七夕は当時の人々が創造した星の物語から始まったのです。

歌詞から浮かび上がる七夕の情景

続いて、『たなばたさま』の歌詞から浮かび上がる情景について解説していきましょう。上で紹介したそれぞれの単語の意味と合わせて、子供に分かりやすく説明する際の参考にしてください。

まずは歌われている情景についての簡単な説明です。

1.ささのは さらさら のきばにゆれる

(軒端の笹の葉が、夏の夜風に吹かれてさらさらと揺れている)

おほしさま きらきら きんぎんすなご

(夜空の星々は金銀の砂子のようにきらきらと光り輝いている)

2.ごしきのたんざく わたしが かいた

(笹に飾られた五色の短冊には、私の願いごとが書かれている)

おほしさま きらきら そらからみてる

(夜空にきらきらと輝く星々がこちらをながめている)

歌詞の細部にも注目すべき点があります。例えば、1番に出てくる「おほしさま」は、「わたし」に見上げられる存在として歌われている一方、2番の最後に登場する「おほしさま」は空から「わたし」の方を見下ろしています。歌の前半と後半で視点が地上からはるか宇宙へと急上昇しているのです。

また、1番の終わりの「すなご」、2番の頭の「ごしき」と「ご」の音を連ねることで、子供たちが自然に歌えるような工夫も施されています。

「たなばた」という言葉を一切使わずに七夕の夜の情景を美しく描写しているところも特筆すべき点でしょう。