元号存続にはメリットも
利便性と言う点では、元号廃止論の方に軍配が上がることは間違いないでしょう。しかし、元号存続には合理主義では片付けられない要素があります。
まず、元号には時代の区切りをイメージさせる働きがあります。例えば、「明治の男」と聞けば気骨のある頑固な男性をイメージします。「昭和」と聞くと、さまざまなイメージを思い浮かべるでしょう。黒電話、駅の伝言板、走り回るいがぐり坊主の少年、おかっぱ頭の少女、またはバブルとボディコンなど。 「昭和」という一言がさまざまなシーンを彷彿させており、元号にはそういった役割があります。
神戸女学院大学名誉教授の内田樹は、元号の歴史的・文化的要素を挙げています。元号が定着した大宝律令以来1300年以上もの間、元号は綿々と継がれてきました。その長い歴史の中で蓄積していた文化も、継承されなければ途絶えてしまいます。
元号は不便だから西暦だけあればよいという意見にはくみしません。むしろ複数の時間軸を持っていることは、文化的に豊かなことなのではないかと考えます。
(引用元:時間の区切り「味ある文化的仕掛け」 内田樹さんと元号|朝日新聞2019年1月22日)
作家で元政治家の猪瀬直樹は、日本人のアイデンティティーとしての役割を挙げています。
明治になって、近代国家を造ろうとしたときに、天皇は日本のアイデンティティーの中心となりました。
(中略)
天皇が崩御すれば元号が変わります。つまり、一人の人間の死によって、日本国民全員の時間軸が一瞬にして変わるわけです。そのような非合理性が、日本人のアイデンティティーの形成にも大きく影響しているんです。
(引用元:元号を合理主義だけで語ってはいけない理由|週刊ダイヤモンド2016年9月17日号)
西暦表記に切り替わる流れ
元号存続の是非はともかく、今回の改元を機にさまざまな場面で西暦表記が一層広まることになりそうです。すでに一部の銀行の通帳や鉄道の切符などは、元号表記から西暦表記に切り替えられました。
運転免許証の有効期限も西暦表記に変更される予定でしたが、反対意見に配慮し、元号と西暦が併記されることになりました。公文書に関しては、いずれは元号と西暦を併記していく方向ですが、現時点で義務化はされないようです。
まとめ
元号表記から西暦表記への転換が進むと、元号は実用的な意味より象徴的なものへと性格が変わっていくかもしれません。それでも、廃止をしなければなんらかの形で使われ続けるでしょう。一度廃止してしまうと後戻りはできないので、慎重な議論が必要です。
参考
元号とはなにか(5)元号の本質と将来の展望|10mTVオピニオン
迫る代替わり(4) 元号公表、1カ月前でも…|日本経済新聞2019年1月10日
公文書の西暦表記義務化見送り 政府、新元号切り替えで|日本経済新聞2018年8月21日付
運転免許証の期限、西暦・元号併記に|朝日新聞2018年12月22日
時間の区切り「味ある文化的仕掛け」 内田樹さんと元号|2019年1月22日
第108回国会(常会)答弁書|参議院
元号を廃止すべき10の理由|A Successful Failure
元号いる?メリットと廃止論者の挙げる4つのデメリットとは?|afanlife
あと2年で終わる「平成」 29年前の混乱は繰り返されるのか?|exciteニュース
平成生まれの珍回答も続々! あなたの「昭和」の思い出&イメージは?|livedoorNEWS