本の義務教育は、公立であれば無償で通うことができます。実際に学校に通うと、さまざまなところでお金がかかるのに気づきます。義務教育は無償、とは建前にすぎないのでしょうか。制度がどのようになっているのか、再確認しましょう。
もくじ
義務教育、無償の範囲は?
まずは無償の根拠になっている法令などを見てみましょう。複数の法令が関係しているので、やや難解な運用になっているのが今の義務教育です。
日本国憲法の規定
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
2 すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
(引用元:日本国憲法 | 衆議院)
義務教育は憲法によって規定されています。親など保護者が子供に教育を受けさせる義務であること、また義務教育が無償であることが定められています。
教育基本法の規定
第4条 (義務教育) 国民は、その保護する子女に、九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
2 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。
(引用元:第4条 (義務教育) | 文部科学省)
義務教育の年限を定めているのは教育基本法です。「9年間の普通教育」がそれに当たります。
具体的に9年間どのような学校に通うのかは、「学校教育法」によって定められています。現在はそれが小学校・中学校となっています。憲法では「義務教育は、これを無償とする」としていましたが、教育基本法では「授業料は、これを徴収しない」となっています。それでは他の費用はどうなるのでしょうか。これについては、以下の国会答弁が参考になります。
【無償の範囲】
○昭和22年3月14日衆議院教育基本法案委員会
<辻田政府委員答弁> 各国の立法例等も十分研究いたしましたが、わが国の財政上の都合、その他を考慮いたしまして、今日においては授業料を徴収しないことを、憲法の「無償とする」という内容にいたしたいということにいたしまして、ここにそれらを明らかにした次第でございます。
(引用元:第4条 (義務教育) | 文部科学省)
この答弁が終戦直後の1947年であることに留意する必要があります。当時の日本は敗戦国でアメリカの占領下にあり、現在のような国力があるわけではありませんでした。当時の状態で無償にできるのは授業料が限界だったと理解する必要があるでしょう。
答弁では「今日においては授業料を徴収しないことを、憲法の『無償とする』という内容にいたしたい」としていますが、この部分について法改正がないまま、現在まで運用されています。
ただし、私立学校は授業料の徴収が認められています。私立でプラスアルファの教育を受ける分に関しては授業料を徴収しても構わないというのが政府の解釈です。
教科書無償措置法等の規定
それでは、日本における義務教育の無償範囲とは授業料だけなのでしょうか。厳密にはそうと言えません。教科書無償給与制度というものが別に作られ、教科書も無償となっています。
2.義務教育教科書無償給与制度の実施の経緯
この制度は、「義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律」(昭和37年3月31日公布、同年4月1日施行)及び「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」(昭和38年12月21日公布、同日施行)に基づき、昭和38年度に小学校第1学年について実施され、以後、学年進行方式によって毎年拡大され、昭和44年度に、小・中学校の全学年に無償給与が完成し、現在に至っています。
今日では、制度実施以来36年を経過し、国民の間に深く定着しています。
3.無償給与の対象
教科書無償給与の対象となるのは、国・公・私立の義務教育諸学校の全児童・生徒であり、その使用する全教科の教科書です。
また学年の中途で転学した児童・生徒については、転学後において使用する教科書が転学前と異なる場合に新たに教科書が給与されます。
(引用元:教科書無償給与制度 | 文部科学省)
学年の最初に教科書が無償で配られ、学年の途中で転校しても新しい教科書がまたもらえるという制度です。これは学校の設置者に関係なく定められた制度であるため、例えば学期の途中で私立に転学したり、その逆が発生したりしても無償で教科書がもらえます。
無償の範囲まとめ
ここで簡単に無償の範囲をまとめてみましょう。
無償 | 授業料(ただし公立のみ) |
教科書 |
現状無償なのは授業料と教科書のみ。給食や習字道具・文具などの学用品類、修学旅行費やPTA会費などは有償というのが日本の義務教育です。