キャリア教育の取り組みを知りたい
概要や目標については分かっても、「これを具体的にどうやって授業に取り込むの?」と疑問に思う人もいるでしょう。具体的な取り組み事例を紹介します。
事例1
株式会社日立製作所は、小学生に向けた「ユニバーサルデザイン出前授業」を行っています。
ユニバーサルデザインの具体的な事例と体験を通して学んだこと・感じたことをもとに、子どもたちがグループにわかれて使いやすい製品を考案し、発表を行う。この授業を通じて「誰もが利用しやすい生活空間や地域社会の姿」「誰もが暮らしやすい環境にするために、自分たちができること」を考えるのがねらいだ。
(引用元:【事例】ユニバーサルデザイン出前授業 | キャリア教育 総合情報サイト)
ユニバーサルデザインを題材に、「意思決定能力」「人間関係形成能力」「情報活用能力」などをバランス良く必要とする授業設計になっています。
事例2
ユニバーサルデザイン出前授業などは、1つの課題に短期間で取り組むタイプのカリキュラムです。一方、数日を使ってじっくり取り組む「子ども農山漁村交流プロジェクト」などは、よりライフスタイルやキャリアパスについて考えることができるプログラムです。
プロジェクトの特徴は、農林漁家での宿泊体験や作業体験を行う「ふるさと生活体験」。子どもたちは少人数で農林漁家の家庭に宿泊し、 ふるさと のような雰囲気の中で、農林漁家の方々と交流しながら、さまざまな体験活動を行っていく。
(引用元:【事例】子ども農山漁村交流プロジェクト | キャリア教育 総合情報サイト)
都市部育ちで1次産業になじみがない子供たちも少なくありません。さまざまな「仕事の形」を知ることで将来設計の可能性が増える体験型学習といえます。
事例3
ハンディキャップのある子供達を対象にした取り組みも進められています。
【優秀賞】肢体不自由特別支援学校における、「遠隔職場実習」「キャリア教育の出前授業」
本団体は、重度障害があり、実習先に通えない生徒に対して、自宅や学校に居ながらにして職場実習ができる「遠隔職場実習」を導入し実習している。テレワークシステムなど多様な働き方を紹介する「キャリア教育の出前授業」や、移動が困難で社会見学等に行けなくともICT機器を活用し疑似体験を行う「遠隔社会見学」の取組も実施し、社会的・職業的自立に向けた支援を行っている。
(引用元:平成30年度「キャリア教育推進連携表彰(第8回)の受賞団体における取組の概要について | 文部科学省)
キャリアプランについて考えるとき、どのくらい選択肢があるか、もしくは選択肢が存在しているのを知っているのかは非常に重要です。職種だけではなく、働き方についての知識もこれからは必要になってくるでしょう。
現場での実際の状況と現在までの評価は?
学習指導要領に明記されていることもあり、キャリア教育そのものへの取り組みは各現場で進められています。しかし、充実度についてはまだまだ課題が多いようです。今回は、小学校〜高校までの取り組みに対する評価を、国立教育政策研究所の調査結果を元にご紹介します。
小学校
約 8 割の学校がキャリア教育担当者を配置しており、小学校においてもキャリア教育推進への対応が進みつつある。しかし、担当者の多くがほかの担当との兼任であること、担当者が一人のみの割合が高いこと等の課題もある。
(引用元:小学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research 13ページ)
キャリア教育の担当教員はいるものの、専任を置けているわけではないところがほとんどだということです。また、学校全体としてのキャリア教育計画や指導計画を作ることができているところは半分程度にとどまっているということです。文科省が求めるような小学校から高校での包括的なキャリア教育というものが実現しているとは言いがたく、まだ試行錯誤の段階にあると言えるでしょう。
中学校
中学校では、約8割の学校で教育計画や指導計画が作成されており、小学校よりは具体的な取り組みが進んでいるようです。
ほぼ全ての学校にキャリア教育の担当者が配置されているが、在任期間は 1 年目が 4 割を占め、第 3 学年の学級担任等との兼任も約 4 割に及んでいる。卒業学年に焦点を当てた組織体制である可能性があり、中学校 3 年間の継続性や系統性の確保の面から改善が望まれる。
(引用元:中学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research 19ページ)
一方、キャリア教育が進路指導的な位置付けになってしまっている面もあるようです。文科省の方向性から考えると、小学校からの連続性や高校・就職などの各自の進路に向けた発展性などがこれから求められていくと言えるでしょう。
高校
生徒・卒業者ともに、多くが「就職後の離職・失業など、将来起こりうる人生上の諸リスクへの対応」について「もっと指導してほしかった」と回答している。長期的視点から将来を展望した指導の充実が課題である。
(引用元:高等学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research)
高校生になると卒業後に就職する割合も増え、「1人の大人として生きていく」ことへの意識が高まっていきます。21世紀に入り働く環境が大幅に変わったと実感している親も多く、これからの時代をどう生き抜いていけばいいのか不安に思うことも少なくないようです。
これらこそキャリア教育が主眼にしているキャリアに対する価値観や態度が重要になってきます。これからのキャリア教育は体験などだけでなく、キャリアに対する価値観の醸成をさらに行っていく必要があると言えるでしょう。
まとめ
大人世代には耳慣れない「キャリア教育」というカリキュラムについて、概要や具体例を開設しました。まだまだ課題も多いプログラムですが、これからの子供たちの生きる力をはぐくむ授業作りが期待されています。
参考
新たな学習指導要領におけるキャリア教育 | 文部科学省
キャリア教育 | 文部科学省
キャリア教育とは何か | 文部科学省
第1章 キャリア教育・職業教育の課題と基本的方向性 | 文部科学省
【事例】ユニバーサルデザイン出前授業 | キャリア教育 総合情報サイト
【事例】子ども農山漁村交流プロジェクト | キャリア教育 総合情報サイト
平成30年度「キャリア教育推進連携表彰(第8回)の受賞団体における取組の概要について | 文部科学省
キャリア教育・進路指導に関する総合的実態調査第一次報告書 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
小学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
中学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
高等学校におけるキャリア教育の現状と課題 | 国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research