社会人基礎力はなぜ必要?求められる3つの理由
なぜ社会人基礎力という言葉が生まれ、求められるようになったのでしょうか。今回は社会人基礎力が求められている理由を3つご紹介します。
(1)学生や社会人をめぐる日本の社会の変化
社会人基礎力が必要とされるようになった背景には、日本の社会の変化があります。比治山大学短期大学部で学生の就職活動をサポートしてきた斎藤寧さんは論文の中で、近年の日本の変化について以下のように述べています。
90年代以降のビジネス環境の変化を見ると、今まで以上に「新しい価値のある商品やサービスをいかにして創るか」が重要な課題となり、IT化の進展で単純な作業の機械化が著しく進行してきている。
(引用元:「社会人基礎力」の展開|比治山大学短期大学部紀要 第43号,2008)
これまでに世に普及してきたサービスやシステムを超えるものを作られることが望まれている現代では、それまでとは求められている仕事の内容が変化してきています。この社会の変化により、社会人に求められる能力が変わることはごく自然なことであると言えるでしょう。
(2)学校教育で育んだ力だけでは不十分である
社会人基礎力が求められている理由の1つに、学校教育だけでは社会で役立つ能力を習得しきれないからという意見があります。
斎藤さんは同論文の中で、以下のようにも述べています。
従来、学校段階での教育、就職・採用段階での学習や教育、入社後の人材教育といった各段階の間の連携が不十分であり、それぞれの場面での企業、若者、学校の、それぞれの活動や努力が十分につながったものとならず、結果として必要以上の社会的なコストを発生させていたものと考えられる。
(引用元:「社会人基礎力」の展開|比治山大学短期大学部紀要 第43号,2008)
子供は学校教育の中で、一定の知識や能力を手に入れます。しかし実際の社会でどのように生かすのかなどについては、学ぶ機会が十分に用意されているとは言えません。そのため学校教育で得た能力を社会で十分に発揮することができず、また1から社会人として能力を得ようとしなければならない可能性があるでしょう。
(3)学生と企業の思う「必要な能力」の不一致
社会人基礎力が必要とされている理由の1つには、学生の思う「社会人に求められる能力」と、企業の求める能力に認識の差異がある点が挙げられます。
経済産業省が全国の大学生・大学院生1,598名と企業の人事採用担当者1,179名を対象に、社会に出て活躍するために必要だと考える能力要素について調査をしています。その回答結果は以下のようになりました。
(参照元:大学生の「社会人観」の把握と「社会人基礎力」の認知度向上実証に関する調査|経済産業省)
学生側・企業側ともに「コミュニケーション力」や「人柄」が大切であるという認識は共通しています。しかし学生は業界の専門知識が大切であると考える人が企業側よりも多く、反対に企業側が大切であるとしている「一般常識」については学生の意識が低いことが分かります。
企業側は、働く現場を知っています。一方で実際に働く現場で求められている能力が何なのかを、学生たちは把握できていない可能性があります。就職するにあたって自分の能力を高めようと考えた学生は、本当は企業から求められていないような能力を磨くことに時間を割く可能性もあるでしょう。
このような認識の差異を埋めるために、経済産業省は社会人基礎力を3つの能力に分けて、明文化しているのです。言葉にして表すことで認識を一致させ、学生側が身につけるべき能力を明らかにするねらいを持っています。