私立中学校が英語入試を取り入れ始めた理由
学校によってさまざまな入試形式で中学校受験に取り入れられるようになった、英語科目。ではなぜ私立中学校は英語入試を取り入れるようになったのでしょうか。
理由1:保護者のグローバル教育要望に応える
近年、国の垣根を越えたビジネスを展開する企業が増え、国際社会で活躍する人材が求められるようになりました。そのため、グローバル化する社会で通用するよう我が子に教育を受けさせたいと考える保護者も増えています。そのため、独自の教育カリキュラムを提供することのできる私立中学校では、保護者のグローバル教育要望に応えようという意図があります。
理由2:将来の大学入試で合格実績を上げる
2020年度以降の大学入試では英語4技能が評価されることになります。英語4技能とは「聞く(listening)」「読む(reading)」「話す(speaking)」「書く(writing)」という4つの英語スキルのことを言います。これは従来の英語教育では国際社会に通用しなかったため、今後は使える英語コミュニケーション能力を身につけた人材を育てることを目的とした改革です。
そのため、小学6年生という早期から英語能力の高い人材を入学させることで、6年後の大学入試で合格実績を上げ、私立中学校の社会的評価を上げるという狙いがあります。
理由3:国際社会に対応する下地のある子供を受け入れる
子供の学力が伸びる可能性というのは、4教科に集約されているわけではありません。中には、英語力はあるものの中学受験勉強を本格的にしてこなかった子供たちもいます。
- 帰国子女枠で受験する要件をみたしていない海外帰国者
- 海外に在住していたが英語力を磨く機会が少なかった海外帰国者
- 小さな頃から英会話スクールに通っていたが受験勉強はしなかった子供
そのような今後国際社会に対応する下地のできている子供を受け入れようという意図があります。
英語が中学校受験の必須科目になる可能性を探る
英語が中学校受験の必須科目になる可能性はどの程度あるのでしょうか。中学校受験に関わる3者の立場から、英語が中学校受験の必須科目になった場合を想定して考えてみましょう。
中学校受験進学塾の立場
中小規模の中学校受験進学塾であったり、個人塾である場合は新しく英語科教員を確保できるかに不安があり、確保できない場合は運営危機に陥る可能性があります。
対して大手進学塾は、グループ傘下で英語教室を実施しているため、英語科教員の確保はできます。しかし英語教室で教えるカリキュラムとは別に、新しく中学校受験のための英語学習プログラムを作り、授業数を増やす必要があります。
費用面・人材面でのコストがかかるということは、通塾費用が上がることにつながり、中学校受験進学塾代を払えない家庭が出てくる可能性があります。もともと中学受験をするのにはお金がかかるため、富裕層の子供のみ中学受験を目指せるというイメージがあります。英語入試を必須化することは、親の所得によって子供に与えることのできる教育にさらなる格差が生じる原因となりかねず、中学受験者数が減少する可能性があります。すると、生徒の現象により経営資金が確保できなくなった塾が運営できなくなってしまいます。
参考
REAL (Retention of English as an Additional Language)|Y SAPIX GLOBAL CAMPAS
私立中学校の立場
東京大学合格者を多く輩出する難関校は、現在英語入試を導入していません。つまり、英語力が高いことは、学力や問題解決力が高いことと関係ないと考えていると言えるでしょう。
その他英語入試を導入していない理由として、入試の採点業務が増えることや、業界標準がないために作問の労力がかかるなど、教員の負担が増えることも考えられます。
中学校受験生・保護者の立場
中学校受験進学塾の立場でもご説明した通り、英語科目が増えることで通塾費用が上がるため家計負担が増し、通塾費用が確保できない家庭は中学校受験を断念せざるを得なくなります。
また、英語力は家庭環境から大きな影響を受けるため、英語力のない保護者は英語の必須科目化に対してそもそも好意的ではありません。
さらに、受験生は算数・国語・理科・社会の4科目の現状でも、膨大な時間を勉強に費やしているため、新たな科目が追加されても勉強時間を割くことは物理的に難しいと考えられます。
英語入試の展望〜英語が中学校受験科目になるのはいつ?
2019年度時点では英語を入試の必須科目にしている私立中学校はありません。しかし、英語入試を実施する私立中学校が増えていることを考えると、今後英語が必須科目となる可能性はないとはいえません。しかし中学校受験業界に関わる3者の立場から考えて、全員に負担があるため、すぐに英語が必須化される可能性は低いでしょう。
ただし、中学受験の人気名門校である慶應義塾湘南藤沢中等部も英語選択入試を2019年から導入したことに注意が必要です。
難関私立大学といわれる慶應義塾大学の一貫教育校が英語選択入試を導入したことに影響を受け、他の私立中学校が追随し、英語を選択できる入試制度を実施することがスタンダードと考える可能性があります。すると、中学校受験進学塾は入試対策として英語の授業を行うようになり、受験生や保護者は次第に「英語は必須科目」と考える風潮が生れることになるでしょう。
このように、私立中学校・進学塾・受験生と保護者という3者の相互関係によっては、英語が中学校受験の必須科目となる将来はそう遠くないかもしれません。
私立中学校は、各学校毎に特色ある教育カリキュラムを組むため、入試方法も年度ごとに変更される場合があります。今後の英語入試の導入については、学校説明会などで最新情報を常にチェックしておきましょう。
参考
2020年度 中等部入試 生徒募集要項 抜粋|慶應義塾湘南藤沢中等部
英語入試が本格開始?受験生を支える親の心配事
英語入試が本格的に開始する場合に備え、中学校受験生はどのような対策を行ったら良いのでしょうか。お子さんを支える親御さんの心配される点を踏まえて考えてみましょう。
中学校受験で問われる英語レベルはどのくらい?
2020年度から小学校で導入される「外国語」において、小学校で学ぶ英語の語彙数は600~700語です。これは、実用英語技能検定(英検)5級レベルと言えます。
参考
英検1級~5級の語彙数、英単語レベルの比較(2019.7.13)|えいらく
しかし、私立中学校の中学受験での英語入試難易度は、学校毎に異なります。例えば、前述の慶應義塾湘南藤沢中等部は英検2~準1級レベル、また市川中学校は英検準1級レベルとハイレベルな英語力を求めています。
英語入試を選んで中学校受験を合格したいと考える方は、まず志望校の求める英語レベルを調べることが肝要です。
中学校受験英語の試験対策には英検?
中学校受験の英語選択入試に向けて、英検にチャレンジするのはおすすめです。英検は日常英語を学ぶ方向けの検定試験であるため、多くの私立中学校で加点や試験免除の資格として採用されています。
また英会話教室などに通って、ネイティブな発音に耳を慣らしたり、英語でコミュニケーションを取る練習を行うことも必要です。学校によって英語入試方法は異なりますが、一部学校では英会話の試験も行われますので、志望校の学校の英語入試方法を調べて対策を練りましょう。
まとめ
グローバル化の進む社会において、今後英語は「できるのが当然」の時代が到来します。確かに新しく英語学習を行うことに抵抗がある方もいらっしゃるでしょうが、将来を考えると英語力を早期に身につけることに不利益はありません。
子供の将来の可能性を広げる英語教育。今後の中学校受験の動向に注目が必要です。
参考
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説外国語活動・外国語編(平成29年7月)|文部科学省
中学受験に英語が加わるのはいつから? 英語入試の最新動向を大手受験塾の先生に聞いてみた!(2019.7.12)|Pursey
2019年入試では125校が「英語(選択)入試」を実施!(2019.1.21)|首都圏模試センター
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