子供に縄跳びを教えるには?指導のコツとやる気サポートのための知識 - cocoiro(ココイロ) - Page 2

縄跳びの指導方法

縄跳びの運動技術の特質をふまえて体系的に習得させる

三井登氏は前出の論文『幼児期の運動遊びにおける指導法の課題』の中で、これまで提唱されてきた運動遊びの指導法について、縄跳びを事例に課題を検討しました。三井氏は、運動遊びを指導する際には、それぞれの運動遊びの目的と運動の技術的な特質を明らかにした上で、指導法を体系化することが大切だと述べています。

そのことで、頑張らせる指導やドリル的方法の指導法から解放されるのである。

(引用元:三井登(2013年)『幼児期の運動遊びにおける指導法の課題』帯広大谷短期大学紀要 No.50

三井氏が具体例として取り上げて検討を加えたのは、次の2つの縄跳び指導法です。

指導方法①:段階と運動パターンに応じた援助方法

こちらは、前出の青野光子氏が提唱した指導法です。青野氏は、縄跳び運動の到達度を5段階に分け、その段階ごとに、修正が必要と思われる部分的な動きに応じたサポートの方法を挙げました。それについて三井氏は、次のように指摘しています。

①縄跳び遊びでどんな力をつけるのかといった目的が明確でない

②指導・援助のポイントが具体的でない

③指導方法が部分的な改善に留まっていて系統性が見られない

指導方法②:腕と足の協調を自然に身につける方法

こちらは、豊田泰代氏らが前出の研究発表で示した指導法です。三井氏は「縄跳び遊びの指導法で参考にすべきもう一つの研究」として紹介しています。

豊田氏らは、縄跳びはジャンプと同時に縄を振り下ろすという、子供の自然な動きに反する動作に難しさがあると分析しました。そこで見つけだされた指導法が、腕を振り下ろすことに意識を集中させ、足の方ではジャンプの代わりによりやさしい二歩走りに置き換える、という方法です。このことによって子供は、腕を振り下ろすという難しい動作を身につけながら、腕と足の協調を自然なリズムの中で身につけることができるようになります。

三井氏はこの指導法を、次のように評価しています。

「腕の振り下ろし動作」が幼児にとって難しい運動技術だと捉えている研究は他にもあるが、「動き全体を捉えながら指導」することに着目し、縄跳び指導の体系として確立した点は他の研究にはない成果といえる。

(引用元:三井登(2013年)『幼児期の運動遊びにおける指導法の課題』帯広大谷短期大学紀要 No.50

運動遊びと子供の発達

3~6歳は子供の運動能力が著しく発達する時期

縄跳びを始める3~6歳という年頃は、子供の運動能力が著しい発達を見せる時期です。智原江美氏は論文『幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方』で、子供の運動能力の発達について代表的な理論を整理し紹介しています。

ガラヒューは人間の運動を発達的な視点から捉え、ステップアップしていく年齢ごとの段階に分類しました。胎児期から1歳頃までの「反射的な運動の段階」、3歳頃までの「初歩的な運動の段階」を経て、10歳頃までの「基本的運動の段階」、それ以降の「専門的な運動の段階」と発展していきます。運動技能の基本要素は「基本的な運動の段階」に当たる5歳ごろには完成しているといいます。

スキャモンは子供の成長を体の発達から検討し、一般型・神経型・リンパ型・生殖型の4つのパターンに分けて臓器別発育曲線を作成しました。運動能力の発達に関わる神経系の発育は、3~4歳ごろに著しい伸びを見せます。神経系の発育は、平衡性や敏しょう性など、滑らかでしなやかな動きを作る「調整力」と呼ばれる能力を伸ばしてくれるのです。

ブラウンは「子どもの運動技能発達のピラミッド」を表し、1~5歳ごろまでの「基本動作」を習得する段階と、5~7歳頃までの「より複雑な動作への移行」の時期との間には、「運動技能熟達の障壁」が存在すると述べました。成長とともに新しい運動技術を獲得するには、5歳ごろまでにさまざまな動きを体験する機会を持つことが重要だという主張です。

縄跳びという複雑な動きを備える運動遊びをこの時期に体験することは、子供の体や運動能力の発達を大いに促進し、将来の運動能力の素地をも作ってくれる、大事な体験だと言えるでしょう。

参考

智原江美(2011年)『幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方』京都光華女子大学短期大学部研究紀要 No.49

遊びの中での幅広い運動経験が動きの習得と楽しさにつながる

智原氏は、幼児期に体験しておくべき動きについて、次の3つのポイントを挙げています。

①頭が下の姿勢から元の姿勢に戻る逆さの感覚や、マットや鉄棒など回転から通常の状態に戻る回転感覚など、さまざまな「体位感覚」を経験すること

②「走る・歩く」量を日常の活動の中で確保すること

③スキップやギャロップ、3拍子の動きなど、いろいろなリズムでの動きを経験すること

これらの動きを子供が経験する際には、決してトレーニング的なものではあってはならず、日常の遊びの中で幅広い運動遊びを経験することによって、自然に多くの動きを習得することが望ましいと述べています。

運動遊びの中で重要なことは、運動の楽しさを味わい自発的に運動に取り組む意欲が持てるような環境の設定、教材の提供、保育者のかかわりが重要になるのである。

(引用元:智原江美(2011年)『幼児期の発育発達からみた運動遊びの考え方』京都光華女子大学短期大学部研究紀要 No.49

縄跳び遊びが子供にもたらしてくれる心の成長

縄跳びという運動遊びが子供にもたらしてくれるものは、体や運動能力の発達だけではありません。縄跳びに取り組むという経験と跳べるようになるという達成までの過程が、子供の自信や意欲を大きく育ててくれます。

縄跳び遊びをする幼稚園児を観察した事例研究『幼児の発達と学びの連続性について-「トベール」を使った短なわとびの実践から-』から、子供の心がどのように変化していくのか、そのプロセスを追ってみましょう。できなかった縄跳びができるようになっていく子供たちの様子から、次のような変化が見て取れます。

①できそうな手ごたえから、頑張ってやろうという挑戦心が喚起される

②「できた」という達成感から自信が持てるようになり、気持ちが安定する

③友達や教師の応援、受容、承認により、子供同士につながりが生まれる

④それらの経験が次の意欲を生み出し、新たな試み・挑戦につながる

目的は「縄跳びを跳ぶこと」ではありません。縄跳びを跳べるようになるその過程で、子供の心に刻まれる挑戦や達成、自信、喜びの共有などの経験が、子供の次なる発達や学びを引き出す、その連続を作り出す指導が大切であると、論文は結論付けています。

参考

木村美千代ら(2007年)『幼児の発達と学びの連続性について-「トベール」を使った短なわとびの実践から-』幼児教育研究 No.13