花祭りでお釈迦様の像に甘茶をかける理由
「花祭り」はお釈迦様の誕生を祝う歴史のあるお祭りだということは分かったでしょう。では、なぜお祝いをするために甘茶をお釈迦様の像にかける風習があるのでしょうか。
甘茶とは?
花祭りの際にお釈迦様の像にかける「甘茶」とは、日本では古くから砂糖の代わりとして、またときには生薬として使用されてきました。日本では長野県が国内総出荷量の80%を占めています。
ユキノシタ科の落葉低木落葉性の低木アジサイの変種で、若い葉を蒸してもんで乾燥させたものを煎(せん)じて作ったのが、一般的に飲まれたり、花祭りの際にお釈迦様の像にかけられる「甘茶」です。
誕生の時に降り注いだ「香水」の代わり
本来は飲料や生薬として使用されることが多い甘茶を、花祭りでお釈迦様の像にかけるのは、やはりその誕生時の出来事に由来しています。天理大学考古学・民俗学研究室紀要の「花祭りと春山入り」によると、お釈迦様が誕生した時のことについて、下記のように説明しています。
釈迦は生後まもなく自ら七歩あゆんで、天と地を指さし「天上天下唯我独尊」といったとされ、この時 9 竜が天から香水を降り注いだと伝えられている。
この故事は「太子瑞応本経」その他の仏典に語られているが、灌仏会の花御堂は藍毘尼林をかたどったものとされ、釈迦像に竹柄杓で甘茶を注ぐのは 9 匹の竜が天から清浄な水を吐いて産湯をつかわせたことによる。
(引用元:花祭りと春山入り| 天理大学考古学・民俗学研究室紀要)
お釈迦様の像に甘茶をかけるのは、9匹の龍が天から注いだ香水を模していることに由来しているのです。
江戸時代以前は本当に香水が使用されていた
このお釈迦様の像に甘茶をかける風習ははじめから行われていたわけではありません。平安時代では、宮中で行われていた行事だったため、山と蓮池を木をくり抜いて作られた鉢で作ってお釈迦様の像を安置し、青竜赤竜を置いて5色の糸を水に見立てたり、5色の「香水」を池に入れたりして盆石風に作った祭壇がまつられていたとも言われています。
江戸時代に入ると寺子屋などで花祭りについて教えられ、徐々に庶民の間にも広がりを見せていきいます。お寺からもらってきた甘茶で墨をすって、「ちはやぶる卯月八日は吉日よ神さけ虫を成敗ぞする」という呪文を紙に書き、戸口に逆さに貼れば、「悪い虫が家に入らない」と各地で言われるようになりました。単にお釈迦様の誕生を祝うだけでなく、このころの花祭りには「災厄除け」のための行事、という側面も持っていたようです。