ビオチンはサプリで補うべき?
過剰摂取のリスクは低い
普通の食生活を送る成人ではビオチン欠乏は起こらない、ということが分かりましたが、サプリメントその他でビオチンを補うことは、どう考えたらいいのでしょうか。ビオチンについて過剰摂取の害は特に報告されておらず、「食事摂取基準」でも耐容上限量は定められていません。ビオチンを過剰に摂取してもすみやかに尿中に排泄されるので、害はないとされています。余分に摂取しても害がないなら、健康のことを考えて、念のために多めに摂取しておいた方がいいのでしょうか。
「余分に摂っても排出されるから問題ない」の意味は
まず「余分に摂っても排出される」という点を考えてみましょう。排出されるということは、体に吸収されていないということです。吸収されなかったビオチンは、健康に何らポジティブな効果を及ぼしません。言ってれば、サプリメントなどでビオチンを余分に摂取するということは、サプリメントをそのままトイレに流しているのと同じことです。
摂取した分だけより健康になるわけではない
「多めに摂っておけば、排出されなかった分が効果を発揮するのでは」と考えることもできます。しかし、ビオチンの働きは摂取した量に比例して増すというわけでもありません。糖やアミノ酸の合成、エネルギー代謝などを補助する役割なので、不足すれば代謝に影響が出ますが、あればあるだけ健康増進力を発揮するというものでもないのです。
栄養機能食品の成分表示にも、摂取する上での注意事項として「本品は、多量摂取により疾病が治癒したり、より健康が増進するものではありません。1日の摂取目安量を守ってください」と記載するよう、法律で定められています。そもそもビオチンは通常食事で事足り、不足を起こさないビタミンです。それ以上に補充した場合、補充分のほとんどが余剰分になると考えていいでしょう。
参考
食品安全委員会(2014年1月)『添加物評価書 ビオチン』)
サプリメントとの付き合い方を知る
「健康食品」とは何を指すのか
現代の社会では、カプセルや錠剤の形をしたサプリメントや、健康によいとされる成分を添加した食品や飲料など、様々な健康食品が広く販売されています。日常的にサプリメントで栄養補給している人や、どうせ取るなら栄養価の高い健康食品を選ぶという人も多いでしょう。
一般に「健康食品」と呼ばれる食品や飲料、サプリメントなどは、法律上の定義はなく、広く健康の保持増進に役立つ食品として販売・利用されるもの全般を指しています。健康食品に関する国の制度としては、安全性や有効性に関する基準などを定めた「保健機能食品制度」があります。厚生労働省は「健康食品」について、下のような概念を図示しています。
(参照元:「健康食品」のホームページ|厚生労働省)
健康食品を利用する時に心に留めておきたいこと
広く利用されている健康食品ですが、「これさえ取れば大丈夫」という食品はありませんし、逆に健康食品で健康を害する例も出ています。そういった現状を憂慮し、食品安全委員会が平成27年、健康食品に関する報告書とメッセージを取りまとめました。メッセージでは一般の人々に向けて、次のような注意喚起がなされています。
- 「食品」であっても安全とは限らない
「食品」だから安全、「天然」「ナチュラル」「自然」なら安全というわけではない。
栄養素や食品についての評価は食生活の変化や科学の進展などにより変わることがあり、後になって別の面からの健康への害が分かることもある。 |
- 多量に取ると健康を害するリスクが高まる
錠剤・カプセル・粉末・顆粒の形態のサプリメントは、通常の食品よりも多量を取ってしまいやすいので注意が必要。 |
- サプリによるビタミン・ミネラルの摂取は過剰摂取のリスクがある
現在の日本では、通常の食事をしていればビタミンやミネラルの欠乏が問題になることはまれであり、サプリメントで補給する必要性を示すデータは今のところない。
むしろサプリメントからの摂りすぎが健康被害を起こす例が見られる。特にセレン、鉄、ビタミンA、ビタミンDは要注意。 |
- 「健康食品」は医薬品ではない
病気を治すものではないので、医薬品の代替にはならない。自己判断は危険。
品質管理が製造者任せなので、品質が不均一、成分や量が表示通りでない、成分が溶けないなど、問題のある製品もある。 |
- 誰かにとって良い「健康食品」が自分にとっても良いとは限らない
摂取する人の状態や摂取量・摂取期間によって、安全性や効果も変わる。
口コミや体験談、限られた条件での試験、動物や細胞を用いた実験のみでは、効果の科学的な根拠とならない。 |
参考
「健康に良い」情報に接した時の見極め方
厚生労働省による情報発信サイト「統合医療エビデンス」は、民間療法などをはじめとする相補・代替療法との向き合い方を考えるために、根拠に基づく情報を広く伝えています。その中から、「健康に良い」という情報に接した際に役立つ「情報を見極めるための10か条」を紹介しましょう。
情報を見極めるための10か条
- 「その根拠は?」とたずねよう
- 情報の偏りをチェックしよう
- 数字のトリックに注意しよう
- 出来事の「分母」を意識しよう
- いくつかの原因を考えよう
- 因果関係を見定めよう
- 比較されていることを確かめよう
- ネット情報の「うのみ」はやめよう
- 情報の出どころを確認しよう
- 物事の両面を見比べよう
医薬品は、薬事法という法律の下、人間に対する臨床研究によって効果や安全性が確認され、厳しい審査を通ったものだけが認可される。効果があるようなイメージで売られているものは、このような厳密な過程を通っていないものがほとんど。
特定の層だけを対象に行った調査や、質問の仕方や質問者との関係性によって影響された回答では、情報が歪められる可能性がある。「この治療法に効果がありましたか?」という質問は、効果が実感できず通院をやめた患者には聞けなかったかもしれない。
「半分以上の人がリピート!」「60%の人が効果を実感!」などの数字の印象操作に注意。半分はリピートがなかったのかもしれないし、40%は効果を感じなかったのかもしれない。
全体を隠して一部だけに注目が集まるようにした情報もある。5人の有効な体験談が紹介された例では、全体1000人のうち効果があったのは5人だけだったということもある。
手に入った情報の背後にいくつかの原因が隠れている可能性がある。「毎朝ジョギングをしたら風邪をひかなくなった」という話では、会話には出なくても、外出時にいつもマスクをしていたかもしれないし、手洗いやうがいを欠かさなかったのかもしれない。ジョギングのために早寝早起きをして十分な睡眠をとっていたのかもしれない。
原因と結果が逆かもしれない可能性がある。「毎朝ジョギングをしたら風邪をひかなくなった」という話では、「風邪をひかなかったから(その結果として)毎朝ジョギングを続けられた」のかもしれない。
科学的な証明に欠かせないのが「比較」。「この方法で体の調子が良くなった」という情報からは、「他の方法による場合」や「何もしなかった場合」のことは分からない。
「どこが」「いつ」出した情報なのか、オリジナルの情報なのか、コピーの場合は「もとの情報はどこにありどんな内容なのか」を確認する。政府機関や大学・研究機関の情報を優先し、サイト運営者の名前や連絡先もチェック。
「医師の研究」「学会で発表」とされた情報でも、等しく信頼できるとは限らない。研究者の所属、資金の拠出元、学会や発表雑誌の信頼性などに注意する。
情報から何かを判断する際に意識したいのが「ベネフィット(利益)とリスク(危険)の比較」。世の中に出回る情報はどうしても一方が強調されがちだが、ほとんどの治療法にはそれら2つの側面が少なからず存在する。
参考
もう一歩進んだ「情報の見極め方」
サイトはこれらの「10か条」を示した後、さらに系統だった「見極め方」として、次の4つも紹介しています。より深く知りたい人は、こちらも参照してみましょう。
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参考
まとめ
「統合医療エビデンス」は、情報を見極めた後に持つべき態度として、私たちに次のように促します。
そんななか、私たちは情報をもとに、決断して行動することになります。決断は、「するか、しないか」ですから、私たちは白黒をつけなければなりません。ここで「灰色(の情報)から白黒(の決断)へとジャンプする」ということを知っておきましょう。情報を見極めた上で、多くの事柄が決断には影響します。大切なのは、そのようにして自分でくだした決断に責任をもつことでしょう。
(引用元:情報の見極め方:情報を見極めた、その先に…情報から決断、行動へ|統合医療エビデンス)
現代の社会に氾濫する健康情報と向き合うこと、それらに惑わされず振り回されずに健康な日々を送るということは、正しい知識を得て、自分の判断指針をしっかりと持つことにほかならないのではないでしょうか。