「移行対象」の発現率は国によって違う
子供が移行対象を持つかどうかは、生活・文化様式に左右されるといいます。日本や欧米圏におけるその発現率の違いや、主な理由について見てみましょう。
日本での発現率は欧米に比べると低め
長年の研究で、欧米圏に比べて日本では移行対象の発現率が低いことが分かっています。欧米圏での移行対象発現率が約66%(1986年現在)であるのに対し、日本での移行対象発現率は約31%(1987年現在)と報告されています。
ひとり寝かどうかが「移行対象」の発生に影響する?
移行対象が現れるかどうかは、就寝や授乳の形態に左右されることに触れました。このことからも、日本と欧米圏のその生活・文化様式の違いを考えれば、移行対象の必要性の違いも納得できます。欧米圏では、乳幼児期からでも部屋を与え、ベッドに入れて1人で眠らせることが良しとされています。「ひとり寝」がいわば強制される環境では、子供は移行対象を必要とします。
一方、日本では添い寝をする母親が多く、母子の密着時間がより長いことからも、子供は移行対象を持たずに済むと言えます。「ひとり寝」かどうかだけが移行対象の有無を決定づけるのか、明言は避けられているものの、有力な要因の1つとされています。
指しゃぶりは「移行対象」とどう違う?
自分の子供に移行対象はないけれど、指しゃぶりが見られるという人もいるようです。また、指しゃぶりをする時に移行対象のぬいぐるみを同時に抱っこするという乳幼児もいます。指しゃぶりと移行対象には、どんな違いがあるのでしょうか。
指しゃぶりは「移行現象」の前段階
ウィニコットによれば、指しゃぶりは生後まもなく見られる行動で、「口唇愛的興奮」を満足させるものだとしています。また、指しゃぶりは自分の体の一部を使いますが、それは徐々にすぐ手に届く布類(移行対象)を握って吸う「移行現象」へとつながっていきます。指しゃぶりは、移行対象に愛着を持つこの「移行現象」と無関係ではないのです。
これまでに、移行対象の出現率が31%であるのに対し、指しゃぶりのそれは24%とやや低いことが分かっています。移行対象と同様に、指しゃぶりは特に寝るときに見られる行動で、退屈なときにも見られるそうです。指しゃぶりをすることで、子供は安心感を得ることができ、スムーズに離乳できるという報告もされています。
指しゃぶりとぬいぐるみ抱っこは同時に進行することも
スヌーピーに登場するキャラクターに、ライナスという男の子がいます。いつも毛布を肌身離さず持ち歩いていますが、同時に指しゃぶりをしています。このように、指しゃぶりと移行対象が同時に現れるケースは9%とされていますが、10人に1人の子供はこういった行動をとるのです。