幼稚園無償化でも専業主婦だと無料にならない?保育と働き方を考える - cocoiro(ココイロ) - Page 2

無償化の範囲と「保育の必要性」の認定

無償化対象となるための「保育の必要性」とは?

「保育の必要性」とは、平成24年に制定された「子ども・子育て支援法」で定められた基準で、保育所などの利用の可否や施設の振り分けに使われます。支援法制定前は「保育に欠ける」事由というものが要件となっていました。2019年に無償化制度がスタートすると、「保育の必要性」は無償化対象となるかを判断する基準としても使われることになりました。

「保育の必要性」の認定要件

「保育の必要性」の認定要件を下の表に示します。2015年の「子ども・子育て支援新制度」本格施行に当たり、現状に合わせて、「保育の必要性」の認定要件は「保育に欠ける」事由から大きく拡大されました。

旧:「保育に欠ける」事由

児童福祉法施行令 第27条)

・保護者のいずれもが次のいずれかの場合に該当する場合
・かつ、同居の親族その他が保育を行うことができない場合

  1. 昼間労働することを常態としている(就労)
  2. 妊娠中または出産後間がない(妊娠、出産)
  3. 病気、怪我、精神や身体の障害(保護者の疾病、障害)
  4. 同居の親族を常時介護している(同居親族の介護)
  5. 災害の復旧中(災害復旧)
  6. 前各号に類する状態(その他)
新:「保育の必要性」の認定要件

子ども・子育て支援法施行規則 第1条の5)

・保護者のいずれもが次のいずれかの場合に該当する場合

  1. 月48~68時間の範囲で市町村が定める時間以上の労働が常態である
  2. 妊娠中または出産後間がない
  3. 病気、怪我、精神や身体の障害
  4. 同居の親族(長期間入院等をを含む)を常時介護または看護している
  5. 災害の復旧中
  6. 求職活動中(起業準備を含む)
  7. 次のいずれかに該当

(イ)学校に通っている

(ロ)職業訓練を受けている

  1. 次のいずれかに該当

(イ)児童虐待を行っているまたは再び行うおそれがある

(ロ)配偶者からのDVにより子供の保育が困難

  1. 育児休業中だが、別の子供が保育施設などを利用中で引き続き利用することが必要
  2. その他、前各号に類するものとして市町村が認める事由

認定が必要なのは幼稚園の預かり保育と認可外施設

保育所や認定こども園などでは、入園の際にすでに「保育の必要性」の認定を受けています。無償化の対象となるかどうかを判断する際、改めて認定が必要となるのは、次の2つの場合です。「保育の必要性」の認定が受けられない場合、利用料は全額負担することになります。

  • 幼稚園の預かり保育を利用する場合
  • 認可外保育施設などを利用する場合

「保育の必要性」のベースにあるのは「保護者が子供の保育ができない場合、保育所などが代わって保育を担う」という考え方で、メインに想定されているのは共働きの家庭です。では、専業主婦や働く時間が短い人、認可外施設を利用する人などは「施設を利用しなくても保育が可能」な人たちなのでしょうか。

参考

内閣府子ども・子育て本部(令和元年6月)『子ども・子育て支援新制度について』

幼児教育・保育の無償化はじまります。|内閣府特設サイト

専業主婦には保育施設は必要ないの?

専業主婦は「裕福で働く必要のない人たち」なのか

専業主婦は、長いこと「裕福さの象徴」とされてきました。夫が高収入のサラリーマンで、十分な収入があるために、妻が経済的な理由で働く必要はない、というのが一般的なイメージだったのです。しかし近年、こういったイメージは現実から乖離していることが、さまざまな研究から分かってきました。経済産業研究所の研究員、周燕飛氏は、レポート『専業主婦世帯の貧困:その実態と要因』で、次のような点を明らかにしています。

  • 日本の専業主婦世帯の12.1%が貧困層である
  • 貧困層の専業主婦世帯では、子供の教育投資への負担感が大きい
  • 約9割の貧困専業主婦が、遅かれ早かれ働きたいと考えている
  • 低収入の世帯でも主婦が働きに出ないのは、働いて得られる賃金と子育て環境などを考慮すると、家庭で子育てした方がよいとの判断になるから
  • 3歳児未満の乳幼児がいることや、保育所不足などの影響が大きい

周氏が必要な施策として挙げるのは、賃金レベルを向上する無料職業訓練の提供や専門資格取得の支援、保育所への優先的入所、0~2歳児向けの保育サービスを拡充させることなどです。

参考

周燕飛(2015年)『専業主婦世帯の貧困:その実態と要因』独立行政法人経済産業研究所ディスカッション・ペーパー 15-J-034

幼稚園や認可外施設の利用料は高くても仕方ないのか

幼稚園は義務教育の基礎を培う教育施設と規定され、幼稚園児の母親は専業主婦かパートタイム労働者が主でした。また認可外保育施設は、女性の就労拡大に伴い、夜間や長時間、産休明けの0歳児など認可保育所のカバーしきれない保育を補うものとして、拡大してきた経緯を持ちます。しかし現在、保育施設の種類による利用のされ方は、大きな違いのないものになってきています。論文『日本の保育制度』は、施設利用の現状を次のようにまとめています。

  • パートタイム労働者など不規則勤務で低収入の世帯の方が、認可保育所に入りづらい
  • 認可外施設の利用者は、長時間労働の高所得世帯と不規則勤務の低収入世帯に二極化している
  • 待機児童の多い大都市圏では、しばしば認可保育所の欠員待ちに認可外施設が利用される
  • 子供が幼いうちから働く母親が増加しているため、幼稚園の預かり保育へのニーズが高まっている

幼稚園の預かり保育や認可外施設の利用が、認可保育所などを中心とした「従としての利用」や「プラスアルファの利用」であるなら、無償化の内容に違いがあるのも納得できるでしょう。しかしこの状況を見れば、保護者の必要度に施設の違いはないと言えるのではないでしょうか。また劣悪な認可外施設を排除するのであれば、保護者の負担額に差をつけるより、基準を満たさない施設を閉鎖する方が先ではないでしょうか。

参考

大石亜希子(2018年)『日本の保育制度』千葉大学グローバル関係融合研究センター・ワーキングペーパー

西村真実(2015年)『乳児保育研究に示された課題についての検討』帝塚山大学現代生活学部紀要 No.11

「教育」と「保育」は分けるべきものなのか

2006年に制度化された認定こども園は、幼稚園と保育所が併存する二元体制を改革する、ひとつの試みでした。しかし画期的な制度改革にはならないまま、さまざまな施設タイプが混在する現在に至ります。無償化の要件が細かく分かれ複雑なのは、保育制度の整合性を図らないまま無償化を進めたことも、一因なのではないでしょうか。

論文『乳幼児期の「保育所保育の必要性」に関する研究』は、保育所と幼稚園で共通に使用される「保育」という言葉の概念を「保育所においては養護と教育の一体となったもの、幼稚園においては養護を前提とした教育のこと」と説明し、分離したものではないことを示しています。無償化制度がスタートした今、私たちはもう一度、保育施設のあり方について考えるべきなのかもしれません。

参考

幼児期における教育・保育の課題-幼児教育に対する社会的コンセンサスの必要性-無藤隆(白梅学園大学子ども学部教授)インタビュー|ベネッセ教育総合研究所

白川蓉子(2009年)『【日本】 迷走する日本の乳幼児教育保育』|CHILD RESEARCH NET

坂﨑隆浩ら(2011年)『乳幼児期の「保育所保育の必要性」に関する研究』保育科学研究 Vol.2

おわりに

無償化制度における「保育の必要性」の認定や、要件により生じる差は、母親の就労が現在ほど一般的ではなく、幼稚園と保育所が並んで機能していた時代のなごりをとどめていると考えられるでしょう。しかし保育を取り巻く現状は、大きく変化しています。今後も、より現状に即した制度改訂が必要なのではないかと思われます。

参考

貧困でも「自ら専業主婦を選ぶ」日本女性のなぜ|東洋経済オンライン

中国から見れば日本の女性は結構恵まれている|東洋経済オンライン

この記事をかいた人

菊池とおこ

北海道大学文学部行動科学科卒。行政系広告代理店、医薬系広告代理店、地方自治体の結婚支援事業担当などを経て独立、ライターに。女性のライフイベントと生き方、働き方、ジェンダー教育などが主な関心分野。大学院進学を視野に入れて地元大学のゼミ(ジェンダー・スタディ)に参加中。趣味は音楽、中学より本格的に合唱を始め、現在も合唱団に所属。ネコのおかあさん。子供と接する時は、自由人の叔父ポジション。