
さまざまなテーマがあるけど、これも「人権作文」なの?
現代の子供たちは、さまざまな機会に人権教育を受けています。国内の差別問題やいじめ、障害などのトピックについても学んでいることでしょう。しかし一方で、「どこか自分にとっては遠い話」という印象を持っている子供も少なくないかもしれません。
人権とはなんだっけ?
改めて「人権とは何か」について考えてみましょう。子供も大人も、人間である限り誰でも人権を持っています。しかし、具体的に説明しようとすると難しく感じるのではないでしょうか。
「すべての人々が生命と自由を確保し、それぞれの幸福を追求する権利」あるいは「人間が人間らしく生きる権利で、生まれながらに持っている権利」であって、だれにとっても大切なもの、日常の思いやりの心によって守られなければならないものです。
(引用元:人権とはなんですか | 神奈川県人権啓発活動ネットワーク協議会)
神奈川県人権啓発活動ネットワーク協議会の解説が比較的分かりやすかったので、引用しました。人間にはそれぞれ個性があり、互いに異なっています。その違いによって軋轢が生まれることもありますが、違いを理由に個人の自由を制限してはいけないのです。
個人の自由を制限しないために、どのような権利が守られなければならないかは各国の憲法によって定められています。また、国連が採択した世界人権宣言も参考になります。
政府が重点的に取り上げている人権について調べてみよう
人権は個人に帰属しますが、社会の中で特定の集団の権利が低くなっていることもしばしばあります。人種・出身地・職業・性別などに基づく差別と呼ばれるものです。
個人がある属性を持つことは、その個人の自由を制限して良い理由になりません。そのため、政府は重点的に守るべき項目を定めて啓発活動を行っています。
(1)女性の人権を守ろう
(2)子どもの人権を守ろう
(3)高齢者の人権を守ろう
(4)障害を理由とする偏見や差別をなくそう
(5)同和問題(部落差別)を解消しよう
(6)アイヌの人々に対する偏見や差別をなくそう
(7)外国人の人権を尊重しよう
(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見や差別をなくそう
(9)刑を終えて出所した人に対する偏見や差別をなくそう
(10)犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう
(11)インターネットを悪用した人権侵害をなくそう
(12)北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう
(13)ホームレスに対する偏見や差別をなくそう
(14)性的指向を理由とする偏見や差別をなくそう
(15)性自認を理由とする偏見や差別をなくそう
(16)人身取引をなくそう
(17)東日本大震災に起因する偏見や差別をなくそう
(引用元:啓発活動強調事項 | 法務省)
テーマが思いつかない場合、これらの項目について調べてみるのも良いでしょう。特に子供たちは、「子供の人権」が2番目にあることに驚くかもしれません。自分たちの人権が侵害されている可能性がある、ということに無自覚な子供も多いでしょう。「今まで気にしていなかったけど、これは人権問題だったのか」という発見があるかもしれません。
主題を決めよう。身近なところにある人権問題は?
特にテーマが思い浮かばないというお子さんは、まず上記にある法務省の啓発活動強調事項から何か一つを選んでみると良いかもしれません。テーマに関係のある身近な体験について考えてみましょう。
中学生はまだ学んでいる途中。何を考えたかが大事
前提として、中学生はまだ子供であり、さまざまなことを学んでいる最中です。人権問題の多くは政治や経済、慣習などいろいろな要素が複雑に絡み合っており、簡単に答えが出せるものではありません。
人権作文は「正しい答え」を出すためのものではなく、答えのない難しい問題にどう取り組んだかを書くものだと考えましょう。保護者や友達など、周りの人の意見を取り入れてみるのも良いでしょう。一つの問題に対してさまざまな見方ができると示すことができます。
実はこれも人権問題だった?ピックアップしてみよう
第38回全国中学生人権作文コンテストで文部科学大臣賞を受賞した「待つ」という作文は、目が不自由な祖母に対して苛々したり急かしたりしてしまう自分や周囲の人の行動から始まり、そこから「自分は祖母を手伝っているつもりで、祖母の人権を軽んじていたのではないか」という反省に続きます。
会計の時の出来事です。いつものように私が支払いを手伝おうとしました。すると祖母から「一人でもできるよ。」と言われたのです。お金を支払うときの手伝いは,特に頼まれたわけでもなくしていました。この行為は,「おばあちゃんが困っている。」という私の判断や,「早く払わなければ。」という私の焦りからくる行動だったと思うのです。祖母の人権を尊重しての行動ではありませんでした。人の人権を尊重することと,人を手助けすることとは全く違うことに気が付いた瞬間でした。私は自分の思い込みで行動してしまい,親切を祖母に押しつけるような形になっていました。
(引用元:「待つ」 第38回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集 | 法務省)
自分がよかれと思って行うことがすべて相手のためになっているわけではない、むしろ相手の自由を損なっていることもあるということは、大人でも身につまされる指摘ではないでしょうか。
「もしかしたら、これは人権問題だったのかも」「もしかしたら、自分も他人の人権を侵害するような言動を取っていたのかも」という気づきが得られれば、あとはじっくりと考えを深めます。保護者との対話もヒントになるかもしれません。身近な体験を拾って考えてみましょう。
テーマが決まった!作文を構成してみよう
作文を書けそうなテーマやエピソードは見つかったでしょうか。書き方に悩むときは、一気に書き始めるのではなく、最初に構成を作ってみることをおすすめします。
起承転結
起承転結は、以下のような作文のときにおすすめです。
- 起:テーマにまつわるエピソード
- 承:1つ目のエピソードに関連する別のエピソード
- 転:2つのエピソードをきっかけに今までものの見方が変わった
- 結:作文全体を受けたまとめ
人権作文を書くときは、深く考えることによって、取り組む前と後でテーマに関するものの見方や意見が異なってくることも多いでしょう。そのような「取り組んだ結果得た考え方」を「転」に持ってくると、全体をきれいにまとめられます。
序破急
序破急は、勢いのある文章におすすめです。
- 序:学校でこんな経験をして悲しかった
- 破:しかし、先生が人権に関する授業をしてくれてクラスの雰囲気が変わった
- 急:やはり人権は大切だ
起承転結に比べるとややシンプルな印象になりがちなところが欠点ですが、伝えたいエピソードを詳細に書くときには使いやすい構成です。結論を強く伝えたいときに採用すると良いでしょう。
まとめ
人権作文に取り組むときに大切なのは、「実は人権問題って自分も当事者なんだ」という自覚を持つことです。最初は子供たちにとって抽象的すぎるテーマかもしれませんが、身近なところから考えを深めていけるよう、サポートしてあげてください。
参考
人権とはなんですか | 神奈川県人権啓発活動ネットワーク協議会
起承転結は「転」から考える――迷わず書くための文章術(2) | 週刊アスキー
作品の構成パターンの1つ「序破急」とは? │文藝・学術出版 鳥影社
「待つ」 第38回全国中学生人権作文コンテスト入賞作文集 | 法務省