太宰治の代表作の1つである『人間失格』。本人の体験を色濃く反映した作風は、子供に読ませるのにはまだ少し早すぎるのでは……と懸念する親もいるかもしれません。この記事では読書感想文の本選びに役立つよう、あらすじや書き方について解説します。ぜひ参考にしてみてください。
もくじ
『人間失格』登場人物とあらすじ
まずは登場人物とあらすじをご紹介します。ここから先は内容に関わる説明がありますので、未読の子供には読ませないことをおすすめします。なお、この記事では青空文庫版の『人間失格』(底本:『人間失格』新潮社 1985年1月30日100刷改版)を使用しています。
登場人物紹介
私:葉蔵の手記を入手し、「はしがき」「あとがき」を書く。
大庭葉蔵:主人公。手記部分での一人称は「自分」。東北の旧家出身で東京に進学するなど、太宰との共通点が見られる。「道化の華」の主人公と同名だが別人物。
竹一:旧制中学の同級生。葉蔵の将来を2つ予測する。
堀木正雄:東京生まれの画学生。葉蔵の悪友。
ツネ子:銀座にあるカフェーの女給。葉蔵と入水自殺を図る。
ヒラメ(渋田):葉蔵の父と懇意にしていた骨董商。自殺未遂後の葉蔵を預かる。
シヅ子:新宿の出版社に勤める記者。娘のシゲ子と2人暮らしをしている。
銀座のスタンド・バアのマダム:葉蔵が居候する女性。のちに葉蔵の手記を「私」に手渡す。
ヨシ子:葉蔵の内縁の妻。
あらすじ
大庭葉蔵は東北の旧家に生まれ、大家族と使用人が大勢いる環境で育ちます。子供のころから周りとの感覚の乖離に苦しみます。布団のカバーが実用的なものと分からず、つまらない装飾をするものだと思ったり、空腹感が理解できなかったりします。
また、人との関係性も葉蔵にとってはよく分からないものです。家族であっても他人は恐ろしいものだと感じ、どのように会話をすればいいのかと悩みます。その結果、自分が道化になって笑われることでなんとかコミュニケーションを取ろうとする幼少期でした。
旧制中学進学とともに下宿を始めた葉蔵は、ここでも道化になることで他人とコミュニケーションをなんとか取ろうとします。勉強はよくできたため尊敬のまなざしを受けることもありましたが、自分が何か失敗することで尊敬が侮蔑に変わるのではないかと恐れます。
葉蔵がわざと道化ているのだということに気づいた竹一という少年を、葉蔵はなんとか懐柔しようとします。次第に仲良くなった竹一は「お前は立派な画家になる」「お前は女を惚れさせる」という予言めいた予測をします。
旧制高校(現在の大学教養課程)進学のため葉蔵は上京します。授業をさぼりがちになり、デッサン教室に入り浸るようになった葉蔵は堀木という悪友を得ます。酒・煙草・女を覚えた葉蔵は、当時非合法であった共産主義の活動に関わるようになります。
しかし活動が忙しくなると嫌気がさし、逃げるために死ぬことにします。ツネ子と一緒に鎌倉の海に入水しますが、葉蔵だけが生き残ります。
高校退学になり、ヒラメの家で謹慎になる葉蔵でしたが、ある日仕事の相談をすると言って抜け出します。堀木に会いにいくのですが冷たくあしらわれてしまいました。しかし、そこで出会ったシヅ子の家に居候するようになり、子供向けの漫画を描く仕事を手に入れます。
再び飲み歩くようになった葉蔵は、あることをきっかけに出奔し銀座のスタンド・バアのマダムの元に身を寄せます。向かいの煙草屋の娘ヨシ子と仲良くなり、内縁の妻として迎えます。
しかし、あるとき出入りの商売人がヨシ子を襲っているところを見てしまい、それをきっかけにさらに酒に溺れるようになります。その後も睡眠薬で自殺を図ったり、モルヒネを乱用したりするようになります。いよいよ自殺しようという意思を固めたとき、ヒラメがやってきて葉蔵を病院に連れていきます。そこは精神科の閉鎖病棟でした。
葉蔵は自分がとうとう人間でもなくなった「人間失格」であると感じます。しかし後年、銀座のマダムは葉蔵のことを振り返って「神様みたいないい子でした」と言うのでした。
有名なエピソード
「恥の多い生涯を送って来ました。」という書き出しが有名です。タイトルの「人間失格」という言葉は最後に登場するため、読者は「何が人間失格なのか」という問いをぶらさげたまま読了することになるでしょう。
「私」があるとき手に入れた3つの手記をもとに書かれたという体裁になっている本書は、細部は異なりますが太宰治本人の体験が色濃く反映されています。人間に対する恐怖・左翼活動・複数の女性との関係・薬物中毒・自殺未遂などは太宰作品でたびたび繰り返される題材です。