子供が私立高校を受験したいと言ったら、保護者としては学費負担が気になります。一般的に、私立高校の学費は公立の2倍以上かかります。子供の意思を尊重し、子供にとって最適の学習環境を整えてあげることが、子供の将来につながります。「我が家にはちょっと厳しい」と思えたとしても、親としては何とか実現させてやりたいものです。2020年4月に私立高校の実質無償化制度が始まり、私立高校の経済的負担が減ります。子供の学びたい気持ちをしっかりと守り育ててあげましょう。この記事では公立と私立の学費の費用の違いや、私立で受けられる学費減免制度について解説します。
もくじ
私立高校と公立高校の学費はどれだけ違う?
そもそも、義務教育でない高校は、受験をして合格しなければ入ることができません。高校受験は、地元の公立小学校・中学校に通っていた生徒にとってはおおむね初めて、自分の進路問題に向き合う機会になります。公立がいいか私立がいいかは、子供の将来の目標によって異なりますが、現実問題としてかかる費用には違いがあります。まず、公立高校と私立高校の学習費がどれだけ違うかを見ていきましょう。
私立高校の学費は公立高校の2倍超
文部科学省は1994年から2016年まで、保護者が子供の学校教育、学校外活動にそれぞれかけている学習費を調査していました。「子供の学習費調査」で示した2016年の調査結果によると、公立高校に通う子供のために保護者が負担した学習費は年間平均で約45万円だったのに対し、私立高校に通う子供の学習費は約100万円で、公立高校の2倍を超えていることが分かっています。学校教育費だけでなく、塾や習い事などの学校外活動費も、私立高校に通う子供の方が平均で10万円以上多くかかっていました。
(結果の概要-平成28年度子供の学習費調査 2.調査結果の概要|文部科学省、表1より筆者作成)
学校教育費の違い
学校教育に関する費用を詳しく見てましょう。2016年の「子供の学習費調査」によると、全日制の公立高校の学校教育費負担は年間平均約27万円だったのに対し、私立高校は約75万円でした。費目別に見ると、私立高校が公立高校に比べ顕著に高いのは、授業料と学校納付金(入学金など)で、私立高校の学校教育費全体の約66%を占めています。その一方、公立高校の最大支出項目は通学費で、公立高校学校教育費全体の約30%に上ります。しかし、それでも金額的には私立高校への通学費用よりは安く抑えられています。
(結果の概要-平成28年度子供の学習費調査 2.調査結果の概要|文部科学省、図4-4)
なお、年間平均額が毎年、同じだけかかるわけではありません。入学金や制服・物品購入など、支出の多い初年度は支出額が最も大きくなり、受験を控え学校行事が少なくなる3年時は出費が少なくなります。例えば、私立高校の初年度の学校教育費は、100万円以上かかっています。
(結果の概要-平成28年度子供の学習費調査 2.調査結果の概要|文部科学省、表2・表5より筆者作成)
文部科学省は「子供の学習費調査」とは別に、私立の幼稚園・小中学校・高校で、初年度にかかる学費を調査しています。それによると、私立高校の初年度学費負担の平均額は、入学金16万3,272円、授業料39万9,152円、施設設備費16万8,562円で、合計73万0,986円でした。
参考
平成30年度私立高等学校等初年度授業料等の調査結果について |文部科学省
学校外活動費の違い
高校の間にかかるお金には、学校へ支払う学校教育費だけでなく、塾代や習い事など学校以外の場所でかかる学校外活動費もあります。学校外活動費は、補助学習費とその他の学校活動費に分かれます。
- 補助学習費:塾、家庭教師、家庭内学習費など
- その他の学校活動費:体験活動・地域活動、芸術文化活動、スポーツ・レクリエーション活動、教養など
(結果の概要-平成28年度子供の学習費調査 2.調査結果の概要|文部科学省、表5より筆者作成)
学校外活動費の年額平均は、公立で約17万円、私立で約29万円でした。塾などの補助学習費も、私立高校に通う生徒の方が公立高の生徒より約9万円多くなっています。私立高校の中にはていねいに受験指導するとアピールしている学校も多いですが、だからといって、私立高校に通えば塾に通わないで済むと考えるのは早計です。
上記の年額平均は3年間平均してかかるわけではありません。大学受験を控えた高校3年生に向けて、習い事にかかる費用は年々小さくなるのに対し、塾などの補助学習費は年々増加しています。
(結果の概要-平成28年度子供の学習費調査 2.調査結果の概要|文部科学省、表5より筆者作成)
公的機関による学費減免制度
公立高校に比べかなり費用負担の大きい私立高校ですが、2020年4月からその負担が軽減されます。現行の就学支援金制度が拡充され、「私立高校の実質無償化」が始まるからです。また、就学支援金制度ではカバーしきれない費用に関しても、その他の高校学費支援は充実しています。制度を具体的に見ていきましょう。
高等学校就等学支援金制度
制度設立の背景
高等学校等就学支援金とは、高等学校等就学支援金の支給に関する法律(高校無償化法)に基づいて、2010年に開始された制度です。教育に関わる経済的負担を軽減し、学ぶ意欲のある子供が納得のいく教育を受けられるよう保証することを目的としています。この制度により、国から授業料の補助が学校に直接支払われ、都道府県立・市町村立の高校に通う生徒は授業料負担がゼロとなったため、「公立高校無償化制度」と呼ばれました。
現行制度の概要
高等学校等就学支援金の対象者は、国公私立の高等学校(全日制・定時制・通信制)、高等専門学校、特別支援学校高等部、専修学校などに通う生徒で、世帯年収が910万円未満の生徒です。
支給限度額は、以下の通りです。高校の授業料が支給限度額を下回る場合は、高校の授業料の金額が支給されます。
国立高等学校、国立中等教育学校の後期課程 | 月額9,600円 |
公立高等学校(定時制)、公立中等教育学校の後期課程(定時制) | 月額2,700円 |
公立高等学校(通信制)、公立中等教育学校の後期課程(通信制) | 月額520円 |
国立・公立特別支援学校の高等部 | 月額400円 |
上記以外の支給対象高等学校等 | 月額9.900円 |
(高等学校等就学支援金制度|文部科学省より筆者作成)
私立高校の場合、年間の支給額は月額9900円×12ヶ月で約12万円で、私立高校の平均授業料40万円全額はカバーされません。ただし、保護者の所得水準によっては、月額9900円の補助金を1.5~2.5倍した額の加算があります。
支給限度額 | 加算倍率 | |
年収270万円未満 | 29万7,000円 | 2.5倍 |
年収270万~350万円程度 | 23万7,600円 | 2.0倍 |
年収350万~590万円程度 | 17万8,200円 | 1.5倍 |
(高等学校等就学支援金制度|文部科学省 より筆者作成)
2020年4月改定
高等学校等就学支援金の制度は2020年4月から改定されます。改定のポイントは2点です。
- 年収590万円未満の世帯の支給限度額を、私立高校の平均授業料を勘案した水準に引き上げる
- 所得制限の判定基準を地方税の所得割額から課税所得に変更する
「私立高校の平均授業料を勘案した水準」と分かりにくい表現になっていますが、私立高校の平均授業料約40万円に近い額までが補助されるようです。
申し込みは学校を通じて行い、補助金は国から学校へ直接支払われます。授業料が支給限度額範囲内であれば、保護者からの授業料徴収額はゼロとなるため、「私立高校の無償化制度」と呼ばれています。なお、年収590万円以上の世帯への補助額は11万8,800円ですので、それを超える分は保護者から徴収されます。さらに、年収910万円以上の世帯に対する補助はなく、全額保護者負担となります。
(参照元:高校生等への修学支援リーフレット|文部科学省)
都道府県による授業料軽減助成金
国の就学支援金の支給限度額は、全国の私立高校の平均授業料が目安となります。しかし、東京都の私立高校平均授業料は約45万円で、全国平均の約40万円より高くなっています。東京都のような地域による学費の差を埋めるのが、都道府県の授業料軽減助成金です。
名称や制度詳細は都道府県によって異なります。東京都の場合は、東京都在住であれば他県の私立高校へ通っていても助成金を受けられますが、神奈川県で助成を受けられるのは、神奈川県在住で神奈川県内の私立高校へ通っている場合のみです。申し込みは毎年6月ごろに学校を通して行われます。時期になったら、学校や都道府県庁に問い合わせてみましょう。
参考
私立高等学校等授業料軽減助成金事業|公益財団法人東京都私学財団
授業料以外の負担軽減・奨学給付金
私立高校に通うのにかかる費用は授業料だけではありません。その他にも、教科書代、教材費、学用品費、通学用品費、教科外活動費、生徒会費、PTA会費、入学学用品費、修学旅行費などさまざまな納付金があります。それらの経費の一部を、生活保護世帯と住民税非課税世帯に限り補助するのが奨学給付金です。授業料を補助する就学支援金とは異なる制度で、併用することができます。申し込みは別々に行います。
奨学給付金は、名前のとおり給付型の奨学金で、返済の必要はありません。就学支援金とは異なり、学校ではなく保護者に直接給付されます。申し込みに基づいて給付されるため、対象者は学校やお住まいの都道府県に申し込みをしましょう。
参考