世界的に優れたオルタナティブ教育の事例である「レッジョエミリア教育」と「イエナプラン教育」について、日本のITものづくり教室「3rdschool」がイタリアとオランダで視察を行いました。
これらの教育のコンセプトを深く理解し、日本の教育変革の局面においてどのように生かすことができるか、3rdschoolのみなさまが見聞きしたものそして感じたものを、写真を多めに掲載しながら第1回~第5回に分けてご紹介していきます。
レッジョエミリア教育が重んじる子供の「言葉」
まずはレッジョエミリア教育から見ていきたいと思います。
今回、私たちは「CLOROFILLA」というミラノ市内にある幼稚園を訪問しました。レッジョエミリア教育の推進協会であるレッジョチルドレンと共同で設立した私立幼稚園です。今回はツアー参加ではなく、個人での訪問だったため、訪問先の幼稚園の手配にとても苦労したのですが、CLOROFILLA幼稚園はメールでの問い合わせに親切に回答してくださり、訪問を快く受け入れてくださいました。
CLOROFILLA幼稚園 外観
レッジョエミリアと「100の言葉」
レッジョエミリア教育は、イタリアのレッジョエミリア地域で生まれた幼児教育のアプローチで、 ローリス・マラグッツィという一人の教師の「100の言葉」という一遍の詩をコンセプトとして生まれました。
この詩の通り、子供は100の「言葉」を持っていて、それを大人の恣意によって奪ってしまっている。 その「言葉」の存在を認め、尊重し、解放するためのアプローチをレッジョエミリア教育と呼んでいます。
レッジョエミリア教育はコンセプト型のアプローチのため、園ごとに取り組みが異なること、また「100の言葉」の解釈にも多少の相違があることをご理解いただき、今回紹介する園がレッジョエミリア教育の全てではないことを踏まえた上でお読みいただければと思います。
子どもには 百とおりある。
子どもには 百の言葉 百の手 百の考え 百の考え方 遊び方や話し方
いつでも百の
聞き方 驚き方、愛し方 歌ったり、理解するのに 百の喜び
発見するのに 百の世界 発明するのに 百の世界 夢見るのに 百の世界がある。
子どもには 百の言葉がある(それからもっともっともっと)けれど九十九は奪われる。
学校や文化が 頭とからだをバラバラにする。
そして子どもにいう 手を使わずに考えなさい 頭を使わずにやりなさい
話さずに聞きなさい ふざけずに理解しなさい 愛したり驚いたりは 復活祭とクリスマスだけ。
そして子どもにいう 目の前にある世界を発見しなさい
そして百のうち 九十九を奪ってしまう。
そして子どもにいう 遊びと仕事 現実と空想 科学と想像 空と大地 道理と夢は一緒にはならない ものだと。
つまり 百なんかないという。
子どもはいう
でも、百はある。ローリス・マラグッツィ
「マテリアル」あふれる園内
園内には「マテリアル」と呼ばれるものがたくさんあります。マテリアルとは、言葉を持った素材を意味します。例えば植物、水、土、食物、鉱物、光や影。こういう自然物だけではなく、プラスチック、紙、ボタン、ビー玉、廃材、などの人工物もマテリアルです。このマテリアルはレッジョエミリア教育の中で大きな特徴の一つであり、子供たちの言葉を引き出す重要な要素です。
このマテリアルが園内の至るところに配置されています。子供も言葉を持っていて、マテリアルも持っている。触れることで言葉を交換し、対話しているようでした。マテリアルは子供たちが自分のうちにある言語に気づくものであると同時に、アウトプットのツールにもなっているのです。
マテリアル(調味料やドライフルーツ)@キッチンアトリエ
マテリアル展示スペース
■建物
建物はもともと病院だった改装したもので、外観からは想像もつかないような幻想的な内装が印象的でした。天井がとても高く(6mほど)、壁も天井もガラス張りとなっており、自然光を取り入れられるようになっていました。非常に良く整えられた照明と空調により、開放感がありリラックスできるナチュラルな空間となっており、この雰囲気だけでも、子供たちに内在している言葉が引き出されるような気がしました。
園の中心にはピアッツァ(広場)と呼ばれる空間があり、そこには園の教育思想のメタファーとなる一本の木が植えられていました。ピアッツァは広場を意味する交流の場で、イタリアにおいて街や空間設計の際に、中心に据えられるものだそうです。ピアッツァを広い廊下が囲い、その廊下を囲うようにクラスルームが配置されており、子供たちはさまざまな場所で思い思いの遊びをしていました。屋上は植物園のような様相で、ウッドデッキのテラスの随所に多様な植物が植えられていました。
エントランス
廊下①
廊下②
屋上
■アトリエ
アトリエは子供たちの持っている言葉を表現する場所です。CLOROFILLAには3種類のアトリエがあり、それぞれ「アトリエ」、「キッチンアトリエ」、「スイミングアトリエ」と呼ばれています。
アトリエは子供たちが美術的な表現をする場所で、キャンバスやさまざまな絵の具が用意されています。キッチンアトリエは文字通りキッチンとアトリエの要素をかけ合わせた場所で、さまざまな調味料やドライフルーツ、調理器具などが配置され、食材や料理を通して内在する言葉を表現する時に使用されます。プールアトリエは一見ただの小さなプールのように見えるのですが、水の持っている言葉に触れ、水を通して言葉を表現する場所として機能しています。
アトリエ
キッチンアトリエ
プールアトリエ
■キッチン
キッチンアトリエとは別に、子供たちのランチを作るキッチンも園内に設置されています。キッチンは中央の廊下に面しており、ガラス張りで区切られているため、中の様子が誰からでも見えるようになっています。園長先生が「ランチがただ出てくるものではなく、どういう過程で誰が作っているものなのかを、子供たちが知るためにガラス張りにしているんです」と話されていました。
キッチン
■教員室
教員室は日本の園や学校の職員室とは違い、まるで”秘密の研究室”のような空間でした。子供のクリエイティビティに関するさまざまな書籍や、園内での記録、資料が整理・陳列されており、室内が子供たちの言葉であふれていました。
職員室
第1回の記事では、レッジョエミリア教育の概要とCROLOFILLA幼稚園の施設についてお届けしました。第2回の記事では、CROLOFILLA幼稚園の授業の様子や先生の役割などに迫ります。