私たちの人生の中には「青年期」と呼ばれる期間があります。ライフサイクルと呼ばれる人生の周期の中でも、青年期には青年期特有の発達課題があり、周囲の人間との関わりによって成長し、課題をクリアしていくのです。今回は、アメリカの発達心理学者エリクソンが提唱した青年期における発達課題について紹介します。
もくじ
青年期の発達課題について
「青年期」というと、どんなイメージを思い浮かべますか? 青年期はちょうど子供から大人へと変わる重要な期間であり、青年期ならではのさまざまな課題を抱えています。精神分析家の一人で発達心理学者であるアメリカ人のエリクソンは、人間には8つの発達段階があり、それぞれの発達段階には成長や健康に向かう前向きな発達課題と、衰退や病理へ向かっていくネガティブな危機が影響し合い、人間の発達に大きな影響を与えると説いています。
青年期は不安定でさまざまな課題を抱える時期でもあり、さらにエリクソンは青年期を「モラトリアム期間」としています。モラトリアムとは、アイデンティティの確立を先送りにする心理的猶予期間のこと。年齢では大人の仲間入りをしているものの、精神的には自己形成ができずに社会にどうかできていない人間は「モラトリウム人間」と呼ばれています。エリクソンが提唱したことで、「青年期モラトリアム」という言葉は今では世界的に認知されるようになりました。
エリクソンの発達課題とは?
エリクソンの発達段階は、乳児期(0歳~1歳6ヶ月ごろ)・幼児前期(1歳6ヶ月ごろ~4歳)・幼児後期(4~6歳)・児童期・学齢期(6~12歳)・青年期(12~22歳)・成人期(就職して結婚するまでの時期)・壮年期(子供を産み育てる時期)・老年期(子育てが終わり、退職する時期)の8つの時期に分かれています。それぞれの年齢には、発達課題と呼ばれる課題があり、例えば乳児期は「信頼感と不信感のバランス」など、クリアすべき課題があります。
青年期は目安として12~22歳となっており、小学6年生・中学1年生から成人するまで、大きな変化がある時期といえます。
青年期における発達課題とは
エリクソンによると、青年期における発達課題は、「同一性(アイデンティティ)対同一性の拡散」だといいます。同一性とは、「自分は自分である」という確信や自信のことをいい、アイデンティティの確立を意味しています。青年期になると、異性を自覚するようになったり、「自分はどんな人間で、これから何をしたいのか」に興味を持つようになります。
22歳ごろというと、ちょうど大学を卒業する時期となりますが、近年はこの青年期の期間が30歳ごろまでに当てはまると指摘する人もいるようです。成長するに従い、自分の価値観や自己認識を確立し、社会生活を送るようになりますが、発達課題とされる同一性が確立されなければ自分自身が分からなくなり、同一性の拡散、つまり人格や情緒が安定せずに社会的に孤立するようになってしまいます。
青年期の発達課題である同一性(アイデンティティ)は、その後の人生の核といっても過言ではないでしょう。人生のさまざまなイベントを経験する中で、「自分とは何か」という概念は変化しますが、その変化の基礎となるのが、青年期に確率されたアイデンティティだといいます。
発達課題をクリアできないとどうなる?
8つの発達段階の中で、もしそれぞれの発達課題をクリアできなかった場合、どのようなことが起こるのでしょうか。青年期における発達課題は「同一性(アイデンティティ)」がテーマとなりますが、アイデンティティの確立ができないまま成長していくと、自分を見失い、混乱を招く可能性もあるといいます。
青年期は学校の仲間との付き合い、進学、就職、異性との関係はもちろん、人によっては結婚や出産など、自己判断や自己決定力が求められます。対象の年齢でクリアできなくても、発達課題を意識することで自分のペースで課題をクリアしていくことは可能です。また、これまでを振り返って発達課題をクリアできていたか考えることで、新しい価値を見出すことも可能でしょう。発達課題をクリアできないからといって、必ずしも不安になる必要はなく、あくまで目安として年齢ごとの課題に取り組むのがいいでしょう。