グループディスカッションに「模範解答例」は存在しない
見られるのは解答ではなくコミュニケーション能力
日本経済団体連合会が1997年から行っている「新卒採用に関するアンケート調査」によると、企業が選考にあたって特に重視した点の第1位は、2018年まで16年連続で「コミュニケーション能力」です。採用選考におけるグループディスカッションは、こういった企業の意向を背景に広がってきました。
グループディスカッションには、正答例や模範解答例は存在しません。主にコミュニケーション能力を評価するための方法であり、議論過程の参加者同士のやりとりが重要だからです。言い換えれば、グループディスカッションの正解は「高評価の得られる振る舞いをする」ということになります。
ディスカッションにおける「機能的役割」とは
グループディスカッションにおけるコミュニケーション能力の印象評価について、立命館大学の研究グループが、具体的な言動に関する分析を行っています。このグループが注目しているのは、ディスカッション参加者の「機能的役割」。次の7つに分類しています。
機能的役割 | 特徴 |
反対者 | 議論されている提案に反対または否定的な態度をとる。頭を傾げていることが多く、うなずくことはあまりない。 |
フォロワー | 他人の提案に反対の意志を表明しないし、自分の意見も述べない。発言の有無を問わず、相槌をうったり、笑ったりしているのみだが、議論に参加しているように見える。 |
ゲートキーパー | 交流のチャンネルをいつも開けるように、議論の進め方などの提案をする。沈黙しているメンバーからの発言を促し、よく周りの参加者を見回す。 |
情報提供者 | グループディスカッションにおける課題に関連する補足的な情報や事実を提供する。 |
意見表明者 | 新しい提案や候補を提供する。提案について自分の信念や意見を述べる。 |
消極的な参加者 | メモを取るだけでほかの参加者を見たり、相槌したりしていない。議論されていることに対してほとんど関心を持っておらず、沈黙して頭を下げていることが多い。ディスカッションに参加していないように感じられる。 |
サマライザー | これまでの発散していた議論を整理する。これまでの議論について自分なりの結論を提案する。 |
(出典:張琪ら(2018年)『グループディスカッション参加者の機能的役割とその変遷の分析-コミュニケーション能力の向上支援に向けて』|J-STAGE,P36)
ここで言う「役割」とは、「リーダー」「タイムキーパー」「書記」といった役割分担のことではなく、どのような性質のコミュニケーションを行っているかという機能的な特徴のことです。
コミュニケーション能力はどこで評価される?
機能的役割に注目してコミュニケーション能力の印象評価を分析すると、評価を分けるのは役割の積極性によるということが分かりました。上記7つの役割では、次の順で評価が相対的に高くなります。
ゲートキーパー>意見表明者>サマライザー>情報提供者>反対者>フォロワー>消極的な参加者 |
新しい提案や自分の意見を述べず、補足的な情報を提供するのみの「情報提供者」は、「意見表明者」や「サマライザー」よりも評価されません。また、議論中反対意見を述べてもコミュニケーション能力は低いと判断されず、むしろ高い評価を得ることも観察されました。
機能的役割は固定的なものではなく、シーンに応じて参加者は役割を変えていきます。低い評価を受ける参加者は、積極的な役割に転じることなく、ディスカッションを通じて消極的であることも分かりました。
参考
一般社団法人日本経済団体連合会『2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果』
張琪ら(2018年)『グループディスカッション参加者の機能的役割とその変遷の分析-コミュニケーション能力の向上支援に向けて』|J-STAGE
まとめ
採用選考で用いられている面接などの対人的な選考方法が、本当に応募者の能力を測れているものなのか、懐疑的な見解もあります。グループディスカッションについても同様、短時間の観察による印象評価が実際の能力をどの程度反映しているのか、議論の余地は残るでしょう。
とはいえ選考を受ける立場として、事前準備や練習で改善できるのは「具体的言動」なのであり、行動が意識や内面の変化を起こすことも多々あります。まずは普段から、自分のコミュニケーションスタイルがどんな機能的役割を果たしているのか、意識するところから始めてみてはいかがでしょうか。