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理工系大学の最高峰、東京工業大学。その卒業生にはどんな人物がいるのでしょうか。東工大でどんなことを学び、将来につなげたのでしょうか。この記事では、世界に名高い研究者からビジネスの世界で業績を打ち立てた人まで、経歴とエピソードを紹介します。彼らのストーリーを知ると、東工大のイメージが大きく広がることでしょう。
もくじ
著名卒業生①:各界の権威・パイオニア
白川英樹氏~ノーベル化学賞受賞者
「プラスチックは電気を通さない」という常識を覆し「導電性高分子」という新しい領域を開拓。2000年のノーベル化学賞を受賞しました。白川氏の業績は、21世紀のテクノロジーをさらに発展させるものとして、高く評価されています。
年表
1936年 | 東京都に生まれる |
1961年 | 東京工業大学理工学部化学工学科卒業
東京工業大学大学院理工学研究科に進学、化学工学専攻 |
1966年 | 東京工業大学資源化学研究所助手 |
1976年 | ペンシルベニア大学博士研究員 |
1979年 | 筑波大学助教授(物質工学系) |
1982年 | 筑波大学教授(物質工学系) |
2000年 | 筑波大学退官、名誉教授
高分子科学功績賞(1999年度)受賞:「導電性高分子の発見と開拓」 ノーベル化学賞受賞:「導電性ポリマーの発見と開発」 文化勲章受章、文化功労者に選出 筑波大学名誉博士号 |
(白川秀樹|筑波大学,ノーベル賞日本人受賞者7人の偉業【白川 英樹】|国立科学博物館 より筆者作成)
ストーリー
白川の原点は、小学校から高校までを過ごした岐阜県高山の豊かな自然。遊びと生活の中から、小さな発見と科学への興味を育てます。東工大では、4年次にじゃんけんで負けて希望の研究室に入れず物質の性質を研究する「物性」の研究室へ進んだことが、後になって大きな意味を持つことに。ノーベル賞受賞につながった電気を通すポリアセチレンフィルムの発見は、助手時代、研究生が失敗した実験から生まれたものです。
「自然に親しみ、本物に出会う」「失敗に秘められた成功を見つけ出す」白川のエピソードは、そんなメッセージを私たちに伝えてくれます。
江田鎌治郎~伝統的な日本酒造りに科学の技術を融合
醸造用の乳酸を使った「速醸酛(もと)」を開発し、伝統的な日本酒の製造過程において、はやく安定した醸造を可能にしたのが江田鎌治郎です。現在造られている清酒の大半は、この「速醸酛」を使っています。
年表
1873年 | 新潟県糸魚川に生まれる |
東京高等工業学校応用化学科(現・東京工業大学)卒業
東京税務監督局、大蔵省醸造試験所(現・酒類総合研究所)、大阪工業大学講師などを歴任 |
|
1909年 | 大蔵省醸造試験所在任中、「速醸酛」を開発 |
1934年 | 江田醸造研究所(後の江田醸造株式会社)を設立 |
(江田鎌治郎|ウィキペディア より筆者作成)
ストーリー
醸造試験所は、明治期の急激な発展を支える酒税確保のため、また酒類の研究機関として、重要な役割を果たしてきました。その研究開発に寄与したのが、江田をはじめとする東工大の卒業生たちです。彼らは、伝統的な日本酒の製法と味わいを尊重しながら科学技術を融合させ、酒造の近代化を推し進めました。江田の業績にちなみ、清酒などの醸造に関する業績に対して、生物工学奨励賞(江田賞)が創設されています。
参考
醸造試験所創立の沿革と100年の歩み|独立行政法人酒類総合研究所
池田敏雄~日本のコンピューター開発のパイオニア
戦後日本の急激な発展に、国産コンピューターは大きな役割を果たしました。その過程にあって、コンピューターの国産化を大きく推し進め日本のコンピューター業界の発展に貢献したのが、富士通の池田敏雄です。
年表
1923年 | 東京都に生まれる |
1946年 | 東京工業大学電気工学科卒業
富士通信機製造株式会社(現・富士通株式会社)入社 後に電算機課長(35歳)、電算機技術部長(41歳)、取締役(47歳)に就任 |
1961年 | FACOM222が完成(富士通初のトランジスタ式大型汎用電子計算機) |
1968年 | FACOM230-60が完成(大型汎用コンピューター、国産初のIC搭載、世界初のマルチプロセッサ構成採用) |
1974年 | 51歳で急逝 |
(池田記念室|富士通 より筆者作成)
ストーリー
池田は天才型の技術者・開発者でした。バスケットボールを極め、数学に打ち込んだ少年時代を経て、東工大を卒業し富士通に入社した池田は、交換機・電話機の改良研究からコンピューター開発に向かいます。その才を認め支援を惜しまない上司や先輩、後輩たちに支えられ、次々と革新的な技術を開発。日本の大型汎用コンピューターの新時代を築きます。さらに世界へと活動を広げる最中、仕事中に急逝。まさにコンピューターと共に駆け抜けた人生でした。
著名卒業生②:母校で教鞭を取る研究者たち
【機械】広瀬茂男氏~世界を驚かせたヘビ型ロボット
原発事故の現場で、わずかな隙間にも入り込み内部の様子を探ることのできるヘビ型ロボットに期待が寄せられている、というニュースを耳にしたことがないでしょうか。そのロボットを開発したのが、東工大名誉教授の広瀬茂男氏です。
年表
職名:名誉教授
1947年 | 東京都に生まれる |
1976年 | 東京工業大学制御工学専攻博士課程修了
機械物理学科助手(ロボット工学) |
1979年 | 東京工業大学 機械物理学科 助教授 |
1992年 | 東京工業大学 機械物理学科 教授 |
2011年 | 東京工業大学 大学院理工学研究科 卓越教授 |
2013年 | 現職 |
(研究ストーリー:ヘビ型ロボットが研究者としての原点~柔らかいロボットで世の中の役に立ちたい~ -広瀬茂男|東京工業大学,HiBot より筆者作成)
ストーリー
ヘビ型ロボットで世界に名を知られる広瀬。ロボット研究をスタートさせた修士時代、「柔らかい機械」への強い興味のもと、ヘビをモチーフに選びます。足のないヘビがなぜ素早く滑らかな動きができるのか、解明のために実際にヘビを購入し、観察と実験を重ねたそうです。
研究上の信念は「本当に社会に役立つものを作る」。独創的なロボットたちは、事故や災害の後処理、老朽化したインフラへの対処など、社会に山積する課題に解決策を提供するという強い使命感で作り出されてきました。現在は、東工大広瀬研究室の卒業生らとともに立ち上げたベンチャー「HiBot」での活動のほか、子供たちにものづくりの楽しさや重要性を伝える教育活動にも、情熱を傾けています。
【建築】鎌直樹氏~室内空気環境と健康から考える建築設計
鍵氏が専門とするのは、建物内の環境を左右する要因のひとつである「空気」。気密性の向上する現在の建築において、鍵氏の研究テーマは重要性を増しています。
年表
所属と職名:環境・社会理工学院 建築学系 准教授
1994年 | 東京都に生まれる |
1994年 | 東京工業大学 工学部 建築学科 卒業 |
1999年 | 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻 博士後期課程 修了 |
1999-2002年 | 東京工業大学 助手 |
2002-2004年 | 東京工業大学 大学院理工学研究科 卓越教授 |
2004-2012年 | 国立保健医療科学院
建築衛生部 研究員、主任研究官、室長 生活環境研究部 上席主任研究官(改組) |
2012-2016年 | 東京工業大学 大学院情報理工学研究科 情報環境学専攻 准教授 |
2016年 | 現職 |
(研究ストーリー:室内空気の見える化で健康被害を減らす-鍵直樹|東京工業大学 より筆者作成)
ストーリー
鍵氏が注目している室内環境汚染物質は、PM2.5などの超微粒子、プラスチック製品の添加剤に由来するハウスダスト内の準揮発性有機化合物など。近年は、集中豪雨や大型台風による床上・床下浸水に伴うカビ被害や化学物質の発生も、新たな問題として急浮上しています。鍵氏が強調するのは「室内環境を快適に保つには、維持管理と同時に、計画・設計段階から考慮すること」。室内環境汚染物質の研究において、東工大は実験設備や共同研究の環境が、全国にも類を見ないレベルに充実しているといいます。研究を通じ、建築環境工学の面から健康被害の低減に貢献したい、というのが鍵氏の思いです。
【生命】田口英樹氏~タンパク質の一生の謎を解明
2016年「オートファジーの仕組みの解明」によりノーベル生理学・医学賞を受賞した、東工大の大隅良典栄誉教授。大隅氏をセンター長に、生命科学研究を牽引する組織として作られたのが、細胞制御工学研究センターです。同センターの田口英樹氏の研究室では、タンパク質の構造と仕組みを研究しています。
年表
所属と職名:科学技術創成研究院 細胞制御工学研究センター(生命理工学院担当)教授
1989年 | 東京工業大学工学部 工学部 化学工学科 卒業 |
1993年 | 東京工業大学大学院総合理工学研究科 生命化学専攻 博士 修了 |
1993年 | 日本学術振興会 特別研究員 |
1995年 | 東京工業大学 資源化学研究所 助手 |
2003年 | 東京大学大学院 新領城創成科学研究科 准教授 |
2010年 | 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 教授 |
2017年 | 細胞制御工学研究センター発足、現職就任 |
(研究ストーリー:細胞内で「タンパク質の一生」を支える脇役 シャペロンの謎解明に向けさらなるステージへ-田口英樹|東京工業大学,田口研究室|細胞制御工学研究センター 東京工業大学 科学技術創成研究院 より筆者作成)
ストーリー
田口氏が研究するのは、タンパク質の内部で構造を支え、その一生を制御する「シャペロン」という物質です。しかし田口氏が東工大に入学してまず学んだのは、生命科学とは接点のない応用化学。現在の道へと導いたのは、ひとつにはジェームズ・ワトソンの『二重らせん』、そして生命科学に専攻を移した修士課程、助教授に進められてテーマに選んだ「発見されたばかりで面白そうなタンパク質」=シャペロンでした。
それから20年、田口氏はシャペロン研究の最先端を走り続けています。学生たちに「自分の選んだ分野やテーマにとことんはまってほしい」「一点突破でいい、研究を突き詰めれば必ず師を超えられる」と力強い言葉を贈っています。
【環境】灘岡和夫氏~サンゴ礁生態系を守る社会の構築
地球の環境変動や人為的な負荷要因で、生態系が危機的な状況にある現代。灘岡氏は研究と地域社会とともに進めるプロジェクトの両輪で、生態系の保全と地域の持続的な発展に尽力しています。
年表
所属と職名:環境・社会理工学院 融合理工学系 名誉教授・特任教授
1976年 | 東京工業大学 工学部土木工学科卒業 |
1978年 | 東京工業大学 大学院理工学研究科土木工学専攻修士課程修了 |
1978年 | 運輸省港湾技術研究所 水工部漂砂研究室 研究官 |
1983年 | 東京工業大学 工学部土木工学科 助手 |
1986年 | 東京工業大学 工学部土木工学科 助教授 |
1994年 | 東京工業大学 大学院情報理工学研究科情報環境学専攻 教授 |
2016年 | 東京工業大学 環境・社会理工学院 融合理工学系 教授 |
2019年 | 現職 |
(研究ストーリー:科学の力と社会との絆でサンゴ礁生態系を守り抜く-灘岡和夫|東京工業大学 より筆者作成)
ストーリー
灘岡氏の調査・研究対象は、サンゴ礁をメインとする沿岸生態系。危機的状況にある沿岸生態系の保全、防災面も含めた環境全般の再生を念頭に、持続的な生態系共存型システムの実現を目指し、沖縄やフィリピンなどでさまざまなプロジェクトを動かしています。
そんな灘岡氏の信念は「研究とは論文にすれば終わりというものではなく、それが世の中に活かされてこそ意味を為す」というもの。調査や研究の結果を提言にまで落とし込む。実際に試行してみる。地域住民や政府関係者に働きかけ、タイアップして実践する。研究者の使命としてのきめ細やかな対応力をつけるよう、灘岡氏は学生たちに強く呼びかけています。