幼児期後期(3~6歳ごろ)
- 導かれる要素:目的
- 心理的課題:積極性 VS罪悪感
この時期は動作や言語がますます発達し、会話が成立するようになったり、友達との関わりの中で社会性やルールを少しずつ学んだりする時期です。
さらに、この前の時期で「やりたい!」と思う気持ちである自律性が養われると、「いろいろなことをやってみたい!」という積極性が芽生え出し、大人の真似やごっこ遊び、自分で作った遊びなどを積極的にするようになります。
しかし、善悪や危険か安全かといった判断は十分にできません。そのため、周囲の大人との関わりの中で少しずつ覚えていきます。
この時期は、積極性を持つことで遊びが楽しめる時期ですが、同年代の子供と衝突をしたりと思い通りにならないこともあります。そして、そのときに親や周囲の大人から注意を受けることで不安を引き起こすことがあり、これがこの時期のネガティブである「罪悪感」につながります。
この時期では、「怒られるかも?」といった罪悪感よりも、「やってみたい!」という積極性が勝った体験ができることが望ましく、これが「目的を持つ」という力につながります。
学童期(6~13歳ごろ)
- 導かれる要素:有能感
- 心理的課題:勤勉性 VS劣等感
学童期は、家庭で過ごす時間よりも学校や同年代の友達と過ごす時間が多くなる時期です。小学校に入ると周りの友達との関わりを自然と持つようになり、授業ではさまざまな分野の教科を学びます。
今までは家庭の中で自分のペースで過ごせていたとしても、学校ではいろいろな子供たちが一緒に過ごし、周りと比べることで自分の得意・不得意も見えやすくなる時期です。できないことにチャレンジすることも増えていくでしょう。
このときに、できないことや難しいことを努力の力で達成することを「勤勉性」と呼びます。勤勉性は、自分の努力が実り目標を達成できた経験や、仮に努力が実らなくても他者から頑張りを認めてもらったときに体験でき、これを通して自分はやればできるんだという「有能感」を持つことができます。
一方、競技で友達に負けてしまったり、ライバルにどうしても勝てないという経験をすることで悔しさを味わうと「劣等感」を感じるでしょう。劣等感は、この時期に頑張ること、努力をすることから逃げてしまったり、努力をしてもできなかったときに他者から認めてもらえないと強く抱きやすくなります。
「勤勉性」と「劣等感」がこの時期の心理的課題で、劣等感よりも勤勉性が勝ることが大切だといわれます。
思春期・青年期(13~22歳ごろ)
- 導かれる要素:忠誠心や帰属感
- 心理的課題:同一性(アイデンティティ)の確立 VS同一性(アイデンティティ)の拡散
思春期・青年期は、成長においては第二次性徴や異性への関心など、さまざまな変化が起こる時期です。さらに、環境面ではそれまでよりもフィールドを広げて同年代と関わる時期でもあります。
学校・家庭・恋人・友達・職場などで、それぞれ自分のポジションがある状態になると、「家族にとって自分とは?」「恋人にとって自分とは?」というように、自分の存在に疑問や葛藤を抱えるようになります。そして、これらの答えの先にある「○○である自分」という考え方は「アイデンティティ」と呼ばれます。
そして、憧れの存在の真似をしてみたり、さまざまな人と関わりを持つ中で、「彼女はこういう意見だが、自分はこう思う」というように、他者との関わりや自分の価値観、考え方の擦り合わせがされることで、本来の自分を獲得していきます。
これがこの時期のポジティブな要素である「同一性(アイデンティティ)の確立」です。
一方、他者との関わりの中でアイデンティティがうまく確立できず「自分は何者なのか?」「自分はどうしたいのか?」といったように、本来の自分を獲得できないことを「同一性(アイデンティティ)の拡散」といいます。
この時期に「同一性(アイデンティティ)の確立」という体験が「同一性(アイデンティティ)の拡散」よりも上回ると、「自分はこの集団にいてもいいんだ」「自分はここに帰属している」という「忠誠心や帰属感」を得ることができます。
成人期初期(22~40歳ごろ)
- 導かれる要素:幸福感・愛
- 心理的課題:親密性 VS孤独
成人期初期は、多感な時期である思春期・青年期を乗り越えて、社会に出ていく時期です。そして、友人や恋人などとより親密な関係をつくる時期でもあり、この親密な関係性をつくる力を「親密性」と呼びます。
この「親密性」という力を養うには、思春期・青年期で構築される「同一性(アイデンティティ)の確立」が必要です。なぜなら、自分自身の価値観や考え方が確立されていないと、違った価値観を持つ他者と語り合うことが難しいからです。そのため、親密性を確立するには、思春期・青年期の課題をクリアしているのか? がカギになります。
この時期のネガティブな要素である「孤独」は、自分の価値観が揺らぎ、「相手に受け入れてもらえないのでは?」と不安を抱くことで感じます。
この時期は、「親密性」と「孤独」が心理的課題です。「親密性」を感じる体験が「孤独」よりも勝ると「幸福感・愛」を感じることができ、その後の人生をより良く生きていく活力となります。
成人期後期(40~65歳ごろ)
- 導かれる要素:世話
- 心理的課題:生殖・世代性 VS自己没頭
成人期後期は、肉体的にも精神的にも安定した働き盛りの時期です。そして、それまで自分自身の行動や考えが中心であったライフスタイルが、次第に子供や後輩といった次世代の人に関心を抱きながら育てていくようなライフスタイルに変わります。
このように、次の世代を支えていくもの(子供・新しいアイデアなど)を生み、関心を持って育てていくことで、成人期後期のポジティブな要素である「生殖・世代性」という要素が満たされます。
一方、この時期に次世代への関心がなく、関わりが薄い場合には、他者と関わり合うことが少なくなるので自己満足や自己陶酔に陥りやすくなります。これがネガティブな要素にあたる「自己没頭」という状態です。
この時期には、後世のことを思い、次の世代を育てよう、つなげようといった「生殖・世代性」が、自分のことしか考えていない状態である「自己没頭」を上回ることで、「世話」という活力が備わるとされています。
老年期(65歳~)
- 導かれる要素:賢さ
- 心理的課題:自己統合 VS絶望
最後の段階である老年期は65歳~を指し、老いの時期に該当します。この時期は、誰もが肉体的な衰えを避けることはできません。しかし、それまでに培ってきた人脈や経験、知識などが集大成となる時期でもあります。
この時期、今までの人生を振り返ったときに「良い人生だったな」と思えれば、いつかは来る「死」を受け入れることができるといわれており、これがポジティブな要素である「自己統合」という状態です。
一方、この時期に衰えていく自分やこれから来る死に恐怖を抱くことを「絶望」と呼びます。「自己統合」が「絶望」を上回ることが大切で、上回ったときに「賢さ」という力が得られるといわれています。
【成人期】発達課題をクリアできていないときの対処法
そもそも発達課題のクリアには個人差があることを知る
そもそも発達課題のクリアには個人差があるのが普通です。自分の年齢の発達課題が思うようにクリアできていなくても、過度に慌てる必要はありません。
人によって生まれ育った環境や性格も異なることから、苦手な部分があって、ある段階の発達課題がクリアできていない(ポジティブよりもネガティブが勝っている)、というのは自然なことだといえるでしょう。
また、発達課題の段階に該当する年齢は平均的なものなので、「私は思春期・青年期が短かった気がする」といったように、個人で感じ方が異なるのも自然です。
発達課題は、結果的にネガティブな要素よりもポジティブが勝る、ということが大切です。思うように課題をクリアできていなくてもあまり気にせず、どの部分がどういう理由でクリアできていないのかを客観的に振り返ると良いでしょう。
クリアできていないときは少し戻ってやり直す
ある段階の発達課題がクリアできていないと感じたら、少し前に戻ってやり直してみましょう。成人期以降であっても遅すぎるということはなく、気づいたときから修正可能です。
また修正する部分が明確になったとしても、短期でポジティブがネガティブを勝るということは難しいでしょう。発達課題を頭の片隅に置き、意識しながら生活することで少しずつ課題をクリアできると良いでしょう。
終わりに
エリクソンの発達理論は人間の発達を考える上でとても参考になるものです。悩みがあるときに振り返ってみると、「このときの発達課題をクリアできていないことが、今の悩みにつながっているのかも?」と思わぬ気づきを得られることがあります。悩みがある方は一度エリクソンの発達理論と自分の人生を照らし合わせてみると良いでしょう。
しかし、エリクソンの発達理論はあくまでも指標であり絶対ではありません。課題がクリアできていないと感じても過度に悩み過ぎず、その後の人生が豊かなものになるようにポジティブに変換していきましょう。
参考
エリクソンの「発達段階」を知ろう。年齢別「発達課題」はクリアできてる?|こどもまなび☆ラボ
子育てに不安を感じてる人必見!発達段階の目安になるエリクソンの発達課題|はぴまむ