ノーベル化学賞を受賞した5人の日本人とその研究
1981年に受賞した福井健一氏をはじめ、これまで歴代5人の日本人研究者がノーベル化学賞を受賞してきました。彼らの研究について紹介していきます。
1981年受賞:福井謙一氏
日本人で初めてノーベル化学賞を受賞しました。受賞理由となった研究は、化学反応過程の理論的研究で、「フロンティア軌道理論」を提唱しました。
物質は全て原子によって構成され、原子は全て電子を持っています。これらの電子は軌道と呼ばれる殻のようなものの中に2つずつしか入ることができません。たくさんある電子のうち最前線(フロンティア)にいる電子しか化学反応に関与しないというのがフロンティア理論です。
今では当たり前のようにこの考え方が教えられていますが、受賞当時には体型的な理論としては確立されておらず、経験則だった化学反応の理解を理論として確立させたことで受賞されました。
2000年受賞:白川英樹氏
白川英樹氏の受賞理由は、「導電性高分子の発見と発展」です。高分子とは分子量の非常に大きな分子のことで、ペットボトルやスーパーの袋などに使われるナイロンなどが代表的です。
かつて、高分子には電気は流れないと考えられていましたが、その高分子に電気が流れることを発見したことでノーベル化学賞を受賞しました。この発見により、導電性高分子は、スマートフォンのタッチパネルやリチウムイオン電池などの私たちの生活を豊かにしてくれています。
2001年受賞:野依良治氏
野依良治氏は、「キラル触媒による不斉反応の研究」によりノーベル化学賞を受賞しました。
有機化合物には、右手と左手のように、鏡に写したように反転した構造を持つ鏡像異性体があります。一見同じように見えるのですが、右手の場合には有益に、左手の場合には有毒になるなど、大きな違いがあります。右手と左手の構造をもつ分子がどのような組み合わせで、できるかは分からなかったのですが、野依氏の研究によりこれらを選択的に合成できるようにしました。
2002年受賞:田中耕一氏
田中耕一氏は、受賞時に博士号を持っていなかった珍しい受賞者の一人です。田中氏の受賞理由は、「生体高分子の同定及び構造解析のための手法の開発」です。
2018年のノーベル賞でもタンパク質(抗体)に関係した研究が受賞理由となりましたが、このタンパク質はレーザーを当てると簡単に分解してしまうため、質量分析、つまりその重さを測ることが難しいと考えられていました。しかし、田中氏はグリセリンとコバルトの混合物を混ぜてレーザーを当てると分解せずにうまく分析できることを見つけ、ノーベル化学賞を受賞しました。
2008年受賞:下村脩氏
下村脩氏は、「緑色蛍光タンパク質の発見とその応用」で受賞しました。
当初は、オワンクラゲが発光する仕組みを研究していましたが、その研究の最中で、GFP(Green Fluorescent Protein)と呼ばれる緑色に光るタンパク質を発見しました。このGDPによってラベルがつけられる特定の部分が、細胞の中のある部分を観察するときに緑色に発光し、その物質がどの部分に存在しているのか観察することができます。
2010年受賞:根岸英一氏
根岸英一氏は、「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」という研究で受賞しました。みなさんも化学の授業で、グルコースなどの炭素と炭素がつながった化学式などを多く学習したことでしょう。しかし、その炭素と炭素の元素を繋げる方法は長い間解明されてきませんでしたが、パラジウムという金属を用いることで、炭素を繋げる反応を起こすことに成功しました。
2010年受賞:鈴木章氏
鈴木章氏は、前述の根岸氏と共同で「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」で受賞しました。この研究は、同年に受賞した根岸氏と同様に、炭素と炭素を繋げる反応を発見したものでした。根岸氏の行ったパラジウムを使う反応を比べ、鈴木氏が用いたホウ素は極めて毒性が低いという特徴があり、幅広い分野に応用されています。