子供が手放さないボロボロのぬいぐるみは、発育に必要な「移行対象」

子供が手放さないボロボロのぬいぐるみは、発育に必要な「移行対象」

子供が赤ちゃんのころから常に手放さずに持っているぬいぐるみやタオルはありませんか? 大事に持ち続ける対象の物は「移行対象」と言って、子供の成長過程にとても重要な意味を持っています。

子供が常に手放さないぬいぐるみ、その理由とは?

移行対象は、20世紀イギリスの小児科医で精神科医のウィニコットによって名づけられたもの。「乳幼児が肌身離さず持ち歩き、それがないと著しい不安を示す」とされています。眠るときも外出するときも、乳幼児にとってこの移行対象は必要不可欠な存在です。いったいなぜ、乳幼児はぬいぐるみやタオルにここまで執着を示すのでしょうか。

母親からの「分離」とともに現れる「移行対象」

乳幼児は泣くことでしか不快や不安を知らせることができません。だから、母親が常につきっきりでその欲求を察知することで、安心感や信頼感を築いていきます。でも、眠るときまでべったりと抱っこされていることはできず、母親と少しでも「分離」しなければなりません。このときに緊張やストレスを感じ、母親の代理としてこの「移行対象」から安心感やぬくもりを得ようとするのです。

「移行対象」を持つのは成長の証し

移行対象は、乳幼児が母親と離れることで生じるストレスに対し、自分なりに対処しようとする適応力の表れとみなされています。欲求に即座に対応してくれる母親を、乳児は「自分の一部である」と錯覚しますが、成長とともにその欲求がすぐには満たされなくなると、「さっきはそばにいたお母さんが今はここにいない」といったように、母親との距離感を自分なりに調整するようになります。ここで、母親が与えてくれる安心感を移行対象へと見い出していきます。

移行対象を持つことは、子供が独立した存在として周りの世界と関わっていく上で、大切な意味を持ちます。さらに、子供は移行対象を大切にすると同時に、感情をぶつけたりもしますが、移行対象は情緒発達を助けてくれるものでもあるのです。

「移行対象」は無理に引き離さず見守ろう

移行対象は乳幼児が常に持ち歩くため、ボロボロに汚れ、臭いがするのは当然です。だからといって、子供の前で洗濯機に放り込むことは避けた方が賢明です。子供にとって、移行対象は初めて自分の意志で所有した、自分だけの大切な「世界」であるため、それを壊されたと感じてしまうのです。きれいにする必要があれば、眠っている間にササッと洗って乾燥機やドライヤーなどで即座に乾かし、またすぐに眠っている子供の手元に戻してあげましょう。

こんな大切な移行対象も、4歳くらいになると自然と必要としなくなります。子供が手放さずにいる間は、無理に引き離すのは避けましょう。

「移行対象」はいつごろ現れる?ぬいぐるみが多い?

乳幼児期に現れやすい移行対象ですが、具体的にはどのようなタイミングで、いつごろ現れるものなのでしょうか。また、移行対象に選ばれやすいものは、ぬいぐるみやタオル以外にもあると言われています。それらの共通項も調べてみました。

1〜2歳をピークにこんなきっかけで現れやすい!

移行対象を持つ時期には個人差がありますが、大まかに分けて1歳前後と2歳前後の2度にわたってピークを迎えます。移行対象を持つようになるきっかけは一概には言えないものの、ある研究では、常に母親が添寝をしている場合は移行対象が現れにくいとしています。

また、母乳か人工哺乳かによっても左右され、母乳の場合は幼児の欲求がより満たされるため、移行対象の発現率が低いという結果が出ています。このように、母親のぬくもりを感じられる安心感があるかどうか、ということが乳幼児の欲求に深く関係し、その欲求が十分に満たされないと、移行対象を持つようになると考えられています。

ぬいぐるみやタオル等の布類が選ばれやすい

移行対象は、子供にとって母親の代わりに安心感を与えてくれるものなので、母親のぬくもりに似た、柔らかく暖かい素材のものが選ばれます。シーツやタオルなどの布類、フワフワとした触感のぬいぐるみなどがそれにあたります。一方、人形やおもちゃであることも報告されていて、ここにも個人差が生じます。

「移行対象」の発現率は国によって違う

子供が移行対象を持つかどうかは、生活・文化様式に左右されるといいます。日本や欧米圏におけるその発現率の違いや、主な理由について見てみましょう。

日本での発現率は欧米に比べると低め

長年の研究で、欧米圏に比べて日本では移行対象の発現率が低いことが分かっています。欧米圏での移行対象発現率が約66%(1986年現在)であるのに対し、日本での移行対象発現率は約31%(1987年現在)と報告されています。

ひとり寝かどうかが「移行対象」の発生に影響する?

移行対象が現れるかどうかは、就寝や授乳の形態に左右されることに触れました。このことからも、日本と欧米圏のその生活・文化様式の違いを考えれば、移行対象の必要性の違いも納得できます。欧米圏では、乳幼児期からでも部屋を与え、ベッドに入れて1人で眠らせることが良しとされています。「ひとり寝」がいわば強制される環境では、子供は移行対象を必要とします。

一方、日本では添い寝をする母親が多く、母子の密着時間がより長いことからも、子供は移行対象を持たずに済むと言えます。「ひとり寝」かどうかだけが移行対象の有無を決定づけるのか、明言は避けられているものの、有力な要因の1つとされています。

指しゃぶりは「移行対象」とどう違う?

自分の子供に移行対象はないけれど、指しゃぶりが見られるという人もいるようです。また、指しゃぶりをする時に移行対象のぬいぐるみを同時に抱っこするという乳幼児もいます。指しゃぶりと移行対象には、どんな違いがあるのでしょうか。

指しゃぶりは「移行現象」の前段階

ウィニコットによれば、指しゃぶりは生後まもなく見られる行動で、「口唇愛的興奮」を満足させるものだとしています。また、指しゃぶりは自分の体の一部を使いますが、それは徐々にすぐ手に届く布類(移行対象)を握って吸う「移行現象」へとつながっていきます。指しゃぶりは、移行対象に愛着を持つこの「移行現象」と無関係ではないのです。

これまでに、移行対象の出現率が31%であるのに対し、指しゃぶりのそれは24%とやや低いことが分かっています。移行対象と同様に、指しゃぶりは特に寝るときに見られる行動で、退屈なときにも見られるそうです。指しゃぶりをすることで、子供は安心感を得ることができ、スムーズに離乳できるという報告もされています。

指しゃぶりとぬいぐるみ抱っこは同時に進行することも

スヌーピーに登場するキャラクターに、ライナスという男の子がいます。いつも毛布を肌身離さず持ち歩いていますが、同時に指しゃぶりをしています。このように、指しゃぶりと移行対象が同時に現れるケースは9%とされていますが、10人に1人の子供はこういった行動をとるのです。

「移行対象」は大人になっても存在する?

「移行対象」は大人になっても存在する?
さて、こうして幼少期の心の支えとなってくれた移行対象は、大人になっても意味を持つのでしょうか。

子供のころ大切にしていたぬいぐるみを飾る心理とは

子供のころから肌身離さず持っていた移行対象を、今でも部屋に飾ってあるという人もいるはずです。これは、今でも常に持ち歩いていたり、しゃぶっていたりするのでなければ、単純にものを大切にとっておくタイプということになります。そのため、何か問題があるのではなどと心配することはありません。

移行対象はカタチを変え、私たちの心を落ち着かせる

乳幼児に安心感をもたらしてくれる移行対象は、タオルやぬいぐるみではなくなっても、私たちの人生の中でその後もカタチを変えて存続し続けるとも言われています。大人の私たちにも、好きな音楽、映画、本、ペット、コレクションなどがあり、その存在だけ安心を得ることができているのです。

まとめ

子供が手放さないぬいぐるみや布は移行対象と呼ばれ、成長過程に必要な大きな意味を持ちます。個人差は必ずあるものなので、自然と手放す時期が来るまで、そっと優しく見守ってあげることが大切です。

参考
移行対象の発生的解明|発達心理学研究
乳幼児期の移行対象と指しゃぶりに関する調査研究|中央学園大学
移行対象・移行現象からみる大学生における 分離不安に関する研究
子どもにとって「想像上の仲間」がもつ発達心理学的意義|順天堂大学保健看護学部 順天堂保健看護研究 第5巻(2017)
ウィニコット『遊ぶことと現実』|山竹伸二の心理学サイト
移行対象と移行現象|横浜精神分析研究会
大人になっても移行対象は存在するのか|乳児期の子育て
井原成男「ウィニコットと移行対象の発達心理学」|私の中の図書館〜ライブラリ〜
大切なもうひとりのお母さん?|総合セラピールームまごころ

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cocoiro編集部

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