ブラック企業の問題①:違法な働かせ方が横行
過重労働・長時間労働とは何か
過重労働とは、労働者に過度な身体的・精神的な負荷を与える労働のことをいいます。ハラスメントなど心理的な圧迫も負荷を重くしますが、最も大きな要因は、長時間労働です。労働基準監督署の監督指導結果によると、2018年度は40.4%に当たる11,766事業場で違法な時間外労働が行われていました。
残業代不払いは何が問題か
時間外労働や休日労働には、通常の賃金に比べ割増した賃金を支払うよう定められていますが、それには長時間労働を抑制するという意味もあります。残業代の不払いは、労働の搾取に当たるだけでなく、長時間労働が制限なしにふくらむという危険もはらむのです。
2018年度には、1,768の企業が残業代不払いの是正指導を受けており、正当な残業代を支払われていなかった労働者は11万8,680人に上っています。
対処の知識:労働基準法を知る
労働条件に関する最低基準は、労働基準法によって定められています。労働時間や割増賃金についての規定は、次のとおりです。
労働時間(法定労働時間):週40時間、1日8時間
割増賃金:時間外・深夜2割5分以上、休日3割5分以上 |
長時間労働は、健康被害のリスクを高めます。厚生労働省による労働災害の認定基準では、1ヶ月に100時間、または2~6ヶ月の間月平均80時間を超える時間外労働を行うと、脳・心臓疾患を極めて発症しやすくなるとしており、これがいわゆる「過労死ライン」と呼ばれるものです。
また、精神障害を起こすリスクも高くなり、1ヶ月で160時間程度、3週間で120時間程度を超える極度の時間外労働、2ヶ月連続のおおむね月120時間以上、3ヶ月連続のおおむね月100時間以上の継続的な時間外労働は、強い心理的負荷をもたらすと判断されます。
長時間労働が横行する現場では、タイムカードの一律打刻や残業時間の過少申告などが常態化しているケースも多数です。自分の実労働時間を意識し、把握しておくことが大切です。
参考
確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省
長時間労働が疑われる事業場に対する平成30年度の監督指導結果を公表します|厚生労働省
監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)|厚生労働省
ブラック企業の問題②:ハラスメントや差別が蔓延
パワハラ、セクハラとは何か
2019年改正の「労働施策総合推進法」30条の2から、パワーハラスメントの定義は次のように理解することができます。
パワハラとは:職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの |
セクシュアルハラスメントについては、パワハラよりも早く規制されていました。1997年に改正された「男女雇用機会均等法」11条の1から、セクハラの定義は次のようなものと理解できます。
セクハラとは:職場において行われる性的な言動 |
パワハラやセクハラは、労働者の働く権利を侵し、その健康も害する行為です。
職業上の差別とは何か
雇用と職業における差別とは、その人の能力にも職務に必要な要件にも関係のない特徴を理由に、他者と異なる処遇や不利な処遇を行うことです。
国連グローバル・コンパクトは「原則6」において、差別の理由にされやすい特徴として、人種、肌の色、性別、宗教、政治的見解、出身国、社会的出自、年齢、障害、HIV/エイズへの感染、労働組合への加入、性的指向などを挙げています。
差別にはあからさまなもののほか、規則や慣行などの中に潜む「間接差別」と呼ばれるものがあります。日本では最近になって、非正規労働者などの処遇差別、総合職/一般職といったコース別雇用管理や女性に不利な昇進基準などに、目が向けられ始めました。
対処の知識:男女雇用機会均等法・ハラスメント規制法を知る
ハラスメントや差別に関する法律は、主に次の3つです。
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法):性別による差別の禁止。マタハラやセクハラの防止措置義務。
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法):処遇の男女不平等の改善。女性社員割合や女性管理職割合、育児休業取得率などの公開。
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法/パワハラ防止法) :2019年の法改正により、パワハラ防止措置義務の条文(30条の2)追加。
制度は整えられつつあるといえますが、次のような問題も残ります。今後の行方を見守りたいところです。
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- ハラスメントを禁止する法律ではない
企業にハラスメント防止措置をとることを求める法律であって、ハラスメント行為自体を禁止する法律ではない。そのため禁止すべきハラスメント行為の明確な定義がなく、加害者の処罰や被害者の救済に取り組もうとするとき、法的根拠が曖昧になる。
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- ハラスメントの位置づけが不明確
イギリスなどの法律では、職業上の差別を包括的に禁止し、その中にハラスメントも含まれる。日本ではパワハラ、セクハラ、マタハラなど個々のハラスメントがそれぞれ異なる法律で扱われ、いずれも等しく労働者の権利侵害である、という認識が薄い。
- ハラスメントを容認する余地が残る
ILO条約や欧州の法規制と違って、日本のハラスメント防止法には「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」との要件があり、正当化に使われる危険性を否定できない。また、就職活動中の学生など雇用関係にない相手に対するハラスメントを対象としないため、対策に限界がある。
まとめ
ブラック企業の問題がなかなか解決しないのは、日本の労働慣行や制度、社会構造などに、ブラック企業を生み出す土壌が残っているから、ともいえます。わたしたちはさまざまな立場からこの問題にアプローチしなければなりませんが、これから就職する学生のみなさんのまずすべきことは、「ブラック企業に入らない・耐えない・すぐ逃げる」といった、地道な抵抗活動ではないかと思われます。
そのためにも、個々のブラック企業の非道さに目を奪われるだけでなく、わたしたちの働き方に潜む共通の問題点を見抜き、対処する知識と力を身につけていきましょう。
参考
原則6:国連グローバル・コンパクトの10原則|グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン
雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために|厚生労働省
浅倉むつ子(2019年)『ハラスメントをめぐる法規制の現状と課題』月間全労連 2019年4月号|全労連