大学無償化の不公平感を考える
経済状況が許せば進学できたのはどんな子供たちか
これらのデータからは、収入の少ない家庭の子供たちは、進学する機会自体が狭められていることが分かります。低所得世帯に対し重点的に支援を行う大学無償化新制度は、これまで経済的な理由で進学を断念していた子供たちに、高等教育へアクセスする道を開きます。例えばシングル親世帯は、多くが進学に不利な状況に置かれていることが知られていました。これらの世帯でも、進学を諦めずに済むケースが増えるでしょう。
所得中間層の奨学金利用と給付奨学金のニーズ
しかし奨学金の利用については、低年収世帯が中心というわけではありません。報告書は、有利子の第二種奨学金が拡大した現在、中所得層が奨学金利用のボリュームゾーンになっていると述べています。低所得層ではもともとの進学が少ない上に、将来の返済負担を懸念する「ローン回避」の傾向も中所得層より強いのです。研究グループの小林雅之氏らが一連の研究成果を踏まえて行った学会発表では、貸与型奨学金が低所得層の進学機会を増やすよりも、中所得層の学費や生活費の負担を軽減する役割を果たすようになってきていると指摘しています。
下のグラフは「給付型奨学金がもらえれば進学してほしかった」と回答した人の年収別の割合です。給付型奨学金の受給に対する要望は、487〜650万円世帯でも低年収層と同程度の高さで存在します。報告書は「新制度の対象とならない中所得層(中の下)の非進学者からすれば、少なからず不公平感を覚える可能性も否定できない」とのコメントを加えています。
■年収階級別「給付型奨学金がもらえれば進学してほしかった」(%)
(参照元:平成28年度文部科学省先導的大学改革委託推進事業 (2017年)『家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究報告書』第2部第1章, pp.60)
参考
平成28年度文部科学省先導的大学改革委託推進事業(2017年) 『家庭の経済状況・社会状況に関する実態把握・分析及び学生等への経済的支援の在り方に関する調査研究報告書』
小林雅之ら(2017年)『大学機会の格差と学生等への経済的支援政策の課題』(日本高等教育学会第20回大会資料)
おわりに
今回導入される大学無償化の新制度は、経済状況と進学機会の格差を是正し、誰もが公平に高等教育にアクセスできることに重きを置いていると言えます。「シングル親世帯の優遇だ」「低所得家庭の方が得をする」といった声も聞かれますが、本当にそうなのかはよく問い直さなければならないでしょう。機会の格差をそのままに負担の軽減に向かうのは、おかしいと考えざるを得ないからです。機会均等の先に、日本の重い教育費負担をどうするか。簡単に答えの出る問題ではありませんが、それは誰が得で誰が損かといった議論を越えて、考えていかなければならない課題ではないのでしょうか。