「組体操」について考える
組体操をめぐる議論はどのように展開されてきたか
組体操は、近年その危険性が指摘され、中止する学校や自治体も出てきている競技です。組体操は1951年の学習指導要領に「組立型」という名称で登場し、学習指導要領から消えた50年代後半、60年代以降も学校現場では継続。2000年代にはピラミッドに象徴される巨大化が流行しました。
しかし、2015年大阪の中学校で起きた重大事故をきっかけに、それまでも頻出していた組体操での事故が注目され出します。危険性に警鐘を鳴らす議論は名古屋大学准教授の内田良氏がリードし、組体操の安全な実施方法の模索へと展開されていきました。
安全面や子供の主体性についてどう考えるか
組体操の論点は、次の3点に整理されます。
- 安全面の問題
構造上の負荷量の大きさや子供の成長・発達過程と技の難易度とのアンバランスさ、指導方法の未確立などの問題 - 子供の主体性の問題
教師主導による練習や演技の実施、技や難易度の決定における児童生徒の不在などの問題 - 教育的価値の問題
組体操によって得られるものは何か、という問題
これらの論点をまとめたうえで、研究成果報告書『学校教育に見られる「伝統」の継承に関する研究-運動会・体育祭に見られる「組体操」を焦点に-』は、組体操に関する議論に欠けていた観点は「そもそも組体操とは何か」という点だと指摘します。
組体操はその性質上、児童生徒の個性はあまりないでしょう。そこではぐくまれるのは自信や達成感、団結力だとされてきましたが、では「手段」としてではない組体操という運動自体のおもしろさは何なのか、プレイヤーにとって挑戦し楽しみたくなる魅力は何なのかを問うているのです。
そもそも組体操は誰が喜ぶ競技なのか
同報告書は、学校体育の考え方の変遷と組体操継承の対応を検討しつつ、2000年代以降に組体操が巨大化・高層化した背景に、組体操が外から見て見栄えがしたり感動的だったりすることを重要視する教育現場の傾向を指摘しています。
そこには組体操をする子どもたちからの視点が欠落する。外からみて感動するのは子どもではないからである。
(引用元:鈴木秀人ら(2016年)平成28年広域科学教科教育学研究 研究成果報告書『学校教育に見られる「伝統」の継承に関する研究-運動会・体育祭に見られる「組体操」を焦点に-』)
組体操について考えるとき、一番大切なのは「子供たちは組体操が楽しいのか、やりたいのか」ということを、子供も大人も一緒に考えることなのかもしれません。
まとめ
学校行事は、小学校学習指導要領解説で次のように説明されています。
学校行事は,学校が計画し実施するものであるとともに,各種類の学校行事に児童が積極的に参加し協力することによって充実する教育活動である。したがって,学校行事の意義を十分に理解した上で,各学校行事の特質や,児童の実態に応じて,児童の自主的,実践的な活動を助長することが大切である。
(引用元:『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編』第4節 学校行事 1 学校行事の目標学校行事の目標, P117)
運動会もまた、子供に自主的かつ積極的に取り組んでほしいもの。競技についての会話を通して、子供のさらなる興味関心や自分なりの考えを引き出してあげると、親も子も運動会をもっと楽しめるようになるのではないでしょうか。
参考
LINEアンケート「騎馬戦」「リレー」「玉入れ」、運動会人気No,1種目は⁉|LINEアンケート公式ブログ
小学生の頃の懐かしい思い出!「運動会」についての調査|DIMレポ 調査レポート
いまどきのママに実態を調査:ママリサ~いまどきママリサーチ~「こそだて家族の運動会」調査|株式会社インタースペース
鈴木秀人ら(2016年)平成28年広域科学教科教育学研究 研究成果報告書『学校教育に見られる「伝統」の継承に関する研究-運動会・体育祭に見られる「組体操」を焦点に-』
西山豊(2016年)『巨大組体操の危険性を検証する――必要とされる科学の眼』 日本の科学者Vol.51, No.9, P32-37